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魔法少女は笑わない  作者: 巫 夏希
第二話 魔法使いの矜持!
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第二話6  『土橋エレナ』

 かくしてかなり長い時間をかけてしまったのだが――何とか僕達は、クレアが言っていたその屋敷に到着した。鬱蒼と生い茂った森の中に突如現れた屋敷だった。何か吸血鬼とか出てきそうな雰囲気を漂わせているようにも見えるのだが、気のせいだろうか。


「それにしても、というか……。ひどく荒れているような気がするな」

「そう? 雰囲気があって、悪くないと思うの」

「その感性、正直ズレているような気がするんだよなあ……」


 しかし、ここで狼狽えていても仕方がない。僕は、一歩前に足を踏み出すことにした。それだけでもかなり勇気が要ることだけは理解してもらいたい。普通に考えて、森の中に突如といて現れた廃屋めいた屋敷に入ろうというのが、普通の価値観では有り得ないこtなのだろうが。だとしても、今はクレアの言う『魔法使い』を探しに来た、ということだけに過ぎない。本当にこんなところに魔法使いが住んでいるのかは甚だ疑問だが、しかし実際に入って確かめてみるほかないだろう。

 屋敷の扉を開けると、意外と中は小綺麗になっていた。整っていた、とでも言えば良いだろうか。外の光景からしててっきり埃まみれだとか、壊れた美術品が散逸しているとか、そういうことを考えていたのだけれど、成る程、それを考えると、少しだけ人が住んでいる気配を感じ取ったような――気がする。


「ごめんください、なの!」


 いきなりクレアが大声を出すから、僕は目を丸くしてしまった。――しかし、普通に考えればそれはただの挨拶と変わりない。たとえ廃屋だろうと、クレアはそういう礼儀を欠かすことはしない、という訳だった。

 でも、ここに居る魔法使いが味方になるとも限らないのに、そんな行動をして良いのだろうか?

 僕はそんな考えに追われていたが――。


「随分と可愛らしい来客じゃのう」


 凜、とした声がホールに響き渡った。当然ながら、僕の声でもなければクレアの声でもない。ではその声の主はいったい何処に居るのかと言えば――。


「ここじゃよ、ここ」


 振り返ると、直ぐ後ろに、白髪の少女が立っていた。


「なっ……!」


 直ぐに僕は身体を動かして、距離を保つ。そして、目の前に居る少女を改めて眺めることにする。少女は白髪であり、肌も色白であった。それだけ見れば、病弱な少女だという感想しか抱くことはないだろう。黒を基調とした、フリル盛りだくさんのゴスロリ調のワンピースを身に纏っている。その御陰というのもあってか、肌の白さと髪の白さが目立っていた。


「……無駄じゃよ」


 少女は笑う。その笑みは、悪魔めいた何かを感じさせた。背中に悪寒が走る。何だろう、敵に回してはいけないような、圧倒的戦力差を感じる、というか――。

 彼女がポケットから何かを取り出す。それをじっと観測していたが――それは、鋏だった。

 何てことはない。工作などで使うような、普通の鋏だ。強いて言うなら、その鋏は左利き用なのか、左手に持っている、という程度ぐらいだったか。

 そして――彼女は空を切った。

 それだけだった。それだけなら、何も異変は起きないはずだった。

 しかし、目の前に広がっているのは、明らかに異質な光景だった。

 鋏で切った空間に、白い線が出来ていた。そして、再び鋏を入れると、さらにその線が延びていく。やがて、それが一つの円を描いたところで――彼女は鋏を仕舞った。いったい何が起きているのか、さっぱり分からなかったけれど、しかしそれをじっと見つめることしか出来なかった。どういう『魔法』を使っているのか分からない以上、下手に動くことは出来ない。それが、魔法を使えない一般人なら猶更だ。

 その円に、彼女は手を伸ばす。普通なら、普通の世界なら、普通の空間なら、それはただ腕を伸ばしただけに過ぎないのだが――円の先には彼女の腕は存在しなかった。

 と、同時に、僕の左肩を誰かがぽんぽんと叩いた。また、寒気がした。最初はクレアが悪戯でやったんじゃないか、なんて思った。けれど、僕とクレアは両手を広げることが出来るぐらいの距離を保っていて、とてもそんなことが出来る状態じゃない。

 恐る恐る振り返ると――そこには、目の前に立っているはずの少女の右手があった。


「あははっ。いやあ、面白いのう」


 直ぐに手を戻し、彼女は腹を抱えて笑っていた。それだけを見ていれば、ただの普通の少女なのだけれど――。


「あ、あなたは、土橋エレナで間違いないの?」


 クレアの言葉を聞いて、少女は笑うのを止める。


「ああ、そうじゃ。私は土橋エレナ。土橋家の当主じゃよ」



  ◇◇◇



 土橋エレナは土橋家の当主であり、一人でこの大きな屋敷に住んでいるらしい。――いや、正確には何人かの執事とメイドが居るらしいけれど、土橋家という人間は彼女一人なんだとか。いずれにせよ、土橋エレナを違う風に想像していた僕にとって、それは拍子抜け過ぎる現実だった。いったいどんな風に想像していたのか、と言われるとそれについては触れない方が良いだろう。僕の身体が五体満足で居られるかどうか分からないからな。

 屋敷の奥にある食堂に案内された僕達は、そこでエレナと麺を向かって座ることになる。家事は全て執事とメイドがやってくれるそうだから、本人は何もしなくて良いらしい。よく言えばお嬢様、悪く言えば世間知らずといったところか。


「で、何故ここにやって来たのじゃ」

「ええと、それについては……」

「私が説明するの」


 クレアがそう言ってくれるのは嬉しいけれど、何だろうな、何か不安しかないんだよな……。


「私達の仲間になって欲しいの。そして、一緒に父さんを見つけて欲しいの」


 端折りすぎだ、クレア。

 ちょうど執事が僕達にアイスティーを持ってきてくれた。ガラスの容器だが、何か色々刺繍みたいな感じのデザインがされていておしゃれになっている。やっぱり金持ちじゃないか。

 エレナはアイスティーにミルクとガムシロップを注ぎ、ストローで混ぜる。そして一口飲んで、ゆっくりと口を開いた。


「何が言いたいのじゃ、結局は」

「ええと……やっぱり僕が説明するよ。つまりだな……」


 それから、僕の話はみっちり十五分かかった。僕とクレアの出会いから始まり、クレアの持つ魔法について話し、そしてクレアに襲いかかった――正確には僕に付着した、魔法使いの匂いを嗅ぎ取っただけなのだけれど――魔法使いの話もした。その全てについてエレナはずっと話を聞いていて、うんうんと頷く場面も見受けられた。これは納得してくれたか、と思い僕は話を終えるのだが――。


「馬鹿か、お前達は」


 開口一番、罵倒から始まった。


「どうしてそんなことを言うの?」


 クレアの問いに、エレナは溜息を吐いて答える。


「あのな……普通に考えて、敵になるか味方になるか分からない存在に、自分の手の内を全て明かすか? 明かさないじゃろう? そういうところが間抜けじゃと言いたいんじゃよ」

「それについては……その通りかもしれないの……。でも、仲間になってもらうためには、やっぱり全てを話す必要があると思ったから……」

「そう思うのは分からなくもないがな。しかし……あの黒津博士の娘とはのう……」

「父さんを、知ってるの?」

「魔法使いで知らない存在など居るはずがなかろう。それに、私の一家も良く世話になったものじゃよ。しかし……あの博士が失踪とはのう……いったい何をしでかしたら、そんなことになってしまうのじゃろうか……」

「それを探すために、ここまでやって来たの」


 クレアは睨み付けるように、エレナを見つめる。こちらが頼む立場なのだから、あまり強気に出るのもどうかと思うけれど、しかし、クレアはあまりその辺りを気にしていないらしい。

 そんなことを考えていると、エレナが唐突に言い出した。


「メリットは、あるかのう?」

 


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