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魔法少女は笑わない  作者: 巫 夏希
第一話 魔法使いがやってきた!
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第一話7  『魔法使いVS魔法使い』

 帰りはバスに乗ることになった。名古屋市の重要な交通手段の一つとして数えられているバスは、主に名古屋市営バス、通称市バスと三重交通、そして名鉄バスの三社によって運営されている。昔はもう少しあったらしいけれど、それについて詳しいことは知らない。生まれる前のことを詳しく知っているのは、それはそれでちょっと気味が悪いだろう? 市バスは文字通り市内を縦横無尽に走っている訳だけれど、当然全てが黒字路線な訳がなく、僕が乗るこの路線のように赤字路線もある訳だ。赤字路線にもなると、乗客が敬老パスを使っているか、一日乗車券でバスを乗りまくる変わり者しか居ない。いや、バスに乗りまくる人間を変わり者というのもどうかと思うけれど。

 バス停はクレアの家から少し離れたところにあった。時刻表を見ると、後十五分でバスが来るらしい。だったらそのままバスを待つことにしようか、と思い僕はスマートフォンを取り出す。そして鞄に入っているイヤホンも序でに取り出す。イヤホンは無線で接続出来るものなので、今の主流となったような、イヤホンジャックと充電ケーブルの差し口が一緒になってしまったようなタイプでも使うことが出来る。でも、そのような状態でも無線のイヤホンを忌避している人も居るようで、そういう人のためにイヤホンジャックと充電ケーブルを変換するケーブルも用意されている。標準でイヤホンジャックを搭載しておけば良いのに、とは思うが。

 再生ボタンをタップして、音楽が流れ始める。僕が小学生の頃から続けられている、バンドの曲だ。早い展開の曲が多いことで知られており、カラオケで歌うのは大変らしい。まあ、確かに分からなくはないけれど。それにしても、これを歌えるボーカルって凄いよな。それを作った張本人だから歌えないことはないのかもしれないけれど。


「匂うねえ」


 イヤホンをしていたはずなのに、声が突き刺さるように耳に届いてきた。その声は沼の底から引きずり込むような、そんな声だった。出来ることなら、そう何度も聞きたくないような、そんな声――。


「匂う。匂う。匂う。いったいどうしてこんな匂うのかねえ。ただの一般人から、こんなにも『魔法使い』の匂いがするのかねえ」


 ぞわり、と背中を舐められたような感覚が襲いかかる。背後から聞こえてくるその声の主を確認しないといけないと思って、僕は振り返ろうとした。でも、直ぐには動けなかった。身体が拒否反応を示しているのだと、思う。今振り返っちゃいけない。振り返ることは出来ない、と言っているのかもしれない。けれど、そうであったとしても、僕は振り返らなくてはならなかった。この嫌悪感の正体を、突き止めなくてはならなかったのだ。


「……へえ、精神はどうやらただの一般人じゃないようなのだよ」


 白いスーツを着た男だった。鳥の頭のようなマスクを被っており、顔を確認することは出来ない。手も手袋をしている様子だった。それにしても、幻獣過ぎやしないか、その装備。――ただ、僕が目の前でそれを見た感想としては、この場所にはあまりにも異質な存在だということだった。このような人間が普段から歩いていたら、即不審者として地域のデータベースに登録されていたことだろう。ただ、今の僕ならば、それは何者であるか、理解出来ると思う。何故なら、そいつはこう言ったから――。


「……今、『魔法使いの匂い』って言ったか?」


 僕はポケットに手を突っ込み、あの笛をいつでも出せるように準備していた。僕の予想が正しければ、目の前に居る人間は九十九パーセント、魔法使いだ。そして、僕に敵意を抱いているのも明らかだった。


「ああ、言ったとも。魔法使いの匂いがする、ってね。魔法使いに触れた者か、魔法使い本人からしか匂うことのない、その匂いをどうしてただの学生が持っているのかねえ?」


 首を傾げながら、一歩、近づく。それと同時に僕は一歩退き、距離を保つ。


「……それは、魔法使いの出所を言え、ということなのだろうけれど」

「ああ、教えて欲しいねえ。教えてくれるなら、逃がしてやっても良いよ」

「でも、それはお断り(・・・・・・)だ」

「ああ、そうだろうねえ。もし教えてくれるなら、とっくに逃げようとしてたはずさ。まあ、既にここは人払いを済ませてるから逃げることなど出来やしないのだけれど」


 確かに、そう言われてみると、人気があまりにもなさ過ぎた。車が一本も通っていないし、人もまったく歩いていない。これが――魔法使いの人払いだというのか?


「強がったところで、君には魔法が使えるとは到底思えないのだけれどねえ。諦めて白旗を揚げて、魔法使いの居場所を教えてくれても良いんじゃないかなあ?」

「だから言っただろ。――それはお断りだって」


 僕はポケットにあった笛を取り出し、急ぎ吹く。耳をつんざくような高い音が空間にこだました。それを見て、目の前に立っているスーツの男は空気が抜けたような声を出して、


「へえ、『魔女の笛』を持たせてもらってたのか。……どうやら、君と接触した魔法使いはよっぽど君のことを信頼してるみたいだねえ。だって、それが敵の手に渡ったら、のこのことそこにやって来ることになってしまう訳なんだから」


 男はポケットにあった何かを取り出した。それは丸薬のようだった。それを転がしながら、話を続ける。


「まあ、いずれにせよ、その魔法使いがやって来るまでには時間がかかるだろうから。君を排除するのも簡単な訳だけれど。取り敢えず、先ずは邪魔な君を排除することにしようか」


 そして、丸薬をこちらに向けて飛ばしてきた。僕は、不安で、動けなかった。本当にクレアはやって来てくれるのか? 僕を助けに来てくれるのか? デコイという可能性はないだろうか? そんな不安が一気に押し寄せてきて――そしてその反動で、僕はまったく行動一つ示すことが出来なかった。逃げないと、逃げないと、逃げないと――いけないのに!

 しかし、その直ぐに僕の周りの時間が、ぼんやりとしていた。正確に言えば、周りの時間はそのまま動いているような気がするのに、僕の周り――正確には半径数メートル程度――の時間だけゆっくりと流れているような、そんな錯覚に陥ったのだ。いや、これは錯覚じゃない。何故なら、僕は一度この間隔を経験したことがある。そう、あれは――。


「お待たせしたの、カズフミ」


 僕の横に立っていたのは、紛れもなく、クレアだった。

 


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