猫の爪
「夜中に爪を切ると猫の爪のようになるからやめなさい。」
そう教えられて育ったと彼は言う。
猫の爪のようってどんな爪だい?
知らん。ただそう言われてたから夜中は爪を切らなかった。
彼は自分の爪を一本一本眺める。
綺麗に整えられた男爪が微笑んでいた。
「あ!一度だけあったわ!」
思い出したかのように吼える彼。
小学生の頃、夜中に爪が気になって仕方がなかったこと、猫の爪はどんな爪だろうとわくわくしたこと、言いつけを守らない自分に酔いしれたこと。
試しに一本だけ切ってみようと思い、右手の薬指だけ切ったのだと彼は言う。
「でも結局猫の爪にはならなかったな」
「馬鹿だなお前、夜中に爪を切ると親の死に目に会えねえんだよ」
「そうか・・・そうか!そうだったのか!」
だからおれは死に目に会えなかったのか!
彼は遠くを見つめ、泣いていた。