①「モーニングコール」
友人に「大衆受けするものを書け」と言われたので、シンプルなラブコメです。
夢のような光景だった。
放課後の教室、開け放たれた窓からは夕陽が差し込み赤く染まっている。
普段は生徒の声で騒がしい校舎も夕方のもの寂しさに浸るように、今日は静寂に包まれている。
きっと、職員会議か何かで部活が無いのだろう。
だが、俺は帰らずに教室で幼馴染の女と向き合っていて、夕焼けのせいかわからないが頬が紅く染まっているように見える。
肩甲骨あたりまで伸ばされた亜麻色の髪、前髪が少しだけかかった大きな目は吸い込まれそうだ。
女子の中でもやや高い身長に長い手足。そしてメリハリのある体付き。
クラスの情報通から聞いたところ、学年の中でも人気が高いが、まだ彼氏はいないらしい。
入学から一か月半、中学時代も加えるとおよそ三年間、コイツとは交流がなかった。
まあ、幼馴染とはいえ異性だ。それに、中学が別方向だったのだから当然っちゃあ当然か。
それに……コイツには昔、悪いことをしてしまったからな。
そのため予想はしていなかったが、クラスが違うのにこんな時間に呼び出される……これは、完全に告白だ。
もし告白じゃなかったら、裏庭に生えてる一本松の根本に埋めていいよ。
「私、あなたの事、ずっと……」
「え……?」
一応、驚いたふりをしてみるか。
さて、俺も高校生になって、ようやく彼女持ちか……
「嫌いでした……っ!」
…………え。
「ええええええええええええええええええ!」
◇
『プルルルルルルルル』
いつも通り、電話の音で目が覚めた。
来ることがわかっていた電話だが、寝起きの頭は上手く働かない。夢を見ていた気がするが内容がまったく思い出せないのもそのせいだろう。
そのぼうっとした頭のせいで、近くにあるスマホがなかなか取れない。びっしょりだな、手。
「…………はい」
「おはよう」
ようやく取れたスマホの着信に出ると、朝のあいさつが飛んできた。
ちなみに、今は午前四時である。外は真っ暗、朝のあいさつなんて似合わない。
「やめろって言ってんだろ」
「やめない。今日もあなたの眠りを妨げてあげる」
良く言えばモーニングコールだが、悪く言えばいたずら電話である。
というかモーニングコールって善意からのサービスだよな……善意0、悪意100なんだけど。
どうもコイツは、俺が誰かの恋愛相談を見た翌日からおかしな行動を取るようになった……が、きっかけがまったく分からない。ずっと関わりなんて、無かったのに。
俺たちは二年生になり、同じクラスになった。
でもコイツは俺のことが嫌いらしいし、別に話そうとも思っていなかった……のだが。
コイツは、俺が空気を読んで参加したクラスのチャットグループを使って俺に接触し、毎日この時間に電話してくるのだ。
ブロックしてもいいが、一度無視した日は大変な目に遭った。
多分、ブロックしたら俺は死ぬのではなかろうか。でも死ぬって嫌がらせの範疇越えていると思うんだ。
というわけで、俺は毎日律儀に電話に出ているのである……これ以上嫌われたくはない、しな。
「じゃあ、もう切るぞ。目的は果たしたんだろ」
「そうね、一日の最初に私の声を聞か……私の声によって睡眠を邪魔するという目的よっ!」
俺の意思で起こしてくれたらいいんだけどな~。声は可愛いしな~。……絶対に口には出さない。
「そうだろそうだろ。……じゃあ、おやすみ」
「ええ、おやすみ…………って、寝るの?」
「当たり前だろ。人に必要な睡眠時間は年齢によって違うが、俺たちくらいの年だと7時間から8時間だ。七時間と仮定しても、あと五時間足りねぇんだ」
「……二時に寝たの? ていうか、五時間後には一時間目が始まってるんだけど」
仕方ねえだろ、深夜アニメの視聴率を上げていたんだから。
とりあえず、製作委員会は俺を含めたリアタイ勢にお礼を言った方が良いと思う。
「まあ、野暮用だ。というわけで、遅刻しない程度に寝るから。お前も寝ろ、身が持たねぇぞ」
「う、うん……えっ!? そ、それじゃあおはようからおやすみまでいっしょに……」
何かごにょごにょ言っているが聞こえない。寝起きで電話を掛けていたのだろうか。
「じゃ、じゃあ今まで……通話を切った後は寝ていたってこと!?」
「あぁ。無視したら無視したでめんど――」
「そっ……そうなの! じゃっ! お、おやすみっ!」
今度はうるせぇよ。…………切れた。
……寝るか。
よくわからんが、どうやら嫌がらせのためにやっているようだ。
別にツンデレとかそういうのじゃない。というか、四時に起こすツンデレって何のために起こすんだよ。デレがねぇし。
というか、アレだな。
そもそもリアルの女にツンデレとかヤンデレとか、そういうカテゴライズをすること自体、間違いなのかもしれない……
あぁ、本当にリアルの女はめんどくせぇな。
いや、まぁ……そんな女性経験豊富ってわけでもないんだが……一つ言えることとしては……
俺の幼馴染は、めんどくさい。