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魔法少女は笑わない  作者: 巫 夏希
第一話 魔法使いがやってきた!
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第一話4  『捜し物は何ですか』

 それから、僕とクレアの付き合いが始まるようになった。付き合いと言っても恋人関係とかそういう訳ではない。どちらかと言えば、損得勘定? 僕としても、クレアとしても、多分それが一番都合が良いという解釈に至ったのだと思う。いずれにせよ、それが行われるのはいつも屋上でのことだった。それ以外の場所では関わることはしない。必要がないと思っていたし、それはクレアも思っていたことなのだろう。僕は流れからそのままクレアと呼ぶようになり、クレアは僕のことをカズフミと呼ぶようになった。


「クレアは魔法少女なのかい?」

「正確に言えば、魔法使いなのだけれど」


 クレアはそう言って、色々と説明を始めた。クレアの説明はとても長いので、掻い摘まんで理解しないといけない訳だが。


「先ず、魔法使いについて簡単に説明する必要があるの。……魔法使いについて、前回した説明は理解してくれてる?」

「完璧ではないけれど、ある程度なら。出来ることなら、もう一回してくれると嬉しい」

「……そう。じゃあ、するけれど。良く言われる『魔法少女』という存在は、魔法使いの少女、という意味なの。だから、魔法使いが第一にあって、その中にある小さい種類(カテゴリ)が魔法使い、って訳。そこまでは分かってる?」


 僕は頷く。クレアはそれを見て、さらに話を続けた。


「魔法使いは全国に散らばってる訳ではないの。確かに、政府と協力するために東京に居る魔法使いも居るし、各都道府県に数人は魔法使いは居る。決して珍しい人種ではないのかもしれない。けれど、その大半は、魔法都市に住んでいる。ええと、カズフミの知ってる知識で言うならば……奈良県って言うのかしら? そこの山中にあるのよね。山中にあるから行くのも一苦労だけれど、魔法使いにとってはそれも一種の『修行』としてる訳」

「……ああ、まあ要するにお坊さんとかその類いだろ」

「違うけれど、まあ、それで理解してるならそれで受け取っておくの」

「でも、魔法使いは基本的に魔法都市から出て行くことはないんだろ? だったらどうしてクレアはわざわざ県境を越えてここまでやって来たんだい。どうやって来たのかは知らないけれどさ」

「……それについては、私の魔法について説明しておく必要があるのだけれど」


 魔法――僕も社会の授業である程度学んでいるから知っているつもりではある。確か、今の科学ではとても辿り着くことの出来ない事象を操作することの出来る学問、だった気がする。実際問題、どういうメカニズムでそれが行われているのかさっぱり分からなくて、わざわざ文部科学省に魔法庁という行政機関が設立されて、魔法について学び出す始末である。しかしながら、魔法を幾ら学んだところで、僕達現代人が魔法を使うことは殆ど出来ないと言われている。ただ、一部の存在を除いて――。


「私の魔法は、一言で言えば『時間操作』系になるの。……カズフミは、この前の事故に遭遇したのよね?」

「遭遇というよりかは、体験と言った方が良いような……。いや、違うか」

「時間操作と一言で言っても、様々な種類があるの。例えば、時間遡行(まきもどし)時間進行(はやおくり)時間停止(いちじていし)……。その中で私の使える魔法は『時間遅延(スローモーション)』なの」

「時間遅延?」

「要するに、時間の流れをゆっくりにする、ということ」

「それって……ああ、成る程。だから、あの時、周りに居た僕達は時間の流れをゆっくりに感じたのか。でも、それって時間停止よりも使い勝手が悪いように見えるが」

「そう。時間遅延って、使い勝手が良いように見えて、そう見えないものなの。例えば、これ」


 クレアはポケットから砂時計を取り出す。そういえばこの砂時計、この前の事故の時にも使っていたような気がする。


「この砂時計が、何か?」

「この砂時計をひっくり返すと時間が計測出来るようになってるの。そして、その時間は約五分。その時間までしか、私は時間を遅延させることが出来ないの。その後は、五分後の世界が一気に押し寄せてくる。要するに、ツケを支払ってるようなものなの」

猶予期間(モラトリアム)、って訳か」

「そういうことなの」


 つまり一度使ってしまえばその間完全に停止してしまうことになるだろう、時間停止の魔法と比べると、使い勝手があまり良くないということだ。時間がスローモーションのように動いていく、ということは、例えば自分に起こるであろう出来事を避けるためには、たとえ時間遅延の魔法を使っても、その出来事を何とかしない限り難しいということだ。――あれ、でもこれって、時間停止しても同じなのでは。

 牛乳パックの中身はもう空になっているようだったのか、クレアは中の空気を吸って、完全にぺしゃんこにしてしまう。それは別に普通の行動だった訳なのだけれど、少なくともクレアがやっていると、何だかそれは奇妙な価値観に囚われたような錯覚に陥ってしまう。


「……でもさ、そんな魔法少女が」

「魔法使い!」

「……ああ、悪かった。悪かったよ。で、そんな魔法使いがどうしてこんな場所に?」

「こんな場所ってどういうこと?」

「外聞を広げるためなら、名古屋じゃなくて大阪か、もっと広がって東京まで行くんじゃないか、って話だよ。確かに、名古屋は日本三大都市の一つに数えられている。ただまあ、それには諸説あると言えばそれまでだけれど。しかしながら、その三大都市の中でも、名古屋は手落ち感があるのは否めない。東京や大阪と比べれば、人口も経済も全く適わない訳だしな。で、だ。どうしてクレアは奈良県の山奥からこんな場所にやって来たのか、って聞きたい訳だよ」

「……捜し物があって」


 クレアの言葉に僕は首を傾げる。魔法都市で過ごしていることが多い魔法使いが、言ってしまえば外部の都市に『捜し物』? 正直、その捜し物は僕達科学文明の人間にも分かるような代物なのだろうか。それについては、今あまり語るべきテーマでもないのかもしれないけれど。


「その、捜し物は、わざわざここまで来ないと見つからないのかい?」

「ここにやって来た、という情報は得ているのだけれど」


 やって来た、ということは動物なのか。それだけは明らかだった。だって意識を持たない物体なのであれば、自らの力でやって来ることは出来ないのだから。


「それっていったい、誰なんだい?」

「……それは、ここでは言えない」


 クレアは立ち上がり、空を見る。キンコンカンコン、と予鈴が聞こえてくる。予鈴が鳴ったということは後五分で昼休みが終わり、午後の授業が始まるということだ。僕はとっくにご飯を食べ終わっていたから、別に問題は無いのだけれど。


「ねえ、カズフミ」

「ん?」

「今日――私と一緒に帰らない?」


 その言葉は、何処かミステリアスな雰囲気を漂わせていた。


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