第10話 新しい生命3 双子の誕生(キャラ名版)
ミスターT「早いよな、あと僅かか・・・。」
シューム「検査結果だと、何時産まれてもおかしくないそうです。」
目まぐるしく環境変化が続く。振り返ったり立ち止まる事もできないほど忙しい。既に気節は4月末、明日で5月になる。
目の前で俺の胸に寄り掛かるシュームの腹は、見た事がないほどに膨れ上がっていた。
シューム「フフッ、いよいよ貴方と本当に結ばれるのね・・・。」
ミスターT「覚悟してます・・・。」
自分の腹を優しく撫でながら呟く彼女。それに否が応でも頷いてしまう。目の前の現状は、紛れもなく逃げられないし目を背けられない。
ミスターT「でも・・・お前やこの子達が幸せになるなら、俺は命を差し出してもいい。もちろん全員と結ばれ子供ができても、その彼女達全員を守るためなら喜んで命を捧げるよ。」
俺の内なる思いを語った。不安などは表向きのものだ。深層には彼女達全員のもれなくの幸せそのものを強く願う。どんな形でも構わない、彼女達を確実に幸せにするために・・・。
シューム「ありがとう・・・、私も無茶した甲斐があります・・・。」
ミスターT「頑張れよ、お前の背中は俺が守る。」
シューム「うん・・・。」
静かに唇を重ね合う。ただ口づけをするだけのものだが、そこには全てが篭っている。今までのような濃厚な口づけよりも、この優しい口づけの方が遥かに癒された。
その時がきた。翌日早朝に陣痛に襲われたシューム。準備万端だったエリシェやメルデュラに付き添われ、地元の総合病院へと向かう。他の女性陣も総出でサポートをしていた。
俺はというと彼女達からの強い要望で、立ち合いは控えて欲しいとの事だ。現状が現状なだけに知られたらマズい事である。それらは彼女達の強い決意でもあった。
アマギH「兄貴もいよいよ父親かぁ・・・。」
本店レミセンでの待機を余儀なくされた。ウェイター役には地元町内会長のアマギHが、俺は厨房を担当している。パートナーのユリコYも一緒に病院へと向かっていた。
アマギH「しかし・・・兄貴も罪な男だよ。」
ミスターT「身に染みるお言葉です・・・。」
身内の関係を知っている数少ない人物が彼とユリコYだ。6人の愛しい人の内情を認めている存在とも。それだけ6人が本気であるという事を、誰よりも感じ取っているのだ。これは2人が元暴走族だから成し得る業物なのだろう。つまり直感と洞察力が凄いという事だ。
ミスターT「お前達は結婚しないのか?」
アマギH「ん~、当分先かなぁ~・・・。今は足場を固めるので手一杯だからさ、それからでも遅くないし。」
ミスターT「お前達には迷惑を掛けるよ。」
アマギH「またまた、それは言わない約束だよ。俺達からすれば、兄貴には返し切れないほどの恩があるのだから。それに今膝を折れば、間違いなく周りが苦しむ。負けられないのさ。」
力強く語るアマギH。それに改めて自分の境遇を当てはめた。自分以上の重圧が彼の背中に圧し掛かっている。正直な話、俺の方は遠く及ばないだろう。
アマギH「兄貴の方こそ大変だよ。6人もの女性と関係を持ち、ゆくゆくは子供もできるんだから。並大抵の決意じゃなければ挑めない。」
ミスターT「まあなぁ・・・。」
アマギH「俺にも言ってたじゃないですか。誰彼がどうこうじゃない、自分自身がどうあるべきか。それが最も重要だと。兄貴は周りの目線を気にせず、彼女達と一緒に幸せになるために努力をしている。それを批難する奴がいるなら捻り潰しますよ。」
ミスターT「ありがとう。」
掛けた恩を返される、その瞬間が今なのだろう。俺の行動は間違ってはいなかったという何よりの証、それだけは痛烈に実感できた。俺も膝を折る事だけはしないようにせねばな。
しかしアマギHのウェイター役も中々様になってる。物腰が柔らかくなった彼の性格は、長年の族のヘッドとして活躍した事も相まって凄まじい。特に凄いのが卓越した話術だろう。
町内会長や躯屡聖堕チームのヘッドとしての活躍は、彼だからこそ与えられた天命とも。それだけ重役なのだ。
俺も一生涯掛けて彼を補佐せねば。乗り掛かった船の途中下船はできない。というかそんな事はしたくない・・・。
休憩時間に昼食を取る俺とアマギH。応援にヴァルシェヴラームが駆け付けてくれた事で、安心してウェイトレス役を任せられた。
その直後だった、携帯が鳴り響いたのは。間違いない、シュームが勝った証拠だろう。徐に内容を窺うが、エシェラからの直々の生誕の連絡だった。
ヴァルシェヴラーム「無事産まれたようね。」
エシェラとの通話を終える。会話の内容などを伺っていた2人は、俺の無意識に湧き出る歓喜の表情に結果を把握していた。
ミスターT「ええ、丁度シェヴが来た頃だそうです。」
アマギH「おめでとうっ!」
俺の右手を掴み、ガッチリと握手を交わす彼。何と感極まって泣いているのだ。生粋の男気溢れる熱血漢だからなぁ・・・。
ミスターT「直接立ち会いたかったが・・・。」
ヴァルシェヴラーム「それは止めておきなさい。この後の5人との時も立ち会わなければならなくなるわよ。」
ミスターT「だよな・・・。」
複数との関係を持つ以上、出産時などに立ち会うのは厳しい。数十年は隠し通すのなら、今は他所の小父さんを貫き通した方がいいだろう。
その後は出産祝いとアマギHが大量に酒を飲みだしている。まるで俺が飲めないのを代わりに担っているかのように、そして今は喜べない俺の代わりに大喜びしているかのようである。俺の方はただただ呼吸を合わせるしかなかった。
それでも俺は嬉しい。本命はエシェラと定めているが、シュームに生まれた子供も大切な娘達だ。彼女達全員を幸せにするのが、俺の責務であり使命でもある。
アマギH「よぉ~・・・おかえりぃ~・・・。」
本店レミセンに女性陣が戻ってくる。今度はヴァルシェヴラームがシュームの付き添いで総合病院へと向かって行った。どの女性陣も初々しい表情を浮かべている。女性としての究極の形を目の当たりにしたのだから。
ユリコY「何よ、もう飲んでるわけ?」
ミスターT「俺の代わりに飲んで貰ってるよ。」
それぞれの女性陣は奥のテーブルへ集まる。5人の親しい女性達だけカウンターに座った。アマギHも俺達に気を遣って、テーブルの女性陣達と同席した。相変わらずムードメーカーな存在だ。
ミスターT「どうだった?」
メルデュラ「元気一杯の双子の女の子ですよ。母子共に健康で異常もなしです。」
エリシェ「双子の場合ですと、双方に体力を取られて細身になるケースが多いようです。しかし今回は2人とも2500グラムを超える子供でした。」
ミスターT「凄いな・・・。」
普通の胎児1人当たりの体重は3500グラム前後。エリシェが指摘した通り、双子の場合は若干下がる傾向にある。お互いに体力の奪い合いで成長が遅く、1人の時よりも痩せて誕生するというのだ。今回の結果はそれを完全に覆す結果と言えよう。
エシェラ「母さん物凄く喜んでいましたよ。貴方との結晶が無事生まれたと。」
ミスターT「立ち会えなかったのが残念だ。それに今後もこの気持ちは続くのだろう。」
使い終わった食器を綺麗に洗い、棚へと戻していく。5人もそうだが、他の面々はここに来る前に昼飯は終えている。昼食作りでてんやわんやしなくて済んだ。
シンシア「マスター、今夜予定通りにエシェラさんをお願いします。」
ミスターT「ああ、そうだったね。」
次の相手はエシェラだ。6人で念入りに決めていた事を実行しだしている。もはや彼女達との子作りは避けられない。シュームだけいい思いをさせたのでは、他の5人に間違いなく殺される。
ラフィナ「・・・何か不思議ですね、普通なら嫌がると思うのですが。」
ミスターT「何を今更な事を。散々俺に常識の概念を取り払えと言い続けていたのは、何処の何方でしたっけ?」
シンシア「それは確かにそうだけど・・・、最終的には貴方の決意に委ねるしかないし。」
ミスターT「今更逃げたってどうするね。俺の心からの願いはお前達全員の幸せ。それがタブーであっても、心から望むのなら俺は応じる。」
乗り掛かった船の途中下船はできない。それに事が事なだけに、考えれば動きにくくなる。ならば理念に囚われず欲望に駆られていた方がまだマシだ。
ミスターT「今夜は寝かせないからね、覚悟してくれよ。」
エシェラ「う・・うん・・・。」
この台詞は彼女の方から述べるものだろう。しかし今となってのリードは俺の方だった。頬を赤くしながら頷くエシェラ。一発で妊娠してくれればいいのだが、まあこれは時の運に任せるしかない。
その後はシュームの出産祝いを全員で祝い合った。今の瞬間だけは大いに盛り上がり、彼女の努力を心から讃え合う。
今後がどんな行く末になろうが、俺は俺の生き様を貫き通す。それが俺の信念と執念だ。
第2部・第11話へと続く。
新たな生命の誕生と。ここからが、風来坊の本当の流れになっていくと思います。端から見ればタブーですが、そこは小説内の話という事でm(_ _)m
ただ、最終的に帰結する前には、もっと大切な部分に至るのかと。今ほど、その一念が必要とされる時はありません。一歩ずつ前に、ですわ。