第4話 修学旅行1(通常版)
まだ右腕全体の傷は癒えない。既に6月下旬になり、7月へと入ろうとしている。梅雨の時期真っ盛りで、相変わらずのシトシト雨だ。湿気が凄まじい・・・。
あれからラフィナは直ぐに立ち直った。受けた傷は大きいが、俺が支えた事で一気に回復。これは単に彼女自身の精神力の強さだろう。そうでなければ当面は動けない筈だ。
一心不乱とも言える行動を続ける。歌手になるという夢を叶えるために、日々練習に明け暮れているようだ。無論その想いは俺に向けられているが、彼女が進めるなら構わない。まあエシェラに嫉妬を抱かれるのは仕方がないが。何とも・・・。
あの後の男子学生3人は腹癒せに万引や恐喝、はたまた集団レイプまでにも手を染めた。あのまま引き下がっていればよかったのだが、もう愚者道まっしぐらだな。
警察に補導されると、出るわ出るわ過去の犯罪の数々。特に決定打はホームレスを集団虐待して殺害寸前まで追い込んだという。あれでよくも法学部に入れたものだ。
まあ逆を言えば救われたのかも知れない。ラフィナが奴らにオモチャにされていたのなら、罪を1つ増やした事になるのだから。
犯罪の目は、根元を断ち切るのが現状の打開策。それでもまだまだ犯罪は数多い・・・。
俺も傷害罪として警察に出頭したが、ラフィナを救ったという事で正当防衛という事に。正当防衛で突き通せたのは、裏でナツミYUが根回しをしたというのはご愛嬌だろうか。
酒を飲み交わした時に彼女が言っていた、自分の事のように滅茶苦茶激怒してたしな。まあ俺は酒が飲めないため、ナツミYUにお礼としてご馳走したという事になるが・・・。
俺はあの3人を絶対に許さない。日の目の場に出てきて、再び誰かを傷付けるような事があれば・・・。それが自分が知る女性達だったら・・・、間違いなく殺すだろうな・・・。まあ殺すという発言は大袈裟だけどな・・・。何とも・・・。
そろそろ修学旅行の気節だ。エシェラ達は北海道、ラフィナ達は沖縄。北と南に分かれるほどの範囲の広さ、これもナツミYUの配慮らしい。
そこまで学園全体を統括できるほどの力があるのもまた凄いがな・・・。
「どこいく~?」
「世界遺産の知床にいこうか~。」
「お任せします。」
喫茶店にて修学旅行の打ち合わせをしている。北海道側が行動範囲の彼女達。ターリュとミュックが行き先を選び、それをアサミとアユミがチェックする。エシェラは会計係なのか、引っ切り無しに電卓を打ってノートに記述していた。
「西表山猫みたいなぁ。」
「丸1日費やさないと行けませんよ。」
「何とかなるでしょう。」
こちらは沖縄側が行動範囲。島と島の間の移動もある事から、時間との勝負が重要視されるだろう。高校組と大学組と分かれて会議をしているため、飛び出す発言は非常に面白い。
というか今になって分かったのだが、ウィレナはウィンN達より年下。学年が異なる場合は一緒に赴けない。ところがウィレナは早生まれらしく、ギリギリ同じ学年に入ったという事。なるほど、だから妹のように可愛がられている訳か・・・。
「右腕が完全なら、ツーリングでもしたいんだが。」
「今はじっとしておきなよ。余計悪化したら海とか行けなくなるだろ?」
「全治3ヶ月だと無理だと思うよ。」
全治3ヶ月、これはあまりにも長い。痛みは引いているが、抜糸がまだできていない。水に浸かる事はできないだろう。まあ防水用ギブスなどを用いれば不可能ではないが。
「潜らないにせよ、動けるだけありがたいと思うぜ。それに嬢ちゃん達の水着が拝める事だしな。」
「このエロオヤジ。」
大きく笑うトーマスC。彼独特の雰囲気は、俺の心を瞬時に癒してくれる。実にありがたい。それにムードメーカー的存在は今も健在である。
「そうそう、別店舗の件は話したよね?」
「駅前と大学の向かえ側のあれですか。」
ゼラエル達を捕獲した事で、臨時ボーナスが入ったという。それは宝くじの1等に近い。というかそれだけの重要指名手配犯なら、もっと大規模な捜査などをするのだろうに・・・。隣人は窃かに笑うという事か、何とも・・・。
「今日新しいウェイトレスが来るんだ。君が面接してあげてくれ。」
「俺がですか?!」
「人を見る目に狂いはない。相手を見定める千里眼がある君なら、全てを任せてもいい。無論ハメを外さないようにね。」
「重役をよくぞまあ・・・。」
すっかり信頼し切っている。それだけこの数ヶ月の出来事が大きかったという事か。ここは引き受けるのが得策だろう。
俺はトーマスCに承諾のサインを出すと、早速2つの新店舗を見て回った。
駅前のものは、2階に位置する喫茶店。1階にも喫茶店のスペースがあるが、ここは貸店舗で誰も入っていない。
ラフィナ達が通う大学の道路を超えた先にある喫茶店。こちらは1軒屋だが、駅前のものよりもかなり大きい。
どちらもレトロ調の室内で、トーマスCが前々から目を付けていたようだ。例の報酬金で一気に計画に移ったのだろう。
「あ、ミスターTさん。」
下見を終えた俺は、トーマスCの喫茶店へと戻る。そろそろ新しいウェイトレス志願者が来る頃だ。その最中ラフィナと会う。喫茶店での会議には彼女はいなかった。どうやら学業を優先しているのだろう。
「よう歌姫、元気か?」
「はい。それと・・その歌姫・・・、何とかなりませんか・・・。」
「ハハッ、悪かった。」
歌唱力が高まっている事から、歌姫の愛称で呼ぶ事がある。周りからも美人歌姫と言われる程だ。あの一件から群を抜いて美しくなったラフィナ、もう大丈夫だろう。
「お帰り。それとラフィナちゃん、いらっしゃい。」
「お邪魔しますマスター。」
ラフィナと一緒に喫茶店へと戻った。彼女はウィレナ達と合流し、修学旅行時の自由行動先を決めている。
「窓際の奥の席に来てる、頼むよ。」
「了解。」
いよいよ面接だ。というか面接など持たないと言っていたんじゃなかったっけ・・・。まあ彼の言う通りに行動するまでだな。
「初めまして、俺はミスターT=ザ・レミニッセンス。マスターの代理で君達の面接をする事になったよ。」
「エイラ=ヒューリアスです、よろしくお願いします。」
「リタナーシュ=ケーブスです、よろしく。」
「リーア=ネイルフォーヌといいます。」
「シュピナー=ニウルムです。」
実に怖ろしい。この4人、凄まじいまでの巨漢だ。いや、巨女というのだろう。4人とも普段着姿なのだが、はち切れんばかりの胸は圧巻極まりない。目のやり場に困るな・・・。
エイラは25でシュピナーが27、リタナーシュとリーアが28。俺と同じ年代だな。4人の容姿では他の仕事も苦労していると話している。2mを超える身長故に、行動が制限されてしまうらしい。
「なるほど、確かにその容姿だと雇ってくれる場所は少ないか。」
「はい。女子プロレスのスカウトは受けた事がありますが、アグレッシブな職業は好きじゃないので。」
一番最年少のエイラ。しかし気はしっかりしており、他の3人のリーダー役のようだ。末っ子に近い人物ほど、才能溢れる人材となる。正しくその通りだろう。
「頭に来ますよね、身体目当てで来るなんて。」
「まあ否定はできないがね。」
外見に似合わず子供のように怒るリタナーシュ。まるでターリュやミュックが大人になったようだ。頼むから身体を張ったジェスチャーはしないでくれ、胸が揺れまくってる・・・。
「他に特技とかはないのかい?」
「特技とまではいきませんが、民間車検ができるだけのスキルはあります。」
プライベートでもバイクを乗るリーア。身体付きがよく力持ちに見える。これはトーマスCが喜びそうな逸材かも知れない。
「妹がいますが、家族と一緒に運送業の仕事をしています。」
「へぇ~。トラック野郎・・・失礼、トラックの運転手か。」
大人しそうな雰囲気のシュピナーだが、話す言葉はどれもアツい。トラック野郎で活躍する彼女の妹の影響か、男臭い雰囲気が強い。
一通り面談したが、4人とも熱血漢で負けず嫌いだというのが分かった。テメェの生き様を貫くのだという、俺の信念と執念が見事に合致する。彼女達のような肝っ玉があれば、俺も動けるのだろうが。
履歴書に目を通す。その俺を黙って凝視する4人。外見とは裏腹に、心はまだまだ乙女なのだろう。エシェラやラフィナの方がまだ大人っぽい。こんな事をいったら殴られるな・・・。
「OK、採用するよ。それに断るつもりはない。それだけの肝っ玉が据わってるなら、自分の生き様を貫き通すしかない。その糧として、ここを利用して欲しい。」
「「「「ありがとうございますっ!」」」」
息もピッタリに礼を述べるエイラ・リタナーシュ・リーア・シュピナー。年齢と育った環境は違えど、この4人は紛れもない姉妹だろう。
その後4人をトーマスCに紹介し、面接を終えた事を告げる。全権を俺に委ねているのだと彼は何も言わずに承諾した。
相変わらず奥の方ではキャイキャイ騒ぐエシェラ達とラフィナ達。まあ一生に一度しかない記念の旅路だ。ここは大目に見よう。
それから3週間後。エシェラ達とラフィナ達はそれぞれの修学旅行に出発する。1週間という長期旅行だ。俺の時は2泊3日だったのだが・・・、何とも・・・。
駅前と大学前の喫茶店もオープンした。前者にはエイラとリタナーシュ、後者にはリーアとシュピナーに担当して貰った。巨乳美女が運営するとあって、男性客の来店が凄まじい。
一度酔った客に身体を触られた事があったようだが、何ととっ捕まえて警察に突き出した。直感はしていたが、4人とも格闘術に優れているようだ。これはエシェラといい勝負だな。
ラフィナの一件から久し振りに会ったアマギH。喫茶店にて雑談しながら飲み交わした。無論彼はまだ未成年だから酒はご法度。かくいう俺も免許を取ってからは下戸で通している。というか実際は飲めないのが事実だが・・・。
「今は万屋をやってるのか。」
「これといって特技もないが、それが功を奏した形になってる。」
彼は万屋という何でも屋として独立する。日本中に顔が利くメンバーが揃っている事から、情報網と連携度は凄まじい。
「いっその事、起業してみたらどうだ?」
「それも考えているよ。今まで周りに迷惑を掛けた分、しっかりと返さないとね。」
俺の見込んだ通りの男だ。正義漢が強く負けず嫌い、更に思い遣りと敬いの一念も合わさる。リーダーという名に相応しい人材だろう。
「兄貴は命の恩人だ。何か困った事があったら言ってくれ、必ず力になるよ。」
「ありがとな。」
ガッチリを握手を交わす。本当は右手で交わしたかったが負傷中。左手での力強い握手だ。アマギHの今後の活躍次第では大物になるだろう。
第4話・2へ続く。
タイトルのそれですが、決して主人公が修学旅行に赴く訳ではありません(-∞-) しかし、改めて展開を見ると、青春まっしぐらですわ><;