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魔法少女は笑わない  作者: 巫 夏希
第四話 魔法少女の冒険!
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第四話11 『名古屋市一周旅行⑪』

 エレナと別れた僕達は、再びバスに乗り始めた。次に乗ったバスは、港区役所行き。ついさっき向かったはずの場所にUターンという訳だ。まあ、実際には経路が違うからUターンって訳でもないのだけれど。


「……結局いつまで僕達はバスに乗り続けないといけないのでしょうね」

「そりゃあもう、名古屋市を一周するまでですよ」


 即答されても困るんだけれどな。


「名古屋市ってこんなに広いんですね……。全然理解していなかったですよ」

「そうでしたか? 私はそんなに広いと思った覚えはないんですけれどね……」


 覚えがあるとかないとかの話ではなく、もっとふんわりとした話題だったはずなんだが――そんなことを最上さんに言っても、きっと受け入れてはくれないのだろう。いずれにせよ、僕の価値観は薄汚れていて、普通の人からしたら色々と疑われることであるのは、間違いない事柄である訳だし。


「……ひねくれてるの」

「何だ、魔法少女というのは人の心も読むことが出来るのか、くわばらくわばら」

「適当なこと言わないで欲しいの! ……でも、そう思う気持ちも分かるの」


 僕は別に気にした覚えなんてないのだけれどね。


「魔法というのは、いつの時代だって人から毛嫌いされるものなのだよ。……それは分かるだろう? 自分の知らない分野であればある程、その価値観について分からなくなる。そして、その価値観をどれぐらい理解してるかで、物事の考え方は大きく変わってくる。それについては、魔法使いだろうがただの人間だろうが、関係のないことだと思うけどね」


 分からなかった。――いや、正確に言えば分からないことではない。ないのだけれど、少し小難しく考えすぎというか。考えなくても良いことを考えて、結局遠回りしなくてもそこに辿り着くのに遠回りしてしまっているだとか。いずれにせよ、その価値観を正しいか正しくないかで判断しているよりも、何倍も時間もかかっているような感じがして、要するにもう少し簡単に物事を考えれば良いじゃないか、なんて話に落ち着く訳だけれど。


「魔法はね――その人の心によって、良い方向にも悪い方向にも伝搬する。正しい心を持つ魔法使いこそが、正しい魔法を使うことが出来る。そうやって、魔法使いというのは己の精神を鍛えて、魔法を素晴らしい使い方にしか使わないようにする訳。……まあ、世の中にはそれを良しとしない魔法使いだって居る訳だけど。その魔法使いに関しても、厳しく罰していかないといけない訳」

「具体的には、どうするつもりなんだ?」

「魔法使いの血を根絶させる」


 うわあ。

 思ったよりグロテスクなことをするんだな。


「魔法使いに対して間違った価値観を持ってるのであれば……その魔法使いは魔法使いとしての適性を持ってないってこと。魔法を使えるかもしれないけど、魔法使いとしては必要性を感じられないってことにもなるかな。魔法使いが魔法使いであることは、簡単に証明することは出来る訳だし。……どんな単純な魔法でも使えるならば、その人間はただの人間ではなく、魔法使いである訳だし」


 何だか難しい話になってきた。

 いや、難しい風に話しているだけで、案外単純な話になっているのかもしれないけれど。


「要するに……魔法使いは正しく魔法を使えないと魔法使いではない……ってことか?」

「正解。いやあ、話が早いと助かるよ。『魔女狩りの教皇(イノケンティウス)』みたいなところに所属してる魔法使いは、正しく魔法を使ってないから魔法使いじゃない。ありゃ、『悪魔』だ」

「悪魔……ね」


 僕はクララの言ったその単語を反芻する。

 結局それが正しいかどうかなんて分からない。価値観はエゴイズムの塊だからだ。自分の価値観と相手の価値観を対立させたら、その先に広がっているのは単純明快――戦争だ。そうやって人間は、大なり小なり物事を決めてきた。戦争の勝者だけが後の歴史において正しき物と語られる。敗者は未来永劫正しい存在であると語られることはない。そうやって人間は、何千年もの時代を生き長らえてきた訳であって――それは全然珍しいことでも、間違ったことでもない、のかもしれない。けれど、それが正しくないかどうかは、この時代の人間が決めることだ。その価値観は誰しも異なっていて、AさんがAの価値観を持っていたら、BさんがAと同じ価値観を持っているとは限らない。BさんはBの価値観を持っていて当然な訳であって、そこで価値観の対立が発生する。価値観の対立を、第三者から観察すればそれが正しいか正しくないかを判別することが出来る訳だけれど――それを簡単に決めるために設けられたのがルール。そのルールを破った者は罰せられる。至ってシンプルで、至って合理的なやり方だ。


「魔法使いは……決して人間と交えてはいけない、という決まりはない」


 クララはさらに話を続ける。

 だけど、とクララが言って、


「だけど……それはいつかの誰かが決めないといけないことなのかもしれないし、そうでないのかもしれない。魔法使いと人間は隔離しなければならない、なんて決まりはない。今の人間は、魔法を上手く操ることが出来れば……それが国のステータスであると思ってる。実際、戦争にも魔法使いは動員してるなんて聞いたこともあるし、自衛隊に協力する魔法使いも居る。けど、この国ではそれは有り得ない。だって、憲法で決められてるのだから。この国からの攻撃は行わない、って。だから魔法使いは、この国に対して安堵の気持ちを持ってる。……何故だか分かる?」


 そんなの、一つに決まっている。


「……過去の戦争では、魔法使いが出撃したってことか」

「魔法使いは、使える魔法によっては重火器のそれを上回る威力を出すことが出来る。それも本人の魔力さえあれば無尽蔵に、ね。だからかつての国は……魔法使いを強制的に動員させようとした。この国に住んでるのだから、お国のために死ね、と」

「そりゃあ……」


 ひどい話ではある。

 けれど、その時代はそういうことが美徳とされていたのだ。


「今の魔法都市のトップは、この国の平和を尊重してる。そして、これからも平和を続けてくのならば、協力すると言ってるのよ」

「それは……」


 いつか戦争が起こる時に備えている、ってことなのか?


「それは、いつになるのか……誰にも分からない。けど、その日は近づいてるのかも……しれない。運命の日、Xデーが」

 


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