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罰当たりな王様達①

古来王様という人達は欲望に忠実なものです。その国で一番偉い訳ですから当然ですね。しかし、それが過ぎると……神にさえ逆らうようになってしまうのです。

その末路や如何に?

 さて、今回は番外編として欲望に正直なあまり酷い目に遭った人々をご紹介します。彼等は人間らしさが過ぎるのか向こう見ずなのか、明らかにアレな人達なのですがどうにも憎めない、そんな魅力溢れる面々なのです。

 まずはプリュギアのミダース王。彼は地母神キュベレーの子と言われるゴルディアース王の子。プリュギア王朝の二代目で、スーパー金持ちとして知られていました。

 彼は何だかんだで精霊サテュロスのボスであるシーレーノスを監禁同然のレベルで歓待し、十日間もの酒盛りを開きます。暇なんでしょうかね、この王様は。

 シーレーノスはあの酒の神ディオニュソスの幼少期に面倒を見た養父格。この歓待の話を聞いたディオニュソスはいたく喜び、ミダース王に「お前はええ奴や! せやから何でも望みを一つだけ叶えたるで!」と持ち掛けます。

「金持ちは金が増えるごとに欲深くなっていく」とギリシャ七賢人の筆頭ソローンが言っていますが正にその通り、ミダース王は「ワシが触れた物を全て黄金に変えてください!」と願うのです。

 おおらかな笑みを浮かべて快諾するディオニュソス。有頂天になって喜ぶミダース王。ですが神話がそう上手くいく筈もありません。

嫌な予感がしまくりです。

 王は手始めに庭園の樫の木の枝を折ってみました。すると指が触れるか触れないかのうちに黄金の枝に変わるではありませんか。小石も林檎もあっという間に輝く黄金に変わります。水を掬うと黄金の液体になって流れていくという凄さ。これはテンションが上がりますね。

 しかし喜びは長く続かないのが世の常。召使が夕食のパンと肉を運んで来た時に喜びは絶望にその座を譲り渡すのです。

 手に取ったパンも肉も手や歯に触れた瞬間に黄金の塊に変わり果ててしまうのでした。ワインも水も喉を通るのは味もしない溶けた黄金の雫。どうやら熱くはないようですが、これでは世界一の金持ちなのに餓死確定です。

 もはや神の加護どころか悪魔の呪い同然です。とうとうミダース王はディオニュソスに「ワシがアホでした! どうか、どうかお許しください!」と祈り、この迷惑極まりない加護を取り消してもらうのでした。

 ところがこの話、加護を与えたのはディオニュソスではなくアポロン様とするバージョンもあるのです。

 どんな話かといいますと、ミダース王は太陽の光で黄金が無駄に光るのがもったいないとボヤいてしまい、アポロンに同じ加護(その正体は呪い)を与えられ……という展開です。

 さて、ミダース王はこの事件以来すっかり黄金が嫌いになってしまいます。さすがにトラウマレベルだったんでしょうね。彼はもっぱら簡素な生活を愛し、森や野の自然を恋い慕い、山間の洞窟に住む牧神パーンに従っていました。えらい変わりようですね。もはや別人です。

 ところがこのパーン、ニンフ達に聞かせていた笛の技を自慢し、遂にはアポロン以上と吹聴してしまうのです。ああ、なんということでしょう。こんな事を言ってただで済む筈がありません。

 当然ながらアポロンとパーンの音楽バトルが勃発します。立会人は無論の事オリュンポスの神々……とミダース王。パーンについてきた感じです。バトルは言うまでもなくアポロンの圧勝。

 神々は誰も異議を唱えない中、ミダース王ただ一人だけが抗議します。無謀ですね……神々の採決に異を唱えるとは……。

 アポロンはブチ切れそうになりますが、一同の手前大人げない事は出来ません。さりとてバカな人間を放っておく事もできません。

 そこで「優雅な曲も分からんアホにはこれがお似合いやろ」とロバの耳を取り付けてしまうのです。

 さぁ皆さんお気づきですね。あの童話「王様の耳はロバの耳」はこの神話がベースになっているのです。

 ここから先はご存知のように、何だかんだと理由をつけて隠していた耳も宮廷理髪師にだけは見せなくてはいけません。箝口令を申し付けるも町はずれに穴を掘り叫んでいましたのがバレてしまい、縛り首にしかけますがこれを許してやるとロバの耳も消えた……という展開です。

