第9話 クルージング3 思い寄せ合う(キャラ名版)
ほぼ貸し切りとなったクルーザー。時刻は午後6時を回っているが、表はまだまだ明るい。船内に完備されている衣装を身に纏う俺達。女性陣は全員ドレス姿、俺は覆面こそ同じだがタキシードに着替えた。
リュリア「お兄さん、どうですか?」
一番背が低いリュリアも、子供用のドレスを身に纏う。肩を露出したピンク色のドレスは、化粧も相まって実に色っぽい。
ミスターT「綺麗だよお嬢さん。」
リュリア「あ・・ありがと・・・。」
恥らいながらも実に嬉しそうに微笑む。幾分か大人びいた様子が窺えるが、それは多分母親の変わり様に当てられてだろう。
ヴァルシェヴラーム「タキシードが冴えてるね。」
ワイングラス片手に語るはヴァルシェヴラーム。黒いドレスを身に纏い、化粧を施した姿は普段の彼女を想像できないぐらい美しい。また幾分か酒が入っているためか表情が赤く、より一層大人の女性へと引き立たせている。
ミスターT「シェヴも綺麗だよ。」
ヴァルシェヴラーム「フフッ、ありがと・・・。」
恩師に対してのタメ口は慣れた。彼女がそうしてくれと何度も言うのだから、自然と慣れてしまうのは言うまでもない。正直には敬語を使いたいのだが、彼女がそれを許さない・・・。
ミスターT「シェヴ、質問があるんだが。」
ヴァルシェヴラーム「な~に?」
俺は携帯を操作し、映し出された部分を彼女に見せる。それを見た彼女は、真剣な表情で見入っていた。
ヴァルシェヴラーム「子供の健康に関しては賛成ね。胎児に悪影響を及ぼす行為は絶対にしない事。また胎児を宿したシュームさんにも負担を掛けない事。産まれさえすれば、後は幾分か自由になるから。」
ミスターT「了解です。」
ヴァルシェヴラーム「シュームさんの様子からだと、しっかりと命を宿してるわ。一度母親になった人物は、同じ状態になると一層大人びくから。」
予測した通りだ。シュームは確実に孕んでいる。既に経験済みの彼女故に、新たな命を宿したと直ぐに分かったのだろう。だからより一層本当の自分に戻ったのだろうから。
ヴァルシェヴラーム「もう1つは難しいわね・・・。本来日本は一夫多妻が認められていたけど、それは江戸時代などの話よ。今は一夫一妻が主流だし、モラル云々で色々と五月蝿いからねぇ・・・。」
ミスターT「でも中途半端な存在にはなりたくない。」
ヴァルシェヴラーム「それもそうね。法律的には一夫一妻で結婚は1人だけど、言い換えれば結婚をしないで結ばれればいいんじゃないかな。」
薄々予測していたものだった。1人の女性と結婚してしまうと、それ以外との女性とは色々と問題がでてくる。だが全く結婚していない状態なら、なりゆきで子供ができてもアプローチは受け続けているという理由もできる。
全ては考えようだが、モラルに反する事をしている以上・・・罪悪感は必ず残ってしまう。
ヴァルシェヴラーム「少なからず6人は貴方を心から好いているわ。シュームさんは溺愛にまで発展してるけど、5人と同じ対等の立場だから。」
ミスターT「後は俺次第という事か・・・。」
ヴァルシェヴラーム「でも結婚しないにせよ、エシェラさんとは必ず一緒になりなさい。他の5人は言っちゃ悪いけど身体の付き合いだけだから。もちろん子供を欲しいと言うのであれば、それも心から応じるべきね。」
怖ろしいまでの重圧だ。いや、それは6人を幸せにできるかという責任感の裏返しか。何にせよ6人分の絶対的な幸せを担わなければならないのは事実だ。
ヴァルシェヴラーム「まあ・・・後は覚悟さえあれば進めるわ。」
ミスターT「了解です。」
ヴァルシェヴラーム「フフッ、私も7人目になろうかしら・・・。」
その言葉に背筋に悪寒が走る。怯える俺を見ると、舌を出して苦笑いを浮かべていた。彼女の場合は本気になったら間違いなく実行する。何せ俺の師匠だからな・・・。
ともあれ、6人の幸せの確保が俺の一生涯の使命だ。特にシュームの場合は確実に幸せにしなければならない。今はもう辛いというより緊張感・悲壮感の方が強いが・・・。
東京湾へと到着する。他の船舶と衝突しないように動く技術は素晴らしい。まあ機械的な動作もあるだろうが、最終的には人間の判断に依存する。
正装で夜食を満喫した俺達は、表に出て夜景を楽しむ。海上だというのに全く揺れないのが不思議だ。船に乗っていない錯覚に陥りさせる。
エシェラ「今夜はエリシェさんと一緒ですね。」
ミスターT「あ・・ああ・・・。」
