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覆面の風来坊 ~不二の盟友に捧げる者~  作者: バガボンド
第1部・恋愛
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第6話 盆踊り2(通常版)

「ミスターT様、夏休みのご予定は?」


 ショッピングモールを散策する。表に出ないとあって目に入るものが新鮮に見えるのか、面白そうに周りを窺っている。その中にあった旅行代理店、壁に掲示されているリストを見て話し掛けてきた。


「予定はないなぁ~、多分エシェラに引っ張り回されると思う。海に行きたいとか言っていたから。」

「海ですか・・・。」

「エリシェ君は行った事は?」

「恐れながらありません・・・。」


 可哀想に。大企業の社長令嬢となると自由に行動ができない。それこそシークレットサービスが複数着いて護衛するのだろう。自分1人で動けないのは辛い・・・。


「みんなで一緒に海にでもいくか。」

「あ・・よろしいのですか?」

「君1人だけ連れて行ったら、エシェラ達に何言われるか分かったもんじゃない。ここは勘弁してくれ。」

「あ・・いえ、嬉しいです。ありがとうございます。」


 この外出が彼女にとって大きな第一歩だろう。思い切って切り出したのは、自分を変革したいという現れだ。それに少しだけ背中を押せば大きく飛翔する。エリシェが大人へと成長する大切な瞬間か。



 その後も駅ビル内を散策した。こうなるとデートに近いものだが、彼女の方は意識はしていないようだ。何れ彼女から直接言われる時が来るだろうが、その時はその時で心から応じるだけだろう。


 エシェラやラフィナとのコミュニケーションが、異性との関係を慣れさせてくれている。本当に感謝に堪えないわ・・・。




 それから数日後、盆踊り当日。朝から大規模フリーマーケットとあって、公園は人でごった返している。エシェラ達も使わなくなった道具などを出している。というよりか、売る物より買う物の方が多いのはご愛嬌かな。


 俺の方も見て回ったのだが、こういったショップを見れば目移りしてしまうのは言うまでもない。それに出店者さんの懐も潤うし、自然の流れで進むのが一番だろう。



 ちなみにフリーマーケットの傍らに模擬店も出ていた。そこにエイラ達が簡易レミセンなるオープンカフェを出したのだ。彼女達のファン以外にも気楽に寄れるとあってか、凄まじいお客さんが来店されていた。


 この簡易レミセンの案はトーマスCも呆気に取られるものだったようで、流石は女性ならではの視点による発案だろう。



 時は流れ夕方へ。公園の大広場では盆踊りが始まりだした。恒例の音楽が風に乗って流れてくる。それだけ大規模だというのがよく分かる。


 数多くの子供達がごった返す会場。その姿を頬笑ましい目線で見つめながら、一服するのが堪らなく美味い・・・。




「その暑苦しい姿、どうにかなりませんでしたか・・・。」

「夏場でも長袖長ズボンはモットーだよ。」

「いいじゃないですか、彼っぽくって。」


 エシェラもラフィナも浴衣姿だ。他にターリュ・ミュック、アサミ・アユミも同様である。ウィンNやウィレナ、ユウNとアイNも浴衣。ユキヤNは俺と同じ普段着だが、断然涼しい格好である。


「ナツミYUさんとシューム先輩も一緒で?」

「偶には息抜きしないとねぇ。」

「そうですよ。」


 ユリコYは普段着だが、前見たスーツ姿ではなくタンクトップにミニスカートと女らしい姿。シュームとナツミYUも普段着だが、彼女に対抗してかミニスカートだ。張り合ったって何になるんだか・・・。


 不思議なのがナツミYUだ。年下のシュームに頭が上がらない雰囲気だ。彼女より断然年上なのに、これは異様な光景だ。やはりシュームは只者ではない。


「遊んでくるね~。」

「ちょっと、アンタ1人で大丈夫?」

「見張りならやるよ~。」

「小母ちゃん任せて~。」


 小さな浴衣に身を包んだリュリアが脱兎の如く駆け出した。それに慌てるシュームだが、ターリュとミュックが機転を利かせて付いて行ってくれた。双子の方も幼い雰囲気なのだが、リュリアを前にしてはお姉さんそのものである。



