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魔法少女は笑わない  作者: 巫 夏希
第四話 魔法少女の冒険!
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第四話9  『名古屋市一周旅行⑨』

「……だから、それを確認しないといけない訳であって」


 それが出来るかどうかは分からないけれど――中学生だけで出来ることには、何かと限界がある。


「アレイスターの遺産を本格的に探りたいなら、それこそイギリスの魔術師とタッグを組まないと難しいでしょうね。イギリスの魔術は基本的にはブラックボックスになってて、身内にしか明かさないところが多い。だから、あまり協力関係を築くこともないの」


 クララの言葉に、僕は肩を落とした。だったら、どうやって情報を入手したら良い? クララがそう言うんだったら、それこそ僕達には何も出来やしない。何も出来る道筋がない。それを行う為の繋がりがない。


「魔法使いって、案外協力的かと思いましたけれど、その実難しいところもあるのですね……。ああ、まあ、でも聞いたことがあります。魔法使いは自分の魔法をあまり公開しようとは思わない、って。それは相手に自分の弱点を晒しているのと同じであって、わざわざ相手にそんなマネをする魔法使いは居るはずがない、って」

「良く分かってますね。一応、クレアを下宿させてるだけはありますか」

「知識だけは知っていて、他は何も知りませんよ。……魔法使い同士の抗争なんて、色々と面倒臭そうですからね」


 そうこう言っている内に、バスは終着点――港区役所に到着した。港区役所と言っても、目の前に区役所の庁舎がいきなりこんにちはする訳ではなくて、最近出来たショッピングモールの前にバス停が設置されている。かつてはもう少し離れていたらしいけれど、ショッピングモールが出来たのを機に新しく移設して、今はこの形になっているらしかった。細かいところまでは、詳しく知っているつもりはないけれど。


「はいはい、それじゃあ次は……信号を渡って向こう側ですかね」


 バス通りは、とても幅が広い道路となっていた。上には高速道路が走っていて、少し暗い。そして大量の車が今もずっと走っている。信号が長く感じられたけれど、それはきっとこの為だろう。この道路は紛れもなく、幹線道路なのだ。


「この道路をずっと行くと何が?」

「名古屋港に到着すると思いますよ? この道路は港に行くトラックが多く往来するものですから、交通量も自ずと多くなるんです。まあ、その辺りは致し方ないことではありますね」

「で……バス停は向こう側、と」

「別に一個手前で降りても乗り換えは出来るのですが……どうせなら始発から乗っておきたいと思いましたので。大して時間も変わりませんし」

「それに乗れば、河合小橋まで行けるんですか?」

「河合小橋には何があるんでしょうねえ。ワクワクが止まりませんよ」


 知っているんじゃないのか?

 僕はそんなツッコミをしようかと思っていたけれど、それすらも最上さんの考えであるとするならば、僕はまんまとそれに乗っかる羽目になるので、辞めた。僕だって思い通りに行かないようにすることだってある。そうしないとつまらないからな、人生。



  ◇◇◇



 かくして、名古屋市最西端のバス停である河合小橋に到着したのは、午後三時過ぎのことだった。バス停は転回場のようになっていて、降り場と乗り場が異なっている。一度バスの乗客を降ろした後転回し、そのまま乗客を乗せていくのだろう。それにしても、終点だから何かあるのかと思っていたけれど――あるのは目の前にある寝具店だけだった。あとは道路が面しているから車がびゅんびゅんと走っているぐらいか。それにしても名古屋市の最西端というぐらいだからもっと都会をイメージしていたけれど、これは想定外。少し離れると長閑な田園風景が広がっているようだし、案外名古屋市にもこういうところがあるのだな、と僕は思った。


「感傷に浸っている暇はありませんよー。この後十五分後にはバスが来ますからね。本日二回目の地域巡回バスです! これに乗って最終中継地点のイオンモールへと向かいましょう!」


 何だか盛り上がっているけれど、それははっきり言って最上さんだけ。僕達はというと――一日ずっとバスに乗りっぱなしだったこともあって、かなり疲れていた。いやはや、椅子に座っているだけなのに、こんなに疲れるんだな。だったらデスクワークで七時間ずっと座りっぱなしの事務職とか、テレワークで仕事をしている人なんかは、どうやって身体の痛みを治しているのだろう? ……ああ、もしかして、その為に整骨院が存在するのか? 脱臼とか骨折の治療の為にある訳ではなくて。


「地域巡回バスって、一時間に一本しか走っていないとかいう……あの?」

「はい! それでいて乗客も居ないので営業係数ワーストを誇る路線でもあります」


 ひどい物言いだな、それ。間違っていないにしろ、それはいくら何でもひどい言い方じゃないか?


「まあまあ、気にすることはありませんよ。別に今はバスの運転手も居ない訳ですし……。流石に私だってTPOぐらい弁えますよ。だから、あの場では話していなかったでしょう。赤字路線に乗り通す旅をする、なんて」

「そんな裏目標、聞いたことありませんよ。いったいいつ決めたんですか?」

「今朝、出発する前にですね。……まあ、名古屋市をぐるりと一周するとなると、自ずとこういう赤字路線を巡るようになってしまうんです。名古屋市……いいえ、それ以外を含めた愛知県は車社会ですからね。ほら、豊田市には天下のトヨタ自動車がありますから。でも、トヨタ自動車は鉄道で通っている人も居ると言えば居るんですよね……。近年は環境問題が色々と取り上げられていますから。ほら、高蔵寺駅で青色のカラーリングの電車を見たでしょう? あれが愛知環状鉄道……実際には環状運転していないんですけれど、環状線にする名残があって、ああいう名前になっているんでしたが、あれはちょうど豊田市を通るんです。今は唯一の豊田市を走る鉄道路線だったかと記憶しています」

「そうなんですか。詳しいですね。バスだけではなくて鉄道も……」

「名古屋暮らしが長いものですから、色々と情報は持っているんですよ。一日フリーパスを使って名鉄全路線を乗り倒したり、エヴァンゲリオンのミュースカイに乗りに行ったり、三日間で近鉄の全路線を乗り尽くしたり……。いやあ、近鉄の時は大変でしたね。お金を節約するために特急をなるべく使わずに移動したんですけれど、一回に乗る電車の時間が長くて。三時間ぐらいずっと座っていることもありましたよ。おまけに青山町辺りは携帯の電波も途絶えがちだからスマホで時間を潰すこともできなくて……。あれ、何とかならないんでしょうかね?」


 僕に言わないで携帯会社の担当者に言ってくださいよ。カバー率九十九パーセント以上を誇っているなら、その辺りも何とか修繕してくれるんじゃないですか? 使用するユーザーが居なかったら難しいかもしれませんけれど。

 


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