第3話 強力な助っ人4 もう1つの家族団欒(通常版)
「ミスターTさんからお聞きしています。リヴュアスさんもプロレスが大好きだと。」
「メアディル様もですか?」
「アメリカはプロレスの聖地ですよ。かの有名なプロレス団体のアルエキファイタ。この発祥地ですから。」
メアディルの言葉に瞳を輝かせているリヴュアス。今もプロレス好きは変わらずで、暇があれば俺を相手に組み手をしているぐらいである。
「以前輸送業務を担当した時、アルエキファイタの移動を手伝った事があるよ。まるでサーカスの大移動みたいなものだったわ。」
「大陸を巡業しますからね。移動手段は陸海空全ての乗り物を駆使しますし。」
「ミスタービィルガの手腕も凄まじいものですね。」
このアルエキファイタを運営しているのは、今年35歳のビィルガ=レーアネイガスである。10年ほど前か、若いながらもプロレス団体を起業した猛者だ。
「ビィルガはまだ35だよな・・・、俺の歳が行き過ぎているのが分かるわ・・・。」
「何を仰いますか。これだけの若々しい容姿をされながら、まるで高齢者のような発言は見っとも無いですよ。」
コーヒーを啜りながら語るメアディル。というか彼女には俺の年齢を語っていなかったか。そう言えばヒッチハイク時は根ほり葉ほり語る機会がなかったな。
「フフッ、外見に騙されたね。俺は今年で54だよ。」
「えぇーっ!!!!!」
外見の老化が訪れない特異体質故に、30代の若さを維持し続けている。それをメアディルに告げると、声を裏返して驚愕しだした。
「て・・・てっきり28歳ぐらいかと・・・。」
「そうなるとシュリムとシュリナは俺が5歳の時に出産した子供になるぞ・・・。」
24歳のヴェアデュラは養子縁組で育てた娘だが、それ以外の娘達は実の子供達である。特にシュリムとシュリナが長女となる訳で、メアディルの推測が事実なら大変な年齢で出産した形になろう。
「でも・・・今も19年前と全く変わらない姿には驚きです。」
「ですよね。私も徐々に老化が始まっているのに、マスターは全く変わりませんから。」
「俺の方はお前達を見ているのが辛いんだがね・・・。」
シュームにも告げたが、老化が現れた姿を見るのは辛い。俺とヴァルシェヴラーム、そして25人の娘達だけが外見の老化が訪れないのだから。
「そこは心こそ大切なれ、ですよ。心にシワを作らなければ、永遠の若さを保つ事が可能ですから。」
「用はブレイブハートですよ。」
「そうだね。」
リヴュアスは他の妻達が語る言葉を繰り返し、メアディルはアメリカ用語的な言葉で返す。それに小さく頭を下げた。こうやって何げない言葉でも、お互いに十分励まされるのだから。
その後も雑談は続く。トーマスRとメアデュナは一旦新居の方へと戻って行く。引っ越しをしてきたのはつい先日で、今も寝る場がないほど散らかっていると言う。
メアディルの方は今日アメリカから来日しており、まだ住居を探していないらしい。それを伺ったリヴュアスが、暫く3階の自宅へ泊まるように催促しだしたのだ。
これには否定するかと思っていたが、すんなり承諾してしまった彼女。それに間違いなく俺に対して好意を抱いているからか、少しでも傍にいたいと思っているようだ。
本店レミセンをレディ・マスター達に任せて、俺達は自室へと引き上げる。すると先に引き上げたメアディルが、ディルヴェズLKの娘達を背中に乗せてお馬さんごっこをしていた。それにハラハラしている母のディルヴェズLKだった。
今日からエシュリオスとエフィーシュの2人が遠征公演という事で、お目付役のリュアとリュオを筆頭に他の8人の娘達は里帰りをしている。
「申し訳ありません・・・。」
「気にしなくていいですよ。私も子供が大好きですから。」
メアディルの背中で大喜びしているティルシェヌとティルシェム。まだ3歳だというのに、体格は小学生クラスの巨体を誇っている。そんな2人を難なく乗せて歩き回れるメアディル自身にも驚いてしまうわ。
