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魔法少女は笑わない  作者: 巫 夏希
第二話 魔法使いの矜持!
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第二話9  『魔法工房③』

「……はて、何か理由でもあるかのう?」

「……私と初めて会った時、カズフミは私の人払いを苦もなく乗り越えてきたの。まるでそれに必要な対抗策を知ってるかのような、感じだったの」


 そんなこと言われてもな、知らないものは知らないんだぜ?

 それを聞いたエレナは首を傾げ、僕の顔をまじまじと見つめる。いや、顔だけじゃない。頭から、首から、肩から、腕から、胸から、腹から、股間から、足から、つま先まで。一から十を、ただ舐めるように見つめてきたのだ。


「……あの、何か悪いことでも言ったかな、クレアが」

「そういうことを言いたいんじゃない、阿呆。……人払いを解くことが出来る? そんなことが有り得るものか。それは、おぬしの魔法が中途半端だったとしか言い様がない。そうとしか有り得ないのじゃよ。……しかし、それが本当だという可能性も、捨てきれない」

「どう言いたいんだよ、つまり?」

「つまりじゃな……ううむ、難しい。難しいの。うむ、やはり、持たせない方が良かろう。クレア、おぬしが守りたいなら守ってやれば良い。最悪『匂い』を消せば良いかもしれんが、それは最終手段じゃからのう。おぬしがやりたいことがあるのならば、少なくともその可能性については考えない方が良いじゃろうな」


 つまり、魔法に関するアイテムは手に入らない、って訳か。残念、少しだけ期待していたんだけれどな。こういう場所で手に入る、非日常的なアイテムって、どうしてこうワクワクさせてくれるんだろう? ――ううん、それについては、あまり考えない方が身のためだろう。魔法使いには魔法使いの、そして僕には僕の理由があるのだから。


「まあ、難しいことは抜きにして……取り敢えず私の魔法の解説は終わりじゃ。一応言っておくが、私はこれ以外にも別の方法で魔法を放つことが出来る。……いったい、それは何だと思う?」


 こりゃまた、いきなり過ぎる質問だな――考えられるとしたら、書物とか?


「不正解じゃよ」


 僕の答えにそう返すと、エレナはポケットから掌より少し大きいぐらいのサイズの黒い何かを取り出した。そして、それが何であるか、僕は充分に理解していた。いや、正確に言えば理解していなければこの時代でやっていけないような、マストアイテムでもあったのだけれど。


「……スマートフォン?」

「ご明察。今は良い時代じゃよ。昔は巻物(スクロール)を持ち歩かねばならなかったものを、今はPDFで大量に保存出来るからのう」

「……魔法使いって、こういうの苦手なイメージがあったけれど」

「それは気のせいじゃよ。特に私みたいな外で暮らしてる魔法使いは、猶更この手のものは使ってかないと置いてかれてしまうからのう。……まあ、何事もやり過ぎは良くないが」


 そういうものなのか――と僕は思い、辺りを見渡す。


「それじゃ、ここにある書物とかは、使っていないのか?」

「そういう訳じゃない。特にこういう書物は電子化されておらぬからのう。自分でやるという手もあるが、ああいうのは何かと面倒じゃ。土人形にやらせても良いんじゃが……それもそれで、ちょっと面倒じゃからのう」


 結局、面倒だからやっていない、ってだけじゃないか。しかし、それも何だか俗世から離れた存在である魔法使いらしい、とも思った。魔法使い自身がそういうものをどれぐらい理解しているのかは、正直定かではないけれど。


「……それはそれとして。今日はどうするつもりじゃ? まさかここに泊まるなどと言い出さぬじゃろうな?」


 不意にそんなことを言われて、僕はスマートフォンの時計を見る。時間は午後五時を回った辺り。不味いな、幾ら同じ市内だからと言っても、あまり遅くなる訳にはいかない。だったら、早く帰らなくてはならないだろう。――だとしても、ここからまた数時間かけてバスと電車を乗り継ぐことになるのだが。


「ここまで来た手間賃と、せっかく同盟を組んだのじゃ。少しは世話してやるのも一興かもしれんしのう」

「……と言いますと?」

「送ってやろうと言うのじゃ。ただし、場所は決まってる。栄までじゃ。栄には行きつけの店があるのでな。そこにちょうど(ゆう)()を取ろうと思っていたばかりじゃったし。おぬしらが嫌だというなら致し方なしじゃが……」

「嫌とは一言も言っていないけれど……。でも、一度電話させてくれないか? やっぱり、中学生というのは保護者の目が光って然るべき、といったところがあるからね」

「それは構わんよ。こちらの電話を使うかね? それとも自前のものを?」

「僕はスマートフォンを持っているから、それを使わせてもらうよ。クレアは……僕が終わったら電話すると良い。最上さんの電話番号は知っているのかい?」

「覚えてるの!」


 胸を張って答えるクレア。それならそれで良い。

 と、いう訳で――僕は一度家に電話することになった。家、と言っても僕は父子家庭だ。母親を早くに亡くしている。父親は――普通の公務員だ。だから残業がある場合は仕事が終わらなくて、この時間になると電話をしてくる訳だけれど、今日に限ってはそもそも土曜日であるし、今日は休みのはずだった。父親――間宮和貴は、僕にとって数少ない、絶対に適わない存在でもあった。敵視している、という訳でもあった。何故父親を敵視しなければならないのか、ということについては割愛させて欲しい。それには、それなりに長い時間を必要とするだろうし、いつか語るべき機会が訪れるかもしれないだろうから。


『……もしもし、どうした、和史』

「あ、もしもし、父さん? 実は、友達と晩ご飯を食べることになって」

『そうか。……遠いのか? 帰りが遅くなるなら、車を出そうか』

「ご飯を食べて直ぐに帰るつもりだから、心配は要らないよ。八時ぐらいまでには帰ると思う」

『そうか。気をつけるんだぞ』


 そして電話を切る。続いて、電話番号を入力出来る画面に移動した状態で、僕はクレアにスマートフォンを手渡した。しかし、当のクレアは、何をどう操作すれば良いのか分からない状態に陥っているようで、色々と触ってみていた。


「おぬし、スマートフォンも使えぬと、この先苦労するぞ? 画面に数字が表示されとるじゃろう。それをタッチしてみるのじゃ」


 エレナの助言もあって、クレアは数字の書かれた画面をタッチする。すると、画面が反応してくれたのか、クレアはまた数字を入力していった。――あれ、今思ったんだけれど、バーチャルアシスタントを使えば、口頭で入力することも可能だったのではないか、なんて思ったり。


「……? 何か、私の顔に付いてるの?」

「いや、そんなことはないよ。……さあ、早く電話してくれ」


 そういうことは、思っていても言わない方が身のためだ。それはこの短い人生で学んだこと。それが僕にとって有難いことか有難くないことかと言われたら、それは火を見るより明らかだろう。


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