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覆面の風来坊 ~不二の盟友に捧げる者~  作者: バガボンド
第1部・恋愛
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第3話 道化師2(通常版)

 それから更に数週間が経過、6月を迎える。そろそろ梅雨に入る気節だが、まだ晴れが多いこの頃だ。


「いよいよ本番だな。」

「はい、今までありがとうございました。」


 内気な性格が明るくなり、誰とでも気さくに話している。これだけでも充分な成果だろう。そして今日、思い人に告白する。姉のウィンや相談相手のウィレナも気にしてか、校舎の隅で見届けようとしていた。自称恋人のエシェラも同伴している。無論俺もそれに便乗した。




「あの、先輩・・・。」


 いよいよ告白だ。バイトで貯めた資金で購入したオーケストラ観賞用のチケット。それを手に持ち、憧れの男性に声を掛けた。他に複数の男子学生も一緒だ。これは大きなヤマだな。丁度下校時刻を見計らっての行動。見ているこちらもドキドキするわ・・・。


「何?」

「その・・・前から・・好きでした、付き合って下さい・・・。」


 滅茶苦茶赤面している。それでも心に思った一念を前面に出しての告白。よくぞ言えたと誉め讃えたい。勇気を出しての第一歩、後少しだ。


「俺あんたに興味ないね。」

「え・・・。」

「なあ誰よコイツ?」

「変な視線を感じていたんだが、この女だったようだぜ。」


 ・・・冗談だろ、あいつら・・・。ラフィナの想いは本物なのに・・・。俺の聞き間違いじゃないだろうな・・・。


「う・・嘘ですよね・・・。」

「うるせぇってんだよっ!」


 彼女の手を思いっ切り払い除ける。勢いで手に持っていたチケットの包み紙が地面へと落とされた。それを呆然と見つめている彼女。


「勿体ない、これだけの上玉を。」

「・・・確かに。ならさ、一発ヤラせてくれるんだったらいいぜ。」


 大笑いして罵倒する屑3人、ラフィナはその場で泣きだす。彼女の想いが硝子を割るように、大きく砕け散った音が脳裏を過ぎる。


 俺の中で自分自身を抑える部分が解き放たれる。堪忍袋の尾がキレるとはこの事だ・・・。




 突発的に駆け出す俺。右肩が痛いというのに、吊っている右腕を振ってまで全力で走った。そしてその勢いで男子学生を思いっ切り殴り付ける。痛みなど関係ない、この一撃に怒りを込めて。


 殴られた相手は凄まじい勢いで後ろへ飛ばされる。その度合いはプロレス以上だ。いや、制御が利かなければ今の一撃でノックアウトしていただろう。



 俺はそのまま男子学生の胸ぐらを掴み、もう一発殴り付ける。更に殴りたかったが、これ以上動けば殺してしまう。無意識に防衛反応が働くのは、長年生きた経験上のものだろう。


「がぁ・・・だ・・・誰だテメェ・・・。」


 顔が腫れ上がった相手が俺を見つめる。と同時にエラい青褪めている。無意識にゼラエル達に放った殺気と闘気が出ていたようだ。


「・・・貴様みたいな害虫は初めて見た。人の好意を貶し笑い飛ばす。仕舞いには身体を要求し、応じれば付き合うだと・・・。」


 殴り付けたい衝動に駆られ、もう一度動き出そうとする。だが背後にいたラフィナが俺の背中を抱きしめ、行動を制させる。女性の力とは思えないほどの凄まじいものだ。


「貴様に女を抱く資格などない。その口から一言でも女と口走ってみろ・・・、貴様の喉元を掻っ切ってやるっ!!!」

「テ・・・テメェに言われる筋合いなんかないっ、お前ら手を貸せっ!」


 両サイドにいた別の男子学生2人が助けに入る。だがそいつらは突然現れた複数の男性達に取り抑えられた。


「何をしやがる、離しやがれ!」

「そうはいかないねぇ。」

「ちょっと大人しくしてなよ兄ちゃん。」


 この口調、何処かで聞いた事があると脳裏に過ぎる。だが今は怒りで我を忘れているため、そんな事はどうでもよかった。


 そこに歩み寄るもう1人の男性。何と先日解散した躯屡聖堕のヘッド、アマギHであった。それに傍らには彼のパートナー、ユリコYもいる。


「悪ふざけが過ぎたな。野郎としてとんでもない事をしたというのに。」

「だ・・誰だテメェ!」

「躯屡聖堕と言えば、股間にある腐り切ったアレも収まるかしら?」


 躯屡聖堕という言葉に男子学生3人は一瞬にして青褪めていく。泣く子も黙るとはこの事だろう。アマギH達の存在は、学生達の間では触れてはならないイレギュラーのようだ。


「俺もキレないうちに失せな。兄貴みたいに歯止めが一切利かないからね、殺されても文句は言うなよ。後始末はしっかりと付けてやるさ・・・フフフッ・・・。」


 ドスが利いたその言葉、それを聞いた3人は一目散に逃げていく。正に狼が獅子に睨まれ、逃げていくような度合いだろう。


 静寂が訪れる。今まで罵声が飛んでいた校門前は静かなものだった。




 俺は納まり切れない怒りを、地面を殴り付けるという事で発散させる。それは無意識にだ。激痛が走っているはずの右肩に構う事なく、右手拳を思いっ切り地面へと叩き付けだした。


