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魔法少女は笑わない  作者: 巫 夏希
第二話 魔法使いの矜持!
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第二話8  『魔法工房②』

 魔方陣――名前ぐらいは聞いたことがある。といっても、フィクションの世界での話であって、実際の話で出てきた訳ではないけれどね。その記憶が正しければ、確か魔方陣は――。


「そう、魔方陣じゃよ。魔法の結果を生み出すための『領域(フィールド)』とでも言えば良いかのう。……そこのおぬし、一つ質問じゃ」

「え? 僕に聞いているのか?」


 魔法を知らない、ただの一般市民である、この僕に?


「おぬし以外に誰が居るとでも? ……魔法の構成要素を答えてみよ。難しいことかもしれんのう」

「ねえ、それって私が答えちゃ駄目なの?」

「駄目に決まっておろうが。おぬしは魔法使いじゃろうが。そんなことは知ってて当然じゃ」


 まあ、そりゃそうだよな。

 僕は魔法のことはからっきしだ。魔法のことについて語ることが出来るとしたら、精々義務教育の成果を並べることぐらいしか出来やしない。それぐらいの普通な人間なのだから。

 でも、どうしてここでそれを語らせるのだろうか? 僕がこのまま魔法使いについて詳ししくなることを良いことだと認識しているのだろうか。或いは、魔法使いについての知識を試しているのか?


「ほれ、どうした。答えることも出来んのか。……五秒だけ時間をやる」

「空中都市に居たときの大佐ですら三分間待ってくれたじゃないか! せめて一分」

「……ほう、その一分で何をするのか見物じゃの。命乞いか、でっち上げか」


 僕の必死なジョークは通用したのかしなかったのか定かじゃないけれど、いずれにせよ猶予の延長は認められたらしい。では、僕はその一分間で何とかして答えをでっち上げるしかない。これについては何も分からないのだ。天地がひっくり返ろうとも変わらない情報だと言えるだろう。じゃあ、ここからは脳内でストップウォッチを使いながら、考えていくことにする。

 魔法――そういえば魔法と言われて直ぐに思い浮かぶのは、詠唱だろうか。呪文を詠唱すること、それが魔法の醍醐味ではないだろうか、と僕は考えた。剣と魔法のファンタジーの漫画や映画やドラマや小説を読んでいると、確かにそういう場面には遭遇する。では、それが構成要素の一つか、と言われると答えは否だ。何故なら、クレアは魔法を使う時に詠唱をしていない。強いて言うならば、クレアが魔法を使う時にやっていることと言えば、指を弾くことぐらいだ。なら、魔法には必ずしも詠唱を必要としないのか――そう考えるしかないだろう。いずれにせよ、僕はそう考えることしか出来ない。判断材料が少な過ぎる。それと、あそこに描かれている魔方陣、あれもデコイじゃないだろう。つまり、魔方陣も魔法を放つ上で重要な要素に含まれる。そこから導き出される結論は――。


「時間じゃ。答えを聞こうじゃないか」


 滅びの呪文を唱えてやりたかったが、生憎僕は飛行石を持ち合わせていない。仕方ないので、僕がこの一分間で考え抜いた『仮説』を話すことにした。


「恐らく……魔法に必要な構成要素は、『術式』と『合図』だ」

「ほう」

「最初は、やっぱり詠唱が必要なんじゃないか、と思ったけれど……僕が今まで見てきた魔法使いは、どれも詠唱をしてこなかった。だから、詠唱は省略出来るか、或いはそこまで重要視されていないものなんだと思う」


 と言っても、僕は三人しか魔法使いに出会っていない訳だが。


「それで?」

「次に考えたのは、あそこにある『魔方陣』だ。古来の魔法には、ああいう風に魔方陣を描いて魔法を使った、なんてこともあったらしいけれど……さっきの理由からしてそれもないと見た。或いは、やはり詠唱と同じように省略が可能か」

「ふむ。それでおぬしが考え抜いた結論が、その二つじゃということなんじゃな? 『術式』と『合図』、この二つが魔法の重要な構成要素である、と?」


 僕は頷いた。


「くくく……ははは! 流石じゃ、流石じゃのう。おぬし、魔法使いに向いてるのではないか? 私の弟子にならんか?」

「駄目。カズフミは私の仲間なの」


 ここで奪い合いをしないでくれ。所謂僕のために争わないでくれ、みたいな状況なんだろうが、幾ら何でも魔法使い二人にそれをされちゃ溜まったものじゃない。下手すりゃ死ぬまで争いかねない。


「正解ということで、良いのか?」


 僕の問いに、エレナは頷いた。


「ああ、その通りじゃよ。魔法に必要なのは、術式と合図、その二つじゃ。尤も、それ以外にもおぬしが言ったような要素も含まれとるが……、しかし、これを省略したら魔法が使えない、という点を配慮するならば……やはりこの二つしか考えられないじゃろうな」

「合図は、魔法使いそれぞれに決められているのか? それとも共通の何かが――」

「合図を共通にしてしまったら、それこそ相手がいつ魔法を使うか分かってしまうじゃろうが。……つまり、合図は魔法使いによって様々じゃ。それが、例えば指を弾くような簡単な所作から、魔法の発動に必要な『核』をその場に置いた時点で魔法が発動するようにしておく、とか……まあ様々じゃのう。では、ここでもう一つ質問じゃ」

「何だ?」

「私の魔法は何だと思う? 大体、大方の想像はついとると思うが」

「……いや、そんなこと言われても――」


 全く分からないが、と僕が先陣を切って言おうとしていたのだが。


「恐らく、土人形(ゴーレム)の作成、なの?」

「何じゃ、つまらんの」


 露骨につまらなそうな表情を浮かべるエレナ。


「カズフミは気づいてるかどうか分からないけれど……魔法使いは、それぞれの使える属性の魔法が、名前に組み込まれてるの。私だったら、黒津クレアで……『クロック』が組み込まれてるの。土橋エレナは、名字にそのまま土が入ってるから……土属性の魔法を使えるというのは何となく想像がついてたの。そこから逆算してけば、簡単に答えは導き出せるの! 第一、この家に居る執事さん? は、生きてる感じがしなかったの」

「……その通りじゃよ。解説までされたら、私の立場がないじゃろうが」


 話したがりだったんだな。


「おぬしに見せたかったのは、この魔法工房じゃよ。これから同盟を組むに当たって、先ずは手の内を明かしとくのは悪い話ではないじゃろう? ……まあ、私の専門は土属性の、それも土人形を作るだけに留まってる訳じゃが」

「それ以外は使えないのか?」

「出来ぬよ。それは、生まれた時から決まっとる。恐らく、クレア、おぬしもそうじゃろう?」


 クレアはエレナの問いに頷く。

 そうだったのか――しかしそれを考えると、かなり厳しい戦い方になるのは間違いない、と思った。魔法使いが一つの魔法しか使えないのは、恐らくエレナやクレアに限った話ではないだろう。他の魔法使いもそのルールには則っているはずだ。だから、エレナはもし自分の魔法が全く効かない相手を想定した時、或いは相手に自分の魔法が何であるか悟られることのないように、あのような『付属』の魔法を用意していた――ということだ。


「因みに、私も用意してるの」


 そう言って取り出したのは、サバイバルナイフに近い形状のナイフだった。ああ、そういえば、それはこの前の魔法使い戦でも使っていたような――。


「……ほう、ナワラタナか。珍しいものじゃの」

「ナワラタナ?」

「簡単に言えば、自分のパワーを強めてくれるものなの。普通にこれを使うと、運気が上がったりするそうなのだけれど……これを魔法に応用することで、自分の本来の実力の何倍ものそれが使えるようになるの」

「要するに、パワーアップアイテムって訳か」


 魔法使いもやっぱり色々大変だな。


「そういうものじゃよ。魔法使いというのは、いつ何処で襲われるか分かったものじゃないのじゃ。……おぬしも何か一つ持ってくか? 備えあれば憂いなしとは言うじゃろう?」

「まあ、確かにそれもそうだな……」


 僕もクレアに頼ってばかりじゃ、これからの戦いについていけなくなるかもしれないし。

 それに、ここには色々と装備がありそうだ。まあ、クレアの持っているナイフは流石に学校には持ち歩けないけれど、例えば、お守りみたいなものがあれば――。


「いや、多分それは無理だと思うの」


 しかし――僕の行動を遮ったのは、紛れもなくクレアだった。

 


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