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魔法少女は笑わない  作者: 巫 夏希
第三話 魔法少女同盟結成!
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第三話3  『おてんばシスター系の姉③』

 家に帰ると、玄関にすでに靴が一足置かれていた。それは革靴で、すぐにそれが父さんのものであると理解した。僕の父さんはIT企業のサラリーマンだった。サラリーマンとは言うものの、所謂営業マンだとか、机上作業がメインという訳ではなく、実際に現場に赴いて電気工事や管理業務を執り行う仕事をしている、らしい。らしい、というのも僕がそれについてあまり詳しく理解していないからであり、僕が中学生時代を半分も過ごしているにもかかわらず、それについて一切理解していないということからも、父さんの仕事の難解さが理解出来ると思う。

 リビングに入ると、青い作業着を羽織った父さんがソファに座ってテレビのリモコンを操作しているところだった。


「おお、和史。今帰りか?」

「……父さんこそ、今日は早かったんだね?」

「回線に異常がなければ定時で帰ることが出来るんだよ。……それに今日は飲み会もなかったからね」


 名古屋というのは居酒屋が結構多いらしく、飲み屋街もかなり多いらしい。そのため、仕事場の人間は毎日湯水の如く酒を浴びるように飲むのだという。それってアルコール依存症一歩手前どころか沼に肩まで浸かっているような感じがするのだけれど、産業医あたりは注意しないのだろうか? なんて思ったりするのだけれど、それについてはまったく気にしちゃいないんだろうな――大方、ちゃんと仕事さえしていれば問題ない仕事なんだろう、と思う。父さんの仕事を卑下するつもりはないけれど。

 そのままUターンして、僕は自室へ向かおうとしたのだが、


「そうだ、和史。……学校は順調か?」

「……どうしたのさ、藪から棒に。全然問題ないよ。何か問題でもあった? 僕が学校生活に何か問題がありそうな素行でもしていたかな?」

「いや、そんなことはないんだが……。いや、良い。父さんの気のせいだ。……さて、これから飯を作らないとな」

「疲れているなら、別に僕が作っても良いけれど」

「何を言っているんだ。父さんは、お前との食事を楽しみにしているんだから、そんなこと言わないでくれ。準備する時間も楽しみの一つなんだよ」


 とは言うものの、父さんの料理のレパートリーはそれ程多くない。それでも、一般の男性に比べれば多い方かもしれないけれど。


「……まあ、いいや。取り敢えず、着替えてくるよ。準備、手伝えることもあるだろうし」

「そうだな。……そう言ってくれると、俺も有り難い。……そうだ、和史」

「何?」

「……いや、何でもない」


 変な父さんだな――そう思いながらも、僕は自室へと戻ることにした。その違和感を、少しでも早く拭い去りたかったから。



  ◇◇◇



 そして、土曜日。いつも通り――いつも通りと言えるぐらい僕もここに入り浸っていることになるのか――クレアの住む喫茶店にやって来た僕だった訳だが、到着した時にはすでにクララが店の奥のテーブル席に座っていた。いや、それだけではなく、ホットコーヒーと厚切りトーストに小倉ペースト――大方、ホットコーヒーにモーニングセットが追加された、という感じだろう。名古屋及びその近郊にとって、モーニングは文化とも言える概念だ。喫茶店あってモーニングがあるのか、モーニングあって喫茶店があるのかと言ってもおかしくないぐらいの感じだ。卵が先か鶏が先かということわざを名古屋のテイストに当てはめると、そんな感じになるのかもしれない。


「やあやあ、それにしても名古屋のモーニングって最高だね! コーヒー注文しただけで、これがついてくるなんて。しかも聞いた話によると、喫茶店によってサービスの度合いが違うなんて聞いたことがあるぜ。しかも、昼になってもモーニングをやってる場所もあるとか何とか。それって最早モーニングの言葉の意味を疑っちゃうぐらいの価値観の崩壊をもたらしてるよね。一宮? って場所にはモーニングのバイキングがあるなんて聞いたこともあるし、名古屋だけではなさそうだけれど。ってか、この辺の喫茶店、採算取れてるのかな? 赤字覚悟で地元に還元してるって感じなのかな? いずれにしても、お財布に優しい、最高な文化なのは間違いないよね。ところで、何故座ろうとしないんだい? 私の前に座るのがいやなのかな?」


 そんな訳あるか。ソーシャルディスタンスを活用するんだよ、僕は。


「そんなこと言っても無駄なの。だったら、この前の話し合いはすでにソーシャルディスタンスが崩壊してるの」


 見ると、クレアが奥の扉から出てきたタイミングだった。


「何だ、クレア。今日はやけにのんびりだな」

「そういうつもりではないの。私はいつも裏に居るだけなの。……そうしないと喫茶店に迷惑がかかるからなの」

「別にいいのに、クレアちゃんは本当に世間体を気にしてくれていて……」


 最上さんが笑いながら答える。成程、確かにそう言われてみればそうかもしれない。クレアは魔法使いで、一般人に比べるとこちらの常識が通用しないタイミングも出てくるっちゃあ出てくるけれど、しかし、裏を返せば、普通の人よりもそういうところを気にしている、とも言えるかもしれない。


「で、だ。梅森荘にはどうやって向かう? バス停と言ってたからには、バスが走ってるんだろう?」

「それについてなんだけれど……」


 僕は昨日調べておいたのだ。それについて発表しておくことにしよう。梅森荘――名古屋市の東端に近い部分にあるそのバス停に向かうには、一回の乗り換えで行くことが出来る。先ずはここから歩いて桜通線と鶴舞線の乗換駅である御器所駅へと向かう。その後鶴舞線に乗り込み平針駅へと向かう。平針駅は運転免許試験場があることで有名な駅だ。その駅から走るバスの大半はその運転免許試験場を通って桜通線の終点たる徳重駅まで向かうのだけれど、僕たちが向かうのはその逆。つまり北側に向かって走るバスに乗るという訳。東山線の本郷駅に向かうバスがあるのだけれど、それに乗れば、梅森荘バス停に到着するという訳。


「つまり、地下鉄とバスを使えばそこまで行くことが出来るということなの?」


 そういうことを今説明したんだけれどな……。


「善は急げなの。急いで向かうことにするの」

「急ぐのは良いけれど、時にゆっくり向かうのも良いことじゃないかな、クレア? いや、別に悪いことじゃないよ。全然良いことではあるんだよ? 準備は大事って言うし……」

「準備も何もないと思うんですけれど……」「ま、まあ! それもそうだと思うけれど、取り敢えず向かってみるのも一興かもしれない。……で、一つ聞きたいんだけれど」

「何ですか?」

「バスってどうやって乗るんだろう?」


 ……こいつは骨が折れそうだ。


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