「子供好きな人間に悪い人間はいない。いや、悪人でも我が子には情を注ぐか。問題はそこに至るまでの道程がどうかという事になるよな。」
「それは私達が死力を尽くして努力すれば済む事ですよ。」
「この子達が私達を超える存在になるためには、私達が手本となり生きねばなりません。」
大人顔負けの発言をするリュアとリュオ。エシュリオスとエフィーシュに触発されたのか、今まで以上に据わった目線が実に頼もしい。それに最大限慕っているのが、後から生まれた10人の娘達なのだから。
「リュアさんとリュオさんは、いいお母さんになれますよ。」
「問題は2人を扱える野郎が現れるかという事だな・・・。」
「言えてます。」
「じゃじゃ馬慣らしとはこの事です。」
メアディルが語る内容に、冗談を踏まえて返す俺。それに賛同するリュアとリュオ。娘達の中で手が付けられないほどのじゃじゃ馬娘である。その2人に付いていける相方が現れるかという問題もある。
「私~父ちゃんと結婚する~っ!」
「私も~っ!」
「おうおう、嬉しいねぇ~。」
ある程度認知度が得られてきたリヴュアスの娘、リヴュミナとリヴュミヌ。その2人が俺と結婚すると語りだした。それに嬉しいと語ってあげたら、何とリヴュアスに殺気のある視線で睨まれた。ここまで嫉妬されるとたまったもんじゃないわ・・・。
その後は母親に甘えだす娘達。今まで遊んで貰っていたメアディルそっちのけで、自分達の母親に心から身を委ねだした。
「結局は原点回帰、か。」
「仕方がありませんよ。男女問わず、子供は母親に甘えたがりますし。父親だけが蚊帳の外となりますから。」
久し振りに母親達に甘えている姿を見つめながら、俺とメアディルは静かにトランプゲームに勤しんでいた。2人だけのシンプルなものだが、静かに暇を潰すには充分だろう。
「私も子供の頃はメアデュナ以上に母親に甘えていましたが、何時の間にか独り立ちするようになっていきましたし。」
「何れ・・・25人の娘達も巣立って行くんだよな・・・。」
「大丈夫ですよ。その時は私が埋め合わせをしますから。」
「真顔で言うかね・・・。」
ある意味告白に近い事を平気で語るメアディル。それに一瞬ギョッとし、恐る恐る他の女性陣を見渡す。だが5人の愛しい女性達は子供達に付きっ切りで、こちらには一切気付いていないようである。というかこういった事には大賛成のような雰囲気である。何とも・・・。
「貴方の存在は私の人生を変革させたのですよ。心からの恩人と言っても言い切れない程の恩があるのです。私にできる事は何でもしてあげたい。それが私なりの報恩です。」
トランプを切りながら熱のある発言をするメアディル。それだけヒッチハイクから今に至るまでの間の出来事は、彼女にとって大きなものだったのだろう。
「ならさ・・・一緒に困っている人達を助けていこう。手の届く範囲内だけでもいい、それで助けられる人がいるなら・・・。俺達のこれからの生き様は、人に尽くしていく存在じゃなければならないからさ。」
「愚問です。私達家族やシェヴィーナ財団の総力を挙げて、出来得る限りの事はしていくつもりですよ。それに貴方が挑まれる戦いに、少しでもお役に立てるなら本望です。」
「ありがとう・・・。」
不意に涙が流れ出す。50歳を過ぎた辺りから涙脆くなってきて参る。そんな俺の手に自分の手を沿えるメアディル。出会ったのは一番遅い女傑だが、その存在は凄まじい程に大きい。
第3話・5へ続く。
家族団欒の様相と。一夫多妻の様相ですが、フィクション作品なのでご了承を><; まあ本題は、後に挙げる絆の部分ですが。そこを盛り上げるためのスパイスでしかありませんので。
風来坊は、とにもかくにも盟友に捧げる作品。劇中では和気藹々と進んでいますが、実際には筆舌し尽くし難い様相の連続でした。そんな彼らに少しでも力になれればと思い、同作を執筆しだした訳です。
自分の生き様を根底から変えてくれた彼らには、本当に感謝し切れない恩があります。今後も彼らの存在を、フィクションの世界観ではありますが具現化し続けられれば幸いです。