「こんばんは。」


 公園の入り口まで行くと、浴衣姿のエリシェが待っていた。紫の生地に黄色い星が描かれた可愛らしいもの。また長髪を後ろで束ね、それをロール状に纏めている。また普段はしない化粧までしているためか、今までの彼女とは比べ物にならないほど美しい。


「浴衣似合ってるよ。」

「あ・・ありがとう・・・。」


 頬を染めて礼を述べるエリシェ。普段より大人びいた姿がより一層少女を女性へと引き立たせている。


「何よ、私には誉めの言葉も掛けないくせにっ!」

「悪い、エシェラ君も可愛いよ。」

「何を今更・・・。」


 満更でもない、誉められれば嬉しい仕草をしているくせに・・・。これも嫉妬心だろうな。でも嬉しい事には変わりない、素直に感謝しよう。




「兄貴も大変だなぁ。」


 他の女性陣はそれぞれの出店などを満喫している。ユキヤNは思い人に引っ張りだこだが、実に嬉しそうである。


 俺はと言うとアマギHと近くの椅子に腰を掛け、出店で買った焼そばやお好み焼きを頬張っている。こういう出店の食べ物は普段のそれと違って格別だ。


「誠心誠意応じないとね。」

「言えてらぁ。」


 言葉はまだヤンキー口調が多いが、数ヶ月前の彼とは比べ物にならないほどしっかりしてる。自分から進んで変革を望んで実践しているため、変わる姿も凄まじく早い。


「こんな俺達の存在が役立ってる。これも兄貴があの時動いてくれなかったら、実現できなかった。本当に感謝しているよ。」


 改めて当時の礼を述べられる。身体を張ったお節介な説得が、ここまで発展していくのには驚きだろう。変革は些細な事で起こるのだから。


「それは言わない約束だ。俺は君の背中を押しただけに過ぎない。変革できたのは、君が強く願っていたからだよ。」

「ああ、そうだった。ありがとう。」


 自分の願っていた事が実現できた。今の彼は歓喜に満ち溢れているだろう。心配無用というやつだな。


「もしかしたら町会の会長を任されるかも知れない。」

「凄いじゃないか。」


 殆ど見ず知らずの人物に、地元の町会長を任される事など在り得ない。それだけ彼の努力する姿やカリスマ的存在が評価されたのだろうな。


「俺に担えるかどうか不安だが・・・。」

「常々日々に強き給え、だよ。」

「だね、分かった。」


 今の彼ならどの役職だろうが充分担える。自分の原点回帰が明確に定まっているのなら、達成できない事など絶対にない。




 酒ではない小さな飲み会をしていると、何やら後ろの方が騒がしい。振り返ると女の子が5人の男性に絡まれている。このシチュエーションはエリシェの時と同じか。何とも・・・。


「そこ、何やってんだ。嫌がってるじゃないか。」


 カキ氷片手にその場へ向かう。アマギHも面白そうだと付いて来た。何なんだか・・・。しかしこういった抗争には彼の力は打って付けだろうな。


「邪魔するな!」

「そうはいかねぇ、レディに対して失礼な馬鹿野郎はぶっ潰す!」


 焼そばを平らげて強く叫ぶ。彼の場合は間違った奴は徹底的に叩き潰すの意味合いだろう。だが5人は無謀にもアマギHに殴り掛かってきた。おいおい、相手は・・・。




 言わんこっちゃない。自分からは殴らず、相手の力を利用したカウンターで撃退。この方が正当防衛と主張できるだろう。アマギHもここら辺はしっかりと考えて対応している。流石は元最強の暴走族のヘッドだ。


