②「朝食」
心の底から感謝です。びっくりしました。
目覚まし時計の音で目を覚ますと、午前七時を三分ほど過ぎていた。
というか俺は、七時に目覚ましを掛けていたのだが……まあ起きれたし、良いか。
四時に電話で無理やり起こされ、そして七時に目覚まし時計で無理やり起こされ……後者は自分の意思で設定しているとはいえ、いつか身体を壊しそうだな。
いや、深夜にアニメを観なければいいのだが、俺はBlu-ray box(ここネイティブ)を買えない貧乏な高校生だ。製作委員会のために出来る事と言えば……視聴率を伸ばすことくらいなのである。
そんなわけで今朝(繰り返すが四時)も嫌がらせの名目で悪意100%のモーニングコールをされたわけだが……それにしてもアイツ、電話を掛ける以外何もしてこねぇんだよな。
そりゃ、同じクラスなんだから顔を合わせることはあるが、電話でしか話したことがない。
まあ、嫌いでした、なんて言われているから近づかれても驚くんだが……毎日四時に起こされる身にもなってほしい……いや、アイツが掛けてくる以上、アイツも起きてるんだけどね? 嫌がらせの電話をする為に起きるのと、嫌がらせの電話で起こされるのはけっこう違うと思うの。
というわけで、俺は寝ぼけ眼をこすりながら起きる。
…………おかしいな、電気が付いている。
朝飯を食う時間があるのなら俺はその時間を睡眠に使う、と決めている俺は、滅多に朝飯を食わない。
たまに菓子パンを食べたりはするものの、朝に温かい白飯や味噌汁は長年食べていないな。
でも、まぁ……バターやジャムがたっぷり乗ったトーストとか簡単なものなら今度作って食べてもいいかもしれない。朝早く起きれたら、の話だが。
まあとにかく、今日は普段通りに起きたし、普段通り朝食の用意は無いはず。有っても菓子パン一つがテーブルに置いてある、とかだ。
だから、おかしいと思ったんだ……いい匂いがするのは。
「今日会社無ぇの?」
夜からずっと起きてて腹減った、とかくらいで、俺のために作っていないことは確かだ。
「……え?」
居間には、制服姿のアイツがいた。
……思考が追い付かねぇが、一つ確実なことがある。
「そこ、俺の席なんだけど」
「…………ご、ごめん」
止まりかけの思考で唯一絞り出した言葉がこれだった。
別に謝ってほしいわけじゃなかったし、立ち上がってほしいわけじゃなかった。
「……きょ、今日はどうしたんだ……?」
幼馴染ではあるが、家に来たのは……実に四年ぶりだ。
加えて、こいつは俺のことが嫌いなのだ。
……嫌いなヤツの家に来るなんて、よっぽどの理由がないと――
「ゴミ出しでお義母さ――おばさまに会って……何やかんやで……」
な、何やかんやは分からんが、要するに……
「迷惑、掛けたな……」
「いえ……」
いや、ほんと……申し訳ない……。
「とりあえず、顔洗ってくる。遅刻しない程度にゆっくりしていってくれて構わない」
顔を洗ったら夢から覚めて、目覚ましの前に起きるのかもしれない。
……それはそれで、少し残念だ。久しぶりに、疎遠になっていたはずの幼馴染と面と向かって話せたのだから。
そんなことを考えながら顔を洗う。……冷たい水は俺の顔と頭を冷ましたものの、夢からは覚まさなかった。
しかし、まさか家にいるとはな……嫌いな俺の家だぞ?
いくら誘われても……あ、いや、断り切れないか、うん。
…………あれ、まだ居たのか――
「……何これ?」
俺の席の側にビンを持って立っているヤツに思わず訊いた。
「アンタがいつも食べてないって聞いて……朝ご飯作る約束して……」
トーストにスクランブルエッグ、ソーセージにサラダ……
こんな朝食、ずっと昔にホテルで食べた朝食サービス以来だ!
「お前……俺のこと嫌――」
「てええええええええいっ!」
突如持っていたビンをひっくり返し、中に入っている中身を全てトーストにかけた。
薄茶色に焦げたトーストを深紅の粘性の液体が覆った。
「い、嫌がらせよっ! これは私の家で作った、とってもすっぱいあんずジャム! 本当にすっぱいから食べ切れ――」
「ありがとう、いただくよ」
「……えっ?」
誰かが作ってくれた温かい飯……トーストか。トーストを朝に食べられることに感動していた。
――たまに菓子パンを食べたりはするものの、朝に温かい白飯や味噌汁は長年食べていないな。
――でも、まぁ……バターやジャムがたっぷり乗ったトーストとか簡単なものなら今度作って食べてもいいかもしれない。朝早く起きれたら、の話だが。
俺は元々朝飯を食べない主義だが、仮に俺が朝飯を食べる主義でも、両親どちらも作っておいてくれたりなんてしないはずだ。俺の両親はそんな人たちだ。
近づくと後ずさりしたことに少しショックを受けたものの、気にしていない風に平然と座り、朝食に向き合う。
うん、普通に旨そうだ。
とりあえず、トーストにかじりつく。
「うん、おいしいよ」
「っ……! ぜっ……全部食べなさいよっ! それまで学校行っちゃダメだからね!」
…………あ、行っちゃった。
嫌われっぱなしってのも嫌だから、少しくらい昔のようになれたと思ったんだが……先は長そうだな。
もう一度、今度はあんずジャムが塗ってあるところにかじりついた。
「……すっぺぇ」
……今度おばさんに会った時には、砂糖を足すように言っておこう。
俺は、大量のお茶を飲むべく席を立った。




