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魔法少女は笑わない  作者: 巫 夏希
第四話 魔法少女の冒険!
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第四話6  『名古屋市一周旅行⑥』

「エレナちゃんは携帯電話を持っているのかしら?」


 最上さんの言葉に僕は頷いた。そういえば今まで出会ってきた魔法使いって皆携帯を持っていない気がする。エレナは携帯電話を持ち歩いていたような気がしたけれど……ええと、何で持っていたんだっけ? 何か理由があったような気がするけれど、最近忘れっぽくなっちゃったなあ。


「魔方陣を携帯に……保存? してるから、って言ってたの、エレナ」


 クレアの言葉を聞いて僕は思い出した。漸く、思い出した。ああ、そうだった。そういえばそんなことを言っていたような気がする。エレナは名前の通り『土』を人形にする魔法を使うことが出来て、そのためにいつも魔方陣をあれやこれや描いている暇がないから、電子データとして保存しておいて、いつでも使えるようにしているんだったな。魔法使いって、歴史上で見たら科学技術なんて大嫌いだ、なんて言ってもおかしくないような存在だと思ったけれど、エレナみたいな科学技術と融和している魔法使いも居るんだな、なんて思っていたんだっけ。


「魔方陣を……携帯に? へえ、良い時代になったわねえ。私も伝聞でしか聞いたことがないけれど……昔は折りたためる薄いシートに魔方陣を描いていたとか……。シートならいくら折りたたんでもそれ程厚みは出ないだろうし、そのまま燃やしてしまえば証拠隠滅にもなるから、って。でも、証拠隠滅する程のことって何かあるのかしら……」

「魔法使い同士の抗争に巻き込まれたときは、それを使うケースが良くある」


 それに対して回答したのはクララだった。


「魔法使い同士の抗争?」


 僕は、クララの言葉を反芻する。


「魔法使いは、敵の魔法使いの情報を入手したがる。当然だ、敵の弱点さえ手に入れば攻略するのも簡単だし……もし敵の魔法を使うことが出来れば、それだけで強力なアイテムとなる。しかしながら、それを簡単に認めないのが魔法使いだ。魔法使いの使う魔法というのは、ブラックボックス……つまり秘匿性に富んでいる。その秘匿性を失いたくないために、魔法使いは自らの身に危険が及んだとき、自らに機密情報を残さないために、自らの持っている魔法を全て消してしまうことだって、十二分に考えてる、ってこと。私だって、クレアだってその選択肢は持ってる」

「機密情報を漏らさないようにする……ねえ」


 それって、スマートフォンを使っている時点で問題ないのだろうか。スマートフォンのデータを簡単に削除する方法はごまんとあるけれど、逆に簡単にスマートフォンのデータを引き出す方法だってある訳だし。……或いは、そういうことはしっかりと把握しておいてプロテクトでもしっかりかけているのかな。


「……やっぱり私も、携帯電話を持った方が良いの?」


 クレアはいつの間にか注文していた――大方最上さんにお願いしたのかもしれない。だってクレアは初めてハンバーガーチェーンに足を踏み入れた訳だし――シェイクを飲みながらそんなことを言っていた。携帯電話、持つことは悪くないし、駄目とは言わないけれど、リスクもあるしな。パソコンと同じようにウイルスに感染する可能性だってある訳だし、大量の料金プランに翻弄される人間だって数多く居る訳だし。それをいかに乗り越えていくかでスマートフォンを使うか決めるって感じだよな。最早今の人間ってスマートフォンを使っているというよりかは、スマートフォンに使われている人間の方が多いんじゃないか?


「携帯電話は……そうですねえ、持っておくのは良いことだと思いますけれどね。だって、クレアちゃん、今は公衆電話で電話をするぐらいでしょう?」

「公衆電話?」


 ……まさか公衆電話も知らないなんて言わないだろうな、この箱入り娘。


「……魔法都市には公衆電話がないんですよ。全てテレパシーで何とかなっちゃうので。というか、そういう魔法使いしか住んでいない都市だから、魔法都市という名前が付けられてる訳だし」


 ああ、そうか。何というか、普通の価値観が成り立たない場所なんだな、そこって。別に良いけれどさ。魔法使いって、普通の人間とは常識が成り立たない範疇の存在だったな。僕が知らない振りをしていたような気がしていたけれど、それについてはあまり語るべきところでもないし、語るに落ちると言ったところなのかもしれないし。

 それにしても――未だに思うところはある。それは魔法使いはどうして、いや、どうやって人間とともに生活してこられたのかという点だ。普通に考えれば辿り着く範疇のことであったとしても、やはり疑問を浮かべざるを得ない。

 僕達の常識では、捉えようがない存在なのは紛れもない事実な訳だし。


「魔法使いは、だから、人と一緒に暮らしてくことを望んでる。普通の人間がそれを望んでなかったとしても、私達魔法使いは手を取り合って暮らしていけたら良いな、って思ったりする訳。……それは甘言だってことは、誰にだって分かることなんだけど」


 ……いや、それは甘言で片付けて良い問題ではない気がする。それは誰しも抱いても良い信念であるし、その信念を実現させるために色々と行動を起こすことは別に間違っちゃいない。それを間違った方向に向けてしまうことが問題であって、それについて否定することは、おかしな話だ。否定しない世界であるべきだ、と思う。否定しないとやっていけない世界など、なくなってしまえと思う。……それは僕のエゴなのかもしれないけれど。


「……さて。そろそろバスの時間も近づいていることですし。そろそろここを出ましょうか。皆、お腹いっぱいになった?」


 そういえば。

 僕達は今ハンバーガーを食べに来ていたんだったな――そんなことを思いながら、食べかけのハンバーガーを強引に口に運び、ウーロン茶で流し込んでそのまま片付ける場所へと向かった。ここで時間をかけてしまったら、周りに迷惑がかかるし、何しろスケジュールを立てている最上さんに何も言えなくなってしまう。きっと最上さんはずっとスケジュールを立ててくれていたのだろうし、死に物狂いで。……いや、最後は言い過ぎかもしれないけれど。


「……カズフミは早食いが得意なの。そうに違いないの」

「早食いを得意にするのはどうかと思うけれどね。何せ、早食いは死人が出て、色々と問題になったこともあった訳だし……」

「?」


 そこは分からないのかよ。何か都合の悪いことになると耳を塞ぐ、悪い人間みたいな感じになっているぞ、クレア。まあ、魔法使いに人間の常識は通用しないんだから、そこに関しては別に何も言うことはない訳だけれど。それを言ったところで、僕に何か利益がある訳でも不利益を被る訳でもないんだしな。毒にも薬にもならない、とはこのことを言うのかな?


「……間宮くん、いつまでご飯を食べているのかな? 置いて行かれても問題ない、というなら別に否定はしないけれど……。ここから自分の家まで、一応一本のバスで帰宅出来るとはいえ。一応本日の行程の半分も進んでいないことになる訳だけれど?」


 最上さんから『良いからさっさと準備をしやがれ』的な言葉を頂戴して、僕ははいすいませんと従うことしか出来ないのだった。長いものには巻かれろ、それが世の中の最善な渡り方だ。


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