第8話 再度の原点回帰2 ありのままの姿で(キャラ名版)
ヴァルシェヴラーム「1つだけお願い聞いてくれるかな。」
ミスターT「何ですか?」
彼女からお願い事を言われるのは滅多にない。ヴェアデュラを託された時以来だろうか。真剣な眼差しは、それ相応の覚悟を秘めてのものだろう。
ヴァルシェヴラーム「今から敬語は止めてくれないかな。」
ミスターT「・・・自然体に接してくれ、という事ですか?」
ヴァルシェヴラーム「見るところ私だけにじゃない、ずっと敬語を使い続けているのは。私も一応普通の女よ、歳は取ってるけど。」
自然体に接してくれ、か・・・。確かにその方が気兼ねなく話せる。それに恩師たっての頼みとあれば、応じるしかないだろう。
ミスターT「・・・分かりましたシェヴさん。」
ヴァルシェヴラーム「ほらっ、言ってるそばから・・・。」
ミスターT「・・・分かった。シェヴもみんなと一緒に泳いできな、ヴェアの面倒は見るから。」
ヴァルシェヴラーム「はいっ!」
この上なく嬉しそうな表情を浮かべるヴァルシェヴラーム。恩師にタメ口と呼び捨てで話す、何かバチが当たりそうだ・・・。まあ彼女がそうしてくれと言うのなら仕方がないか・・・。
まるで子供に戻ったかのように他の女性陣の元へと駆け寄る。その姿は普段の彼女を感じさせないほどだ。
ミスターT「・・・そう言う事か・・・。」
ヴァルシェヴラームがタメ口と呼び捨てで自分に接してくれという意味が分かった。それは普段からの気丈な自分を、俺がいる時だけは脱ぎ捨てたいという事だ。彼女もまたシュームと同じように、自身を押し殺してまで動いている証拠だろう。
ミスターT「・・・ありがとうございます・・・。」
無意識に礼を述べてしまう。ありのままの自分で、恩師ヴァルシェヴラームはそう語った。つまりは俺も自身を押し殺す必要はないという事だ。それはシュームを1人の愛しい人として見ろという裏返しだ。
ヴァルシェヴラームの度重なる労いに、俺は心から感謝した・・・。これならシュームの思いに応えられる。選ぶ時、動く時は今なのだ・・・。
夕食を終えて娯楽施設で遊ぶ一同。まだ息抜きは始まったばかりだというのに、初日から全力投球をしている。これで明日以降が持つのかね・・・。
ヴァルシェヴラーム「エリシェさんに頼んだわ。今夜は下位の部屋を確保したから、シュームさんとそこで寝なさい。」
俺と同じくパチンコを楽しむヴァルシェヴラーム。性格から趣味から実に似ている・・・。その彼女が今夜の事を告げてきた。もはや逃げる事はできない、前へ進むのみだ。
ミスターT「ありがとう。だが正直怖いがね・・・。」
ヴァルシェヴラーム「大丈夫よ。恐怖も一線を超えれば希望になる。彼女を助けたいのでしょ?」
ミスターT「そりゃそうだが・・・。」
ヴァルシェヴラーム「身体は周りに気配っても、心はエシェラさんに定めていればいいわ。貴方を心から慕っているのだから。」
ミスターT「分かった。」
静かに溜め息を付くと、俺の肩を軽く叩くヴァルシェヴラーム。その後もパチンコに精を出す俺達。本当のパチンコではないのに、フィーバーが来れば大喜びする。彼女にとってもこの瞬間が息抜きなのだろう。そう考えると実に嬉しくなる。
リュリア「やったぁ~、勝ったぁ~!」
ミスターT「うわ~、負けた・・・。」
締めは全員でのポーカー対決。掛け金はジュース、負けた人物が買った人物におごるのだ。既に数回負けっぱなしの俺は、全員にジュースをご馳走する事になった・・・。
ウインド「マスター・・・弱いですね・・・。」
ミスターT「運が弱いだけだ、もう一勝負!」
リューア「結果は目に見えていますが・・・。」
どの面々も呆れ気味だ。どうやら俺は複数の面々と勝負する場合は、周りに運気を分け与えるようだ。まあ負けても勝ちたいとは思っていないのが実情だが・・・。これも問題か・・・。
リュリア「また勝ったよぉ~!」
ミスターT「終わりだぁ~・・・。」
その後数度に渡り勝負を繰り返すが、結果はボロ負け。全員に2杯以上のジュースをおごる形になってしまった。
テューム「そうだ、お土産に変えて貰ってもいいですか?」
ダークH「それいいね!」
シューム「ならあと100回はやるよぉ~、覚悟しなぁっ!」
ジュースからお土産に変わった事で、俄然やる気になった女性陣。闘気剥き出しで挑む姿は、さながら血に飢えた野獣そのものだ。怖ろしいまでに続くポーカーバトル。俺はただただカモにされるだけだった・・・。
・・・口座から多く資金を下ろした方がよさそうだわ・・・。
その後は完膚無きまでにボロ負けした。お土産は後で買うという事にし、今は全員して風呂に入っている。流石に混浴ではなく、男湯は俺1人だけだ。
軽く汗を流し身体を洗って部屋に戻る。中に誰もいない事からまだ入浴中だろう。しかし、今日だけで幾らの出費なんだ・・・。恐らく明日以降もやるとか言い出すに違いない・・・。
ミスターT「・・・動く時は今、か。」
圧し掛かる重圧。結婚しないにせよ、シュームを娶る事には変わりない。先程の言動から、そこまで思い悩んでいるという事だ。物凄い重圧と責任感だ・・・。
バルコニーに出て一服する。それと同時に頭に身に着けている覆面を取り外した。初めて覆面を着用した頃は汗疹などに苦しめられたが、今ではすっかり慣れたものだ。夜風になびく俺の前髪、覆面を外した方が爽やかなのは言うまでもない。
ミスターT「・・・俺も覆面によって押し殺しているのか。」
何を今更といった事を口にする。しかし今となっては覆面なくして俺は語れない。用は心の問題だ。俺と一心同体の覆面は、今後も着用し続けた方がいいだろうな。
ミスターT「よう、遅かったな。」
リュリア「あれ~、もう戻ってきてたの~?」
遅れてリュリアを筆頭に女性陣全員が戻ってくる。髪をバスタオルで拭く仕草とラフな出で立ちは実に色っぽい。
ウインド「あっ・・・。」
ダークH「マスター・・・それ・・・。」
ウインド・ダークH・リデュアス・リューア・テューム・リュリアが驚愕している。彼女達が示すは、俺の左手に握られている覆面だ。つまり俺の素顔を見て驚愕しているのだ。
リュリア「うわぁ~、お兄さんの素顔が見れたぁ~!!!」
満面の笑みを浮かべながら抱き付いてくるリュリア。マジマジと俺の顔を見つめ、今までにないほど頬を染めている。他の俺の素顔を初めて見る女性達も、顔を赤くしていた。
リュリア「ねぇねぇ~、素顔のままでキスさせて~!」
どこかで聞いた台詞だ。そうか、3年の旅路から戻った時、4人と一緒に添い寝した時のものか。そう思う否か、俺の唇を奪うリュリア。爆発的に動きまくる彼女は、正しく未来のシュームそのものだろう。
エシェラ「リュリアちゃんには敵わないなぁ・・・。」
遠巻きに見つめる6人。その表情は嫉妬を通り越し、純粋無垢までの感情で動くリュリアが羨ましそうだ。
時に幼さは強力な武器になる。論理で塗り固められた大人では理解できない一途さ。それが子供の絶対的な最強の武器なのだ。
今はリュリアの好きにさせてあげよう。今後が思い遣られるが・・・。それよりも同じ年代になった時のヴェアデュラが気掛かりだ・・・。何とも・・・。
その後は素顔を初めて見た女性陣からのアプローチが凄まじい。俺の顔を見たいと申し出が後を絶たない。頬を染めながらも見入る彼女達に、俺は苦笑いを浮かべるしかない・・・。
ミスターT「麻雀セットまで持ってきたのか。」
汗が引いたので覆面を着用する。その時は彼女達から批難の声が挙がりまくる。素顔のままでいろというのが実情だろうが、これはこれで俺の姿なのだから。
リューア「非番時はよくやります。」
テューム「こう見えても結構強いですよ。」
若干長方形っぽいテーブルを囲み、麻雀を始める女性陣。メンツはリューア・テューム・リデュアス・ウインドだ。ウインドはダークHと、リデュアスはメルデュラと。テュームはシンシアと、リューアはラフィナと交代で動いている。
エシェラ・エリシェ・リュリア・ヴァルシェヴラームは、ヴェアデュラの面倒を見ながら雑談に明け暮れる。だがシュームだけは浮いている存在になっていた。
ミスターT「少し散歩してくるわ。シューム、お前も一緒に来な。」
シューム「私も・・ですか・・・。」
落ち込みが目立ちだしている事から、普段の明るさが失せている。そこを強引にでも立ち直らせようというものだ。
ヴァルシェヴラーム「ほらほら、行った行った。」
リュリア「頑張ってねぇ~。」
まるでシュームを追い出すかのように、ヴァルシェヴラームとリュリアが肩を押して部屋の外へと連れ出していく。その姿に唖然とする俺達だが、傍らにいるエシェラとエリシェが俺と顔が合うと小さく頷いた。
ミスターT「ごめんな、エシェラ。」
エシェラ「大丈夫ですよ、私は貴方を信じていますから。」
エリシェ「シューム様の心を完全に癒してあげて下さい。」
恋仲エシェラや恋人エリシェから公認という事実だけに、もはや動かねば何を言われるか分からない。苦笑いを浮かべつつ部屋を後にした。
部屋の入り口ではヴァルシェヴラームに肩を軽く叩かれ、リュリアに右手を軽く握られた。2人とも全て分かっている。特にリュリアまでもしっかりと把握しているようだ。
第8話・3へ続く。
ありのままの姿でとは、なかなか難しいものです。それでも、共にあろうとする姿勢が、そこに回帰していくのかも知れませんね。
今の世上ほど、絆などの一念が重要とされる時はありません。風来坊の執筆時は、今は亡き盟友達へ捧げる作品でしたので。当時の描写をそのままアップさせて頂いていますが、同作に込められた一念を汲んで頂ければ幸いですm(_ _)m