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魔法少女は笑わない  作者: 巫 夏希
第二話 魔法使いの矜持!
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第二話4  『魔法使いの住処へ③』

 南陽交通広場。正確には、イオンモール名古屋茶屋は、この辺りでは大きなショッピングモールの一つだった。イオンモールは名古屋市に数多く点在しているけれど、その中でも一番の面積を誇るんじゃないだろうか。まあ、あくまでも僕の推察に過ぎないのだけれど。ただ、強いて欠点を上げるならば、そのアクセスの悪さだろう。何せ最寄り駅からバスで二十分はかかる。しかしその駅も名古屋市の中ではかなり辺鄙なところに設置されているためか、そこからの利用者は少なく、僕達のように港区役所や、或いは東山線の終点である高畑駅からバスで利用するケースが多いらしい。或いは、時間と運賃がネックだが、名駅からバスが出ているのでそれを使っても良いだろう。


「土橋エレナはどういう人物なんだい? 僕達より年上? 年下?」

「恐らく若いことは確かなのだろうけれど……、でも、年齢までは分からないの。機密事項(トップシークレット)みたいなの」

「機密事項? そいつはどうも困ったものだな……。せめて年齢さえ分かれば、話をどう盛り上げるか、という道筋も見えてきそうなものなのにな」

「それについては、私の調査不足としか言いようがないの……」

「いやいや、クレアは悪くないよ。取り敢えず今は……限られた情報だけで何とか交渉に持ち込めるようにしていくしかない。それについてはライブ感もあるけれどね。何処までやっていけるか、という力量を試される良い機会かもしれない」


 そんな機会訪れてたまるか、と言いたいところではあるけれど。

 しかしそんなことここで言っても無駄だ――僕はそう結論付けて、話を続けた。


「クレアは、名古屋市に来て……何処か出かけたかい?」

「それが未だなの……。あ、でも名古屋城は見に行ったの。とても面白かったの」

「確かにありゃ面白いかもしれないけれど……でも拍子抜けしただろ? 意外とこんなものか、と思ったりして」

「でも、私、ああいうお城見たことなかったからかなり良かったの」


 それもそうか――クレアは今まで魔法都市という、この国の常識が通用しないような、こちらから言ってしまえば辺境の土地に住んでいた訳だし、そう思うのも致し方ないのかもしれない。ただ、一言言わせてもらうと――やはりあの城塞は何処か拍子抜けするような感じがあるのだ。いや、しゃちほことか凄いけれど。

「後は鉄道とかが凄かったの。今乗っているバス? というものも凄いのだけれど……鉄の塊が動くのは凄いことなの」

「魔法都市に、車というものはないのかい?」

「魔法都市は、極端に科学文明を嫌う人が多いから……。かろうじて電話が使えるかどうか、ってぐらいなの。多分こっちの世界の人は魔法都市に行ったら数日と持たない気がするの」


 まあ――それは何となく頷ける。今までのクレアとの問答からして、僕達の住んでいる世界とクレアの住んでいた魔法都市とでは、絶対的な科学文明のレベルの差がある。それはかつてこの国が味わった、アメリカとの科学文明の差を見せつけたようなことだって、そうだったのかもしれない。未だテレビもなかった時代に、向こうではテレビがあった、というぐらいなのだ。今思えば、それ程の文明の差がついている以上、勝ち目はなかっただろうに、良く戦おうと思ったよな。モハメド・アリに単身僕が挑むようなもの――とどのつまり、天地がひっくり返らない限り勝ち目がない、という訳。でも、魔法使いの使う魔法は場合によっては近代兵器に対抗しうることの出来る威力だ、って聞いたこともあるし、簡単に手出し出来ないのかも。

 バスは大橋を渡ると、徐々に終点である南陽交通広場が見えてくる。正確に言えば、その応通広場に付随している、イオンモールが見えてきている、というだけなのだけれど。ここまで乗ってきたのは、僕達を含めて僅か四人程度。土曜日の昼間だっていうのに、こういうショッピングモールに行こうという人はあまり居ないのだろうか。というか、ららぽーとがあるから行きたがらないのか? そう考えると、このイオンモールもかなり苦境に立たされている、と言ったところだろう。

 そして、バスはそのまま終点の南陽交通広場に到着した。これからまたバスに乗る必要があるのだが、ここで少し休憩をしなければならない。というのも、もうお昼時なのだった。栄で何か食べるアイデアもあったが、わざわざ名古屋市の僻地までやって来たのだから、ここでご飯