何やらメモを取り出して語るエシェラ。俺的には体力面で疲れているのだが・・・。昨晩あれだけシュームに求められたのだ、本当は休みたいのが実情だ・・・。
エシェラ「今後4日間のスケジュールを組んでありますので参考にして下さい。」
ミスターT「何だよスケジュールってのは・・・。」
メモを手渡される。それを見ると、シュームとエリシェを除く4人のローテーションが記述されている。つまりこのように応じて欲しいという事だろう。何とも・・・。
エシェラ「最終日は私にしました・・・。お疲れだとは思いますが、お願いします・・・。」
これは応じなければ殺される・・・。日に日に嫉妬感が強くなっていく彼女。ギラついた殺気は俺に容赦なく突き刺さってくる。
ミスターT「・・・まさかシュームと同じにしろと言うんじゃないだろうな・・・。」
エシェラ「それはありませんよ。母さんが唯一フリーでしたので、行動に出たのでしょう。私達は正規の仕事がありますし。その・・・慰めてくれれば・・・。」
ミスターT「ああ、なら気は楽だ・・・。」
というかそれ以前の問題だろうが・・・。全員が一度に子供が欲しいとなった場合を思い浮かべると、考えるだけでゾッとする・・・。しかし身体の交わりだけなら心は軽い。それでも端から見ればモラルもクソもないのだが・・・。
エシェラ「そうですか・・・気が楽ですか・・・、なら最終日は覚悟して下さいね・・・。」
要らぬ事を言うんじゃなかった。嫉妬感が強くなりつつある彼女に、より一層嫉妬感を抱かせるような発言をしてしまった。
表情が何時になく怖い・・・、これは最終日が怖ろしい事になりそうだ・・・。
夜景を満喫した俺達は船内へと戻る。既にクルーザーは三浦海岸まで戻っているようで、ゆっくりと動き出していた。
時刻は午後10時。今日はエリシェの相手をしなければならない・・・。普段は感情を表に出さない彼女なだけに、どれだけの嫉妬感を抱いているのか考えただけでゾッとする・・・。
ミスターT「既に一晩共にしてるのに、まるで初めてのような気がしてならない。」
昨日のように別途部屋を提供してくれた。今はエリシェと2人きりで室内にいる。他の面々はそれを理解してくれているようだ。
エリシェ「心は何時も初心に戻る、いい事ですよ。」
紅茶が入ったカップを手渡してくる。最近紅茶を入れる事にハマっているとの事で、自前の紅茶セットを常に持参しているぐらいだ。受け取った紅茶を口にするが実に美味しい。
ミスターT「エリシェも喫茶店のマスターになればいいのに。」
エリシェ「草創期は財閥や施設の運営などを中心に行います。60歳以降からはマスターとして余生を送ろうかと思っていますので。」
ミスターT「そうか。今後を明確に定めているのか。」
彼女の性格上、無用な心配だったのかも知れない。俺が知っている人物の中で、怖ろしいまでにしっかり者がエリシェなのだから。
エリシェ「生活も財力も問題はありません。もちろんそれに溺れず、努力する姿も忘れませんよ。」
ミスターT「そりゃそうだ。俺も肝に銘じないと・・・。」
エリシェの場合は膨大な資金源があり、言わば彼女自身が働かなくても生きていける。だが目的を失った人間ほど虚しい存在はない。日々努力する姿勢が大切である。それは俺にも十分当てはまる。
エリシェ「でも・・・どうしても手に入らないものがあります。どんなに努力しても多大な資金を投じても、絶対に手に入らないものが・・・。」
ミスターT「心配ない。お前も俺にもしっかりと目に映り、離す事なく持っている。」
不安な口調で語るエリシェを抱き寄せる。彼女の言いたい事は、俺に対する一途な一念だ。どんなに思いを寄せても、その思いは儚い存在。不安で仕方がないのはよく分かる。
俺は抱き寄せた彼女の顔を優しく両手で持つ。そしてお互いの目を見入った。目の前には確かに存在している。彼女の一瞬の願いを叶えさせてあげた。
ミスターT「俺には思い人がいるから、本当には応じられない。でもそれ以外の全てを、望むのなら分け与える事ができる。それを不幸と取るか幸せと取るかは君次第だ。」
エリシェ「はい・・・。」
静かに唇を重ねてくる。昨晩のシュームのような過激さではなく、優しくも心が込められた口づけだ。それを通して全てが分かり合える。
エリシェ「・・・一時でもいいです・・・貴方を下さい・・・。」
ミスターT「今は・・・お前だけのものだよ。」
口づけを終えて告白する彼女、それに心から応えてあげた。胸の中で思いに耽る彼女の頭を優しく撫でてあげた。
