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罰当たりな王様達②

前回にも増して罰当たりな王様達が今回ご紹介する彼等です。

「本当の罰当たりとはこういうものだ!」と言わんばかりの無茶苦茶ぶりをお楽しみください。

さて今回は罰当たりの中でも特に選りすぐりの三人をご紹介します。彼等は「神様など何するものぞ」と言わんばかりのキングオブ罰当たりの三巨頭と言えるでしょう。この三人は、やり過ぎたせいで地獄での刑罰が名所扱いされるに至っているという筋金入りの連中です。

 まずはコリントスのシーシュポス王。彼は古代ギリシャにおける名門中の名門アイオロスの子。アトラスの娘メローペ(プレアデス星団の中のあの星の名前にもなってますね)を娶り、一子グラウコスを儲けます。

 このシーシュポスは知恵者として有名で、お使い神・ヘルメスの息子アウトリュコスとのバトルで知られていました。

 アウトリュコスは父であるヘルメスから牛の姿を自由に変える術を教わっていました。それを悪用してギリシャ中から牛を盗んでは模様や角の有無を変えて自分の物にしていました。神様の息子にしては小悪党ですね。

 とにかく盗まれたと言っても姿かたちが違うので証拠も無くなってしまうのです。そしてとうとうシーシュポスの牛まで盗むに至りました。幾ら神様の息子とはいえ王様の物を盗むとはやり過ぎです。一計を案じたシーシュポスは牛の蹄の間に「アウトリュコスが盗んだ」と刻んだ鉛の板を挟み込み、その牛が盗まれてからアウトリュコスを訪ね、「ほれ見てみぃ、これが証拠や!」と突き付けて凹ませ、互いの実力を認め合い親友の契りを交わしたといわれています。

 ここまでなら「河原でバトって認め合うヤンキー」のような展開で済んだのですが、もしかするとこれがきっかけで神様を甘く見る事になったのかもしれません。

 ここからシーシュポスのやらかしが始まります。この内容が幾つも伝わっている上に時系列もバラバラなのですが、なんとかまとめてみます。

 まずゼウスが河の神アーソーポスの娘アイギーナをかどわかした時。娘を探すアーソーポスに「ワシ見たんや! ゼウス様が攫って行ったんやで!」とチクったのです。つまりゼウス様の「一時の恋」を潰してしまったが為に怒りを買って早い死を迎えてしまったのです。

 その為か死にざまさえも「特別扱い」でした。本来なら死者の魂をハーデスのもとに案内するのはヘルメスの仕事ですが、格下のタナトスに行かせたのです。ここで素直に死んでおけば彼も有名にはならなかった事でしょう。

 シーシュポスはタナトスを口先三寸で騙し、鉄の鎖で縛り上げて押し込んでしまい蘇ったのです。タナトスはヘルメスに助けてもらい、ほうほうの態で逃げてしまいます。情けない神様ですね……。

 しかしタナトスは再度彼の元を訪れます。ゼウスの命令では仕方ありません。胃が痛くなっていたかもしれませんが。とにかく用心して赴いたタナトス。が、シーシュポスは別の手を打っていました。妻に命じて本来行うべきだった葬式も行わず、お決まりのお供えもさせなかったのです。

 その上でハーデスとその妻ペルセポネーに訴えたのです。弁舌も爽やかに。

「ワシがここに来たんは何かの間違いや! ホンマに死んだなら葬式くらい出すやろ! つーかどないなっとんねん!」

「ホンマに寿命? なら妻に言うてちゃんと葬式出すわ! その間だけ帰らせてんか!」

 こんな言い訳を信じる方がどうかしてますが、ペルセポネーは信じてしまったのです。お嬢様育ちだからでしょうか。

 こうして再び蘇ったシーシュポス。当然の様に現世に留まり続けます。こんな奴が約束を守るわけもありませんね。

 こうして高齢に達した彼は三度目の死を迎えます。厳戒態勢の中でハーデスの前に引っ立てられたとあってはさすがに為す術がありません。観念した彼に用意されていたのは地獄のスペシャルメニュー。それは巨大な岩と急峻な山のセット。ここでシーシュポスはヒーコラ言いながら岩を頂上まで押し上げ(或いは担いで登り)、転がり落ちた岩をまた必死に押し上げる――を永遠に繰り返すのです。


 お次はテッサリアのイクシオーン王。テッサリアの王様は前回も出ましたね。エリュシクトーン王が。テッサリアはバカな王様が出やすい土地柄なんでしょうか。

 さてこの人は求婚する時に「山ほどの贈り物をするから」という条件で相手方の父親の許しを得ました。

 が。華燭の典の後、その父を炭火で一杯にした穴に突き落としてSATSUGAIするのです。いきなりキツイ展開ですね……。

 誓約に背くわ義父SATSUGAIだわで誰一人として彼と付き合う者も罪を浄めてやろうやろうという者も現れません。当たり前ですね。こんな奴と付き合っていたら命が幾つあっても足りません。そんな中、ゼウスだけが彼の罪を浄めてやり、咎から来る乱心も癒してやるのです。

 おお、たまにはいい事もしますねゼウス。

 ところがこのイクシオーン王の忘恩ぶりは筋金入り。ゼウスに感謝するどころかゼウスの妃であるヘラ様に懸想し、その寵愛が自分の上にあるなどと言いふらして歩くのです。

 別の伝ではゼウスを所謂「寝取られ男」にしてやろうとヘラの誘拐を企んだとされていますが、さすがにこれは無謀極まりない展開です。少々苦しいバージョンですね。

 とにかくここまで悪意を持ってやらかす奴も珍しいくらいです。当然ながらゼウスはお見通し。手の込んだ仕返しというか天罰を用意します。

 雲を集めて低次元の魂を吹き込んでネペレーという女性を作り上げました。姿かたちはヘラ様そっくり。そうとは知らぬイクシオーン王はこのネペレーを攫って行くのです。或いはゼウスが与えたとされています。後者の方が自然な展開でしょうか。

 イクシオーン王はネペレーを相手に思いを遂げます。これで生まれたのがケンタウロイ。彼等が神々を敬わず礼儀を弁えないのは父親の血のせいだとされています。

 一方イクシオーン王はこの後ゼウスが放った雷撃に打たれて敢え無く昇天します。無論これだけで終わる筈も無く、ゼウスがハーデスに命じて用意させたスペシャルメニューを味わう事になります。

 それは燃え盛る巨大な回転車。イクシオーン王はこれに縛り付けられ、ぐるぐると回されながら鬼達に鞭打たれ続けるのです。永遠に……。


 さて、いよいよ真打登場です。これまで登場した連中も大概ですが、このタンタロスこそが番外編のラストを締めくくるに相応しいクズ中のクズなのです。

 この男はトロイア戦争のアガメムノーン王の祖先とも言われる人物で、ゼウスの息子とも言われています。その為か人間の身でありながら神々の仲間入りを許されていました。

 と言っても別に不老不死という訳ではなく、神々の宴席に出られるというくらいのものだったようです。それでも十分過ぎる程の扱いですね。

 その特別待遇に驕ったのか、或いは元々性格が悪かったのか、神々の飲み物ネクタルや神々の食べ物アンブロシアを盗み出して人間界で売り飛ばしていました。無茶しますね。またオリュンポスの宴席で聞いた神々の秘密や噂話にある事ない事を尾鰭をつけて触れ回り騒ぎを拡大させていきました。

 彼の目的はただ一つ。ありとあらゆる手段で父親ゼウスを困らせ怒らせる事でした。彼はそれこそが自分の務めだと信じていたのです。

 何でそうなるのか訳が分かりませんね。不良息子なんてレベルじゃありません。

 そしてタンタロスは遂にとんでもない事をやらかします。自分の息子ペプロスをSATSUGAIし、その肉で料理を作り神々に供え食べさせようとしたのです。

 そこまでしますかね……そんな事するのは中国だけです。いや中国でも酷い行いとして記録されるレベルです。

 神々は流石に見抜いて手をつけませんでした。ただ豊穣の女神デメテールだけはハーデスに攫われた娘ペルセポネーの事で心を痛めている真っ最中だったので一口だけ食べてしまいました。ああ、なんて事に……。

 ここに至ってゼウスも激怒。この極道息子を地獄タルタロスに追放します。タンタロスはすでにアンブロシアやネクタルを食べていたので不死になっていたのでゼウスと言えどもSATUGAIはできないのです。あ、そうするとこいつが売りさばいていたネクタルやアンブロシア食べた連中もそうなりますね……その辺りは触れられていませんが、果たしてどうなったのやら。

 とにかく永遠の罰は逃れられません。まずタンタロスは水も食べ物も与えられず、飢えと渇きが極限になるまで放置されました。次に綺麗な川の中に顎まで浸されます。水を飲もうとするとあっという間に水が引いてしまい飲めません。頭上には枝もたわわに果実が実っていますが取ろうとすれば遠のいて取れなくなってしまうのです。極限まで欲しいものが目の前にありなが絶対に手に入らない……キツイですね。残念ながら当然の報いですが。

 ちなみに罪もない息子ペプロスは神々の力で生前以上の美少年として蘇ります。ただ、デメテールが食べてしまった肩の一部だけは無理なので黄金で補修されたそうです。そのおかげがポセイドンの寵愛を受け、翼を持った馬二頭立ての馬車を授かったとも言われています。



 いかがだったでしょうか。ギリシャ神話はこんな無茶な話が山ほどあります。後編の三人などはダンテの神曲をはじめ、様々な作品の中で地獄を描写する際に季語や枕詞の如く出てきたりします。

 何かで見かけた際は「ああ、あの罰当たりか」と気付いていただけたら、作品をより深く楽しめるのではないかと思います。名前が覚えにくいのは仕方ありませんが……。

                     



「罰当たり特集」はいかがでしたか? ギリシャ神話は様々な物語のルーツといわれるだけあって、本当にバリエーション豊かです。このシリーズで原典に触れてみたいという方がおられたら望外の喜びです。

ではまた次作でお付き合いいただけたら嬉しく思います。

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