 アポロン様は愚かな人間を泣かして満足したということでしょうか。

 神話の方では誰が秘密を洩らしたのか不明で終わっています。



 さてお次はテッサリアの領主イリュシクトーン王。元々不信心な男で、神殿に供物を捧げるのも怠りがちな罰当たりだったのですが、ある時地母神デーメーテールの社の森を切り倒して、それを自分の屋敷の材木にしようとしました。ダイナミックな罰当たりですね。

 この森には一際古い(かしわ)の大木があり、神聖なものとして注連縄(しめなわ)みたいなものが張ってありました。叶えられた願いのお礼にと捧げられた絵馬のようなものまで沢山懸かっていたそうです。日本なのかギリシャなのか分かりませんね。資料によっては花輪とお札となっていますから、訳し方次第なのかも知れません。

 さて、いかにもヤバそうな御神木ですので(きこり)達も尻込みしてしまい、お付の臣下も止めるのですが罰当たりが聞き入れる筈もありません。

 女神が自ら老巫女の姿で現れて諫めるもお構いなし。とうとう御神木を切り倒させてしまいます。樵達も生きた心地がしなかった事でしょう。そしてそれはこの老樹の精であるニンフ、ドリュアスの最期でもありました。

 森のニンフ達は黒い衣でドリュアスを弔い、デーメーテールにこの王に裁きを下すよう懇願しました。勿論デーメーテールも怒り心頭に発し、地母神の名に相応しい罰を下します。

 それは飢餓の刑。地母神は豊穣の女神でもあるのです。絶対に怒らせてはいけません。それをやらかしてしまったイリュシクトーン王には凄惨な運命が待ち構えているのです。

 女神は凍てついた北の果て、スキュティアから飢餓の神を呼び寄せました。それは青ざめて骨ばかりという異様な風体をした恐ろしい神。飢餓の神はイリュシクトーンの胃に入り込みました。

 ちょうどその頃、王は広間で山のようなご馳走に囲まれて饗宴に臨んでいる夢を見ているところでした。ああ、なんということでしょう。それが人生最後の幸せな夢になろうとは。

 夢から醒めるといきなり空腹に襲われました。そして幾ら食べても食べてもひもじさは増すばかり。一つの街、果ては国全体を養えるほどの食料をかき集めても彼一人の胃を満たす事は出来ませんでした。

 それだけの量を食べるのも大仕事でしょうけど。とにかく食べれば食べる程、一層ひもじさが募って来るのです。まさに飢餓地獄ですね。

 こうして彼は先祖伝来の倉庫どころか土地も屋敷も文字通り食いつぶしてしまいました……しかしこれでは終わりません。なんせ女神のお怒りです。えげつない展開が待っています。

 結局彼の手元に残ったのは娘ただ一人。本来ならお姫様なのですが、もう少しいい父親の元に生まれるのが相応しい乙女だったようです。悲しいけどこれ、運命なのよね……。

 とうとう食べ物を買うお金も無くなったイリュシクトーンはこの娘を売り飛ばしてしまいます。なんと非道な親なのでしょう。奴隷の身に落ちた娘は嘆き悲しみ、海岸に行って海の主神ポセイドンに祈りました。

「ウチを奴隷の身分からお救いください。昔ウチを慈しんでくれはったんなら」

 そうです、ポセイドンはかつてこの(元)王女メーストラーと契りを結んだ事があったのです(意味深)。

 ポセイドンは彼女の姿をあっという間に漁師の男に変えてしまいました。おかげで追ってきた新しい主人の眼をくらまして父の元へ帰ってきました。

 しかしそこは罰当たりなクソ親父。娘が姿を変える術を授かったのを利用し、次から次へと何度も娘を売り飛ばし、その度にメーストラーは牝馬や鳥、牛や鹿へと姿を変えては帰って来て父の食事代を稼ぐのでした。何と健気な……。

 そして最後にはとうとうクソ親父の元に帰らなかったとも言われています。いい人でも見つけたんでしょうね。

 哀れなイリュシクトーンの飢えは増々パワーアップ。遂には耐えきれずに自分の肉を切り裂いて貪り食うようになり、とうとう最後に残った唇を飲み込んでこの世から消え去ってしまったのでした。

 


いかがでしょうか。神に逆らう人々の末路はこんなものです……が、まだ彼らはぬるい方です。次回は極めつけな人々をご紹介しますのでご期待ください。

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