 アスファルトの地面に何度も叩き付ける右手拳、見る見るうちに血に染まっていく。それを慌てて止めに入るラフィナ。全身全霊を以て抑えたようで、そのまま俺を薙ぎ倒してしまう。


「・・・もう・・・もういいのです・・・もう・・・。」

「何がいいと言うんだ、お前の想いは本物だろうが。苦手を克服するための日々、心の内を精一杯振り絞って歌ってくれた・・・。あれが馬鹿にされた・・貶された・・・、踏み躙られたんだ・・・。・・・あの屑を捕まえて、ぶっ殺してやるっ!!!」


 興奮する俺に抱き付き、落ち着かせようとする彼女。怒発天を通り越した俺は、抱き付かれた状態でも起き上がろうとする。しかしラフィナはただ黙って俺を力強く抱きしめ続けた。


「・・・う・・ううっ・・・ちくしょう・・・ちくしょうっ!!!」


 ラフィナの好意を貶された俺は泣いた。一途に思ったその心を踏み躙られ怒りで一杯だった。これほどまでに人を憎いと思った事は今だかつてない・・・。




 それからどれだけ時間が経過したか分からない。俺はアマギHに支えられ、校舎手前の階段に座らせられた。意識が朦朧とする、目の前に火花が飛び散っている。


 無理矢理動かした右肩に凄まじい激痛が走っていた。それは衣服から染み出るほどの出血が物語っている。また思いっ切りアスファルト地面を叩いたため、右腕の拳は血だらけである。


 多分ナツミYUが救急箱を持ってきてくれたのだろう。俺の右肩と右手の傷に応急処置が施されている。だが意識が朦朧としているため、それをハッキリと窺い知る事は無理だった。



「暫く休ませておきましょう。」

「校門の前の出来事は、俺達で揉み消します。」

「大丈夫よ、私の方も動くから。今回の件は流石の私でもキレるわ。」


 遠くの方で話し声が聞こえる。遠近感が掴めない。殆ど近くで話し合っているのに、遥か遠くで喋っているように思えた。


「2人だけにしてあげましょう。お茶をご馳走するわ、付いて来て。」

「すみません・・・。」

「ラフィナさん、後よろしくお願いします・・・。」


 複数の足音が去っていく。朦朧とする状態なので、その足音も遥か遠くのものにしか感じられない。




「・・・私、何のために・・・今まで努力してきたのでしょうか・・・。」


 ふと呟きだすラフィナ。徐々に落ち着きを取り戻してきたため、彼女の発言はしっかりと聞こえる。意識もハッキリしてきているが、それと同時に右腕全体の痛みが尋常じゃない。


「・・・願いを叶えるため、決めた事を突き進むためじゃないのか。」

「・・・そう・・ですよね・・・。でも・・・裏切られた、踏み躙られた・・・。」


 泣き出す彼女。今になって怒りと悲しみが吹き上がってきたようだ。こればかりはどうしようもない。


「・・・このチケット、オーケストラだったよな。・・・中身は・・・交響楽団の演奏、締めは有名なカノンとG線上のアリア。」


 袋からチケットを取り出し、中身を確認する。世界的に有名な交響楽団のコンサートだ。クラシック系が目白押しで、最後はカノンとG線上のアリア。俺もこの曲は好きだな。


「・・・もう意味は・・・ありません・・・、後で・・捨てます・・・。」

「・・・俺が一緒じゃダメか?」

「え・・・。」


 日付を見る、丁度今度の土曜だ。というか明日か。ここ最近日数に関して疎い。どうしても1週間の感覚がズレる。


「俺は容姿も技量も特技も何もない、それでも構わないのなら一緒に行くよ。」

「で・・でも・・・、貴方にはエシェラさんが・・・。」


 困惑した表情で俺を見つめてくる。そもそも仮の恋仲という位置付けであり、それ以上の発展はないと思っていたのだろう。それよりも今の俺にはラフィナをどう癒せるかにある。


「分かってくれる。彼女も列記とした女性だ、君の一途さを誰よりも理解しているから。それに心配するな。彼氏役という付き合いで接していたが、君との本当の付き合いはこれからだからね。」

「・・・う・・ううっ・・・ううぅぅっ・・・・。」


 大泣きしながら俺に抱きついてくる。我慢していたものを吐き出すかのように泣き続けた。その彼女を優しく抱きしめる。今の俺にはそれしかできないから・・・。




 無理に動いたため、右肩の傷は治るどころか悪化した。骨と筋肉にまでは影響はないが、全治2ヶ月が3ヶ月になってしまった。更に右手の傷も縫うほどになり、もはや右腕全体が絶対安静を余儀なくされた。


 だがラフィナが受けた屈辱に比べれば、こんな傷など取るに足らない。女性の好意を、純粋一途なピュアな好意を貶されたのだ。心に受けた傷は大きなものだろう。



 人は何故馬鹿げた行動をするのだろうか。いや、それは自分が思っていても相手は分からないだろうな。現にそうだからこの出来事が起きたのだから。



 それでも人は挑むのだろう。傷を負っても先へと突き進む。それが人間としての生き様。


 ラフィナが今以上に強くなる事を、俺は強く願っている・・・。


    第1部・第4話へと続く。

 通常の悪役を描くのは、本当に難しいです><; しかし、ミスターT君の警護者や探索者の対比が凄まじい@@; 向こうは青年後期から壮年前期に近く、こちらは青年まっしぐらでしょうか。若いって良いですよね(-∞-)

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