シュームもそうだが、普段から気丈に生き続けているエリシェ。それ故に心に広がる淋しさは大きいもの。彼女の場合も我慢させる事はない、思いっ切り甘えさせてあげる方がいい。また1つ重荷を背負う事になってしまうが・・・。
クルーザーが停止する。どうやら三浦海岸沖に停泊したようだ。時刻は午前4時半、表は明るくなりだしている。
何度も求め続けてきたエリシェ。シュームほどの貪欲さではないが、それでも心の隙間を埋め続けるかのように。流石に連夜ともなると疲れはするが、貪欲じゃないだけ気は楽だ。
彼女の場合は心から癒しを求めている。渇きを求めるとは異なり、その瞬間の労わりを熱烈に希望しているかのようだ。まあ意味合い的には紙一重ではあるが・・・。
エリシェ「肌が綺麗・・・。」
胸の中で余韻に浸る彼女。俺の顔を優しく撫で続ける。覆面を外しているため、素顔を直接触っているという事になる。
エリシェ「普段から覆面を外したりはしないのですか?」
ミスターT「俺が俺じゃなくなるよ。限られた人にしか素顔は見せない。覆面の風来坊で通っているからね。」
別に覆面があろうがなかろうが、俺自身には変わりない。だが10年もの間覆面をすれば、それは身体の一部と化す。自分が自分じゃなくなるのも偽りではない。
エリシェ「私と2人きりの時は素顔が見たいです・・・。」
ミスターT「ハハッ、シュームからも言われてるよ。」
個別で接する場合は素顔でいいだろう。それ以外は覆面の風来坊を貫き通す。まあ既に風来坊ではないのは確かだが。
エリシェ「ありがとうございました、勇気が湧きましたよ。」
普段着に着替え、船外へと出る。5時を回っているため、表はすっかり明るくなっていた。海上とあって陸上より涼しい。
ミスターT「昨夜以上を望むなら、俺も応じるが。」
エリシェ「今はいいですよ、やる事は沢山ありますし。一段落付いたらお願いします・・・。」
彼女もやる気満々だ。元来から肝っ玉が据わっているため、一度決めたら突っ走るのだろう。まあ実際に動き出すのは当分先だろうが。
エリシェ「貴方に無理強いさせてしまっている代わりに、私の方も経済面で最大限お力になります。お困り事があれば何でも仰って下さい。」
ミスターT「その気持ちだけ受け取っておくよ。俺自身が動かなくなってしまったら、それこそ周りに不幸を振り撒く事になる。手伝える事があれば何でも応じるから。」
陰で資金源の援助を受けている彼女には、俺の心中にある明確な決意を語るしかない。喫茶店レミセンの総合オーナーを担当しているため、収入はしっかりと存在する。だがそれ以外にも動けるなら動くつもりだ。もちろん彼女達の傍でできる行動に限るが。
エリシェ「相変わらず何でも1人で背負ってしまうのですね。でもそんな貴方が好きですよ。助け甲斐がありますし。」
徐に俺に抱き付いてきた。胸の中で温もりを感じつつ、物凄く嬉しそうな顔で語っている。しかし内容は幾分かトゲがあったりするが・・・。まあ彼女も少しは成長したと言える。
ミスターT「お前には色々と迷惑を掛ける。」
エリシェ「何を仰いますか。迷惑を掛けているのは私達の方ですから。」
ミスターT「こういう場合は素直に聞き入るもんだぞ。」
しまったといった表情を浮かべるエリシェ。そんな彼女を優しく抱きしめてあげた。これも彼女なりの気遣いだろうから。
ミスターT「周りへの気配りもいいが、あまり無理無茶はするなよ。お前はお前1人しかいないのだから。」
エリシェ「はい・・・。」
ソッと彼女の顎を持ち上げ唇を重ねる。周りに気配りをし続けて無理無茶しているのは俺の方だろうな・・・。まあそれでも彼女達が幸せになるなら、俺は一向に構わない・・・。
クルージングもいいものだな。滅多にできない経験をさせて貰った。これに限らず、色々な経験を積むのもいいだろう。
残りの60年から70年の人生で何を残せるのか、それが俺の今後の課題だからな。
もう少し若ければ・・・。いや、今の俺があるのは過去の出来事全てが切っ掛けだ。それを無理矢理否定したりする必要はないな。
今後をどうするか、そこに着眼するだけでいい。俺もまだまだ甘いな・・・。
第2部・第10話へと続く。
早起きだったので、早めにアップさせて頂きますm(_ _)m あと、苦労人側も1話を確保できたので、今後毎日分けてアップさせて頂きますね><;
しかし、風来坊側はハーレム化が続く(=∞=) 風来坊は、とにかく愛がテーマとなっていますので@@; まあ、所々にバトルが入ったりしますが><; 何とも(-∞-)