「クソッ・・・、テメェ憶えてろよ・・・。この辺で有名な不良グループを敵に回したんだ。覚悟はできるだろうなっ!」

「・・・お前さん、彼の顔に見覚えないのかね。だとしたらとんでもない相手に喧嘩をふっかけてる事になるんだが・・・。」

「だからどうしたっ!」

「俺様達をなめるなっ!」


 なるほど。家に帰らず社会情勢を見ていない連中もいる訳だ。不良グループなら必ずアマギHの顔と所属する躯屡聖堕の名前を知ってる筈なんだが。何だか哀れに思える・・・。



「あ、いたいた。アマギH、躯屡聖堕のリーダー格が会いたいって連絡が。」


 救世主の到来か。ユリコYが口走った躯屡聖堕という単語を聞いた5人は、案の定青褪めだした。こういった場合は本当に役に立つよなぁ・・・。


「く・・くく・・・躯屡聖堕?!」

「あ・・あの最凶最悪の暴走集団かっ!」


 暴走集団・・・、どこでどう間違えて憶えたんだ・・・。だがそれに悪乗りしたアマギHは、何時になく不気味な表情を浮かべている。


「な~に心配するな、今夜出会った事は忘れないだろうよ。さあ・・・楽しもうぜ。」


 あ~あ、ヒール役まっしぐらだ。一目散に逃げていく5人。この場合は可哀想に見えるな。しかし子供も大人も恐怖に慄く躯屡聖堕の存在。一体どういった経緯でこうなるんだ・・・。




「大丈夫か?」

「はい・・・。」

「あら、ナリカだったのか。」

「あ、副会長さん。それにユリコYさんも。」


 事が済んでから女の子の安否を気にする。だがアマギHは彼女の事を知っていた。彼女が話す言葉から、町会関連の人物なのだと窺えた。


「知り合いだったのか。」

「ここの町会の会長の娘だよ。」

「あ・・・その覆面、もしかして副会長が言ってた風来坊さんで?」

「ま・・まあ、その通りで・・・。」


 アマギHが語る。女の子は雷同菜理佳。町会の会長の娘で、彼とはよく会っているとの事。役員会議などで母親と一緒に出席しているため、その時に知り合いになったようだ。


「また何で絡まれてたん?」

「アンタ、見る目ないねぇ~。これだけの美人だったらナンパしたくなるわよ。」

「ハハッ、相変わらずですね。」


 天然なのかどうか、アマギHは異性に対して同性の目線で応対しているようだ。まあ彼の彼女であるユリコYが男っぽいからなぁ・・・、そう見えても仕方がないのだろう。


「で、いいのかアマギH君。リーダー格と会わなくても?」

「ああ先輩、あれは嘘。私達の事を言い辛そうだったから吹っ掛けた訳よ。」

「・・・何とも・・・。」


 ユリコYなりの気配りなのだろう。彼女はアマギHと二人三脚と言える。欠点を補い合っているからこそ、リーダーとして成り立つのだろうから。




 その後アマギHとユリコYはナリカに引っ張られ、一緒に出店を回りだす。それにまるで兄姉のように接している。その表情は穏やかで、見ている方も癒される。案外子供好きなのかもな。


 俺はカキ氷を食べ終わると、そのまま先程の椅子に腰を掛けて一服。3人の間に水を差しては悪い。ここは引くべきだろう。



「こらぁ~、何やってるんですか~!」

「やっと見つけましたよ。」

「一緒に回りましょう。」


 いや、俺にもしっかりパートナーがいた。笑顔を絶やさないエシェラ・ラフィナ・エリシェが駆け付けてくれた。周りの明かりが彼女達の浴衣姿を照らす。不思議な魔法に掛かったかのように、物凄く大人びいて見える。




 その後は3人に引っ張りまわされる。疲れを知らないといった雰囲気で動き回り、流石の俺でも参った。真女性の強さには敵わないな・・・。


 でも構わないか、楽しい夏の一時を過ごせる事に。この場合は素直に感謝すべきだろう。


    第1部・第7話へと続く。

 躯屡聖堕の名は伊達じゃない、でしょうか@@; この名前は可成り前に、ネタで思い付いたものでしたが・・・(-∞-) 警護者や探索者の躯屡聖堕フリーランス及び、躯屡聖堕チームや躯屡聖堕メンバーの起源となりますね><; しかし・・・描写が殺風景ですわ@@; 13年前となると、このぐらいの手腕だったのかと・・・。まあ今もそうですが、何とも><;

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