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魔法少女は笑わない  作者: 巫 夏希
第四話 魔法少女の冒険!
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第四話1  『名古屋市一周旅行』

「冒険がしたいの!」


 そうキラキラ目を輝かせて言ったのは、その口調からして誰かというのは分かるかもしれないけれど、クレアだった。

 いつもの喫茶店、いつもの席で、いつもの三人組でコーヒーを飲んでいた週末の午前九時。そもそもこんな時間に喫茶店に来る人なんてモーニング目当てだけであり、しかし、モーニング戦国時代に突入している名古屋市では、こういう個人経営のお店ではなかなかチェーン店に立ち行かないところがあり、とどのつまり、最上さんの喫茶店は閑古鳥が鳴いているところだった。


「毎回注文してくれるのは嬉しいんですけれど……クレアちゃんのお姉さんにお金を貰うのは何かと忍びないですわね……」

「そんなこと言ったら経営が立ち行かなくなりますよ。ご厚意を普通に受け取らないと。逆に罰が当たりますよ。……にしても、このタマゴサンド美味しいですね! パンもふわふわだし……」

「あ、あら、そうですか? 何か、褒め馴れていないから嬉しくて……」


 と、いう訳で。


「で、何処に冒険したいんだ? 僕達中学生が出来ることと言えば……やっぱり市内に限られる話になると思うけれど」

「名古屋市は広いですからねえ。……バスで市内一周も出来ますし、同じ名古屋市とは思えない光景も広がっていますし。私も若い頃はあれやこれや旅をしたものですよ。なかなか面白いものでしたし」


 それは意外。


「それより、旅をしたいなら、バスの方がやっぱりお金がかからないし、楽だと思いますよ。名古屋市には沢山バスが走っていますから。バスと言っても沢山種類はありますし、乗るだけで飽きないと思いますが」

「そうなんですか?」

「調べると直ぐ出てくると思いますけれど……。ほら、例えば、ゆとりーとラインとか見たことないですか?」

「あの、新交通システムみたいなレーンを走っているバスのことですよね?」

「身も蓋もない言い方ですけれど、その通り。それ以外にも、バス専用レーンを走る基幹バス、高速道路を走って市内の南端まで移動する高速一号系統、赤字路線多数の地域巡回バスと……」


 ストップ、ストップ。

 それ以上話をしたところで、僕達が理解出来そうにもなかった。だから、僕の独断でここはストップさせてもらった。最上さんがつまらなさそうな表情を浮かべているけれど、それはそれ、これはこれ。


「それって全部、運賃一緒なんですか? 良くそれで経営が成り立ちますね……」

「そうでもないですよ? 基幹バスは市バス以外も走っているので、そちらに乗ると場合によっては高い運賃になってしまいますし、高速一号系統は高速代を別途支払わないといけませんし、地域巡回バスは一時間に一本しか走っていませんし。メリットもあれば、デメリットもあるということですね」

「……そんなものですか」

「そんなものです。……で、クレアちゃんはいったいどんな旅をお望みですか?」

「近場で、色々遊べるところが良いの」


 そりゃ我が儘な。


「うーん、でも、近場で遊べる……となると、やっぱりバスで色んな場所を巡ってみるのも面白いんじゃないかしら? 鉄道だと往来が難しいし運賃が嵩むけれど……バスだったら、そんなに高くならないし。それに、名古屋市は色々商業施設があるから、何日だって遊んでいられますよ?」

「それが良いの!」


 クレアの鶴の一声により――明日の日曜日に名古屋市をぐるりと巡ってみることになった。

 良く考えれば、僕もそんなに名古屋市に対して詳しい訳ではないし、それもありかもしれないな――なんて思うのだった。それに、最近魔法使いとの戦闘が多くて何かと息苦しいことが多かったし。だから、その小旅行では、何も起きなければ良いな、なんて考えていた。それこそ、何かのフラグに取られそうな言動ではあるのだけれど。



  ◇◇◇



 日曜日、午前八時。僕達は、オアシス21にやって来ていた。またここかよ、と思うかもしれないけれど、バスターミナルでもあるからして、ここをスタート地点にするのは案外仕方がないことなのかもしれない。


「……で、最上さんも付いてくるんですか?」

「だって暇ですし」

「暇って……」

「開いたら、それだけで赤字なんですよ? ペイ出来る人数が来店して、それなりのメニューを注文してくれないと何も始まりません。だったら、たまの休みを使って旅行にでも行こうじゃないか……なんて思ったりした訳ですよ」

「良いんですか? 犬山とか内海とか行かないで」

「何で場所のチョイスが県内限定なのかは置いておいて……。でも、悪くないんですよ、名古屋市内の小旅行と言うのも。何せ、名古屋市を全て知り尽くしている、という訳でもありませんから。名古屋市を四方八方巡るのも悪くありませんよ。何せ、名古屋市にある市バスは百系統以上あるとも言われていますから。……そりゃ、赤字の路線も多いですよね」

「……赤字って具体的に、どういう意味で捉えるんですか?」

「指標がありますよ、例えば、これ」


 最上さんはバスの時刻表の左下を指さした。そこには数字が書かれたラベルが貼られている。


「これは……?」

「営業指数、って聞いたことありますか?」

「営業指数?」

「簡単に言えば、百円の儲けを出すために幾らかかるか、という指標ですね。このバスなら、百五十五なので……百円の儲けを出すために百五十五円かかるという感じです。つまり、五十五円分赤字ってことですね。これでも、市バスでは赤字が少ない方なんですよ。多いところだと、三百を超える営業指数になっていたり」


 つまり、百を割り込んでいたら、それだけ黒字ということか。


「今から乗るのは、何のバスなんだ?」


 言ったのは、クララだった。


「あれですよ」


 最上さんが指さすその先には、赤いカラーリングのバスが止まっている。市バスの車両って、青いカラーリングが主体じゃなかったっけ?


「あれは、基幹バスですよ。名古屋の中心地である栄から、東部に位置する引山バスターミナルへと向かうことが出来るバスです。市バス意外にも名鉄バスも運行していて……名鉄バスは名駅から引山を経由して、遠いところは尾張瀬戸駅まで続いているんです。でも、それに乗って行くなら栄経由で名鉄に乗った方が早いと思いますけれどね……」

「じゃあ、ここから乗るということは……使うのは市バス?」

「そう! だって、市バスだけで一周することが目標なんですから。そして、その合間に東西南北の端を目指すのも悪くないかな、って。とはいっても、東と北、南と西は同じバス停なんですよ。それぞれ(とう)(ごく)(さん)フルーツパークと(かわ)()()(ばし)という名前ですね」

「そこにはどうやって?」

「二度乗り換えが必要なんですけれど」


 最上さんは何処からか大きな地図を取り出した。


「引山から、四軒家西口まで乗って、そこから終点まで行きます。終点近くの光景は結構驚きますよ? 岐阜県に近いですから、何だか長閑な場所ですしね」

「ゆとりーとラインも走っているんでしたっけ?」

「詳しいですね。もしかして予定がありました?」


 偶然ですよ――僕はそう言いながら、今まで調べていたスマートフォンを仕舞い込んだ。



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