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魔法少女は笑わない  作者: 巫 夏希
第三話 魔法少女同盟結成!
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第三話5  『事件調査、中盤』

 ドーナツショップは煌びやかにドーナツを並べている。ショーケースの中に大量の種類のドーナツが並べられており、キラキラとした笑顔の店員がこちらを見ている。その笑顔を見ると、まさしく僕のような捻くれた人間を知り合いに持つことは一切ない人間だと言えるだろう。もしそれを偽っているのなら、それは確かにすごいことだと言えるけれど、しかしながら、僕にとってそれが正しいか正しくないかなんて、今は関係なかった。そもそも僕は甘味については興味がない。食べたくないという訳ではない。食べようと思えば食べられるのだ。しかしながら、甘味の取り過ぎが良くないこともまた事実。とはいえ、たまに取るのも悪いものじゃないとも考えている。だから、こうやってドーナツを食べに来たという訳。はてさて、いったい何を食べようか――何せ僕以外の二人はこのようなお店に来たことがないと言っているのだ。魔法都市はどれだけ閑散とした街なのだろうか。


「ええと……何だか色んなドーナツがあって気になるけれど、何を食べれば良いのかしら。このフレンチクルーラーとか美味しそうだけれど」

「私、これが良いの! 小さいドーナツがたくさん入ってるの。ドーナツポップというみたいなの!」

「はいはい、ドーナツは逃げないから、別に慌てて注文する必要はないからな……。ただまあ、バスの時間は容赦なくやって来るからそこについては気をつけておかないと困るぞ」

「その時は私の魔法を使えば良いの!」

「こんな時に魔法を使って良いのかよ!」


 魔法ってもっと大事な時に使うべきだと思うんだけれどな……。


「どれになさいますかー」

「ええと、フレンチクルーラーとドーナツポップ八個入りと……あと、ポン・デ・リングを一つ。飲み物は……アイスココアを三つで」

「かしこまりましたー。フレンチクルーラーとドーナツポップ八個入り、ポン・デ・リング一つと、アイスココアが三つでございますねー」


 店員の反芻を聞いて、僕は頷く。


「それでは、準備致しますので、暫くお待ちください。お会計は――」

「あ、お金は誰が支払うの?」

「取り敢えず僕が払っておくよ。……言っておくが、奢りじゃないからな。ちゃんと払ってくれよ」


 そう言って、僕は財布を開けた。



  ◇◇◇



 さて、ドーナツ店での会話は特段盛り上がることもなかったので、語ることもないだろう。というか、あんまり長々と関係ない話をするのもどうかと思う訳だし。という訳でドーナツを食べて適当にココアを飲んでいたら、あっという間にバスの発車時刻の五分前になってしまっていた。


「いやあ、これが市バスという奴かい? 資料では見たことがあるけれど、恥ずかしながら、実際に乗ったことはないのだよね。恥ずかしいことになるかもしれないけれど、でも、魔法都市を出たことのない魔法使いにとっては当たり前のことなのだよ。いやあ、素晴らしいことだよね、本当に! 一般人と混じって魔法使いとして働いてる人が言うには、魔法を使う機会が減らされて困る、なんて聞いたことがあるけれど、それって確かに言われてみれば、って感じだよね。そりゃ、使わなくなるよ」

「まあ、文明の利器は使っておきたいところではあるしな……。知っているか、クレア? 人間って、動物の中で唯一あるものを使うことが出来るんだ。何だと思う?」

「何で私に話を変えたの……? うーん、でも、何だろう。魔法?」

「おれは、全員使える訳じゃないだろ。僕のような一般人は魔法の適性がない訳だし」

「……ああ、それなら聞いたことがあるよ、火だろう? 人間は今まで生肉をそのまま食していた。しかし、ある日、火という概念を覚えた。それによって、調理ということを覚えた。火を恐れる動物の習性を利用して、動物除けにもなった。そうして、人間は今日に至る発展の基礎を築いた、なんて言われてる。……クレア、それは魔法学校初等科でも習うような、基本だったはずだぞ?」

「……そう言われてみたら、そうだったような気がするの。お姉ちゃんは、流石なの」

「話を戻すけれど、人間は火を含め、様々な技術を行使することが出来る。それがどれぐらい凄いことなのかは、はっきり言って一言じゃ説明しきれないけれど……、でも、その全てをまとめると、人間は人間であり続けるべき、簡単な生き方というのが……」

「科学技術を使う、ということなの? でも、それって……」

「――それって、どっちがどっちだか分からないよね。人間が科学技術を使ってるのか、科学技術が人間を使ってるのか……」

「それは……」


 ……どうなんだろうな。確かに、あまりに進歩し過ぎた科学技術って、人間がそのままコントロール出来るのかどうか全然分からないし。でも、それって――。


「魔法にも、言えることなんじゃないか?」

「あら。魔法について、口出し出来るようになったの、カズフミ? 魔法は、魔法使いしか使えないし、魔法に使われるようなことはないと思うの」

「うーん、そういうものかな。……でも、やっぱり、魔法使いと一般人って全然ニュアンスが違うよな。まあ、分かろうとしていないだけなのかもしれないけれど……」


 バスが発車する。土曜日の昼間ということもあり、混んでいる可能性も考えていたけれど、乗客は僕たちを含めて五人ぐらい。まあ、市内ギリギリを走るバスだから、そんなもんだよな。

 梅森荘に到着すると、そこから乗る人は大量に居るようだったけれど、降りるのは僕たちだけだった。バス通りから外れて道をひたすら突き進むと、いきなり転回場が現れる。ここにあるということは、さっき乗っていった人たちみたいに使う人が居るってことなんだろうな。


「……で、問題の現場は何処?」

「確か、このバス停だったはずだぞ」


 バス停の近くには、血痕が残されていた。強いて言うならば、それだけ。でも、確かにその通りなんだよな。未遂とはいえ、警察が調査している事件だ。ってことは、警察が何らかの調査を既に行っていて、ここにあった何かしらの証拠は全て没収してしまっているはず。となると、何で僕たちはここに来てしまったんだろうか……。もし何も得られなかったら、ただドーナツを食べに来ただけなんだけれどな。


「……血の量は、かなり多いように見える。女子高生(ひがいしゃ)は死ななかったんだな?」

「だったと思うけれど……。話、聞いていなかったのか?」

「確認だよ。私の聞き間違いも十二分に有り得る訳だしな。……ということは、やはり、殺しが目的だった可能性がある。錬金術師がわざわざ人を殺さなくてはならない理由は何だ?」

「錬金術師とは未だ決まった話ではないと思うけれど……」

「あくまで、可能性の問題だよ」


 クララはそう言って、血痕に触れる。


「……まあ、仕方ないところではあるが、既に血痕は固まってるか」

「それだけで調査をすることは可能なのか?」

「出来ないことはないね。出来ることなら凶器を特定したいけれど……そうもいかないだろう。ところで、最上さんの連絡先は知ってる?」

「クレアなら知っているはずだろ」

「そりゃそうだな。……クレア、知ってるかい?」

「知らない訳がないの。……でも、どうやって電話するの?」

「僕がスマートフォンを貸してやるよ。ったく、魔法使いは電話を持たないのが当たり前なのかね……」


 でも電話をしてもらわないと話が進まなさそうだ。そう思って僕はスマートフォンを手渡う――勿論それだけでは駄目なので通話のやり方も教える――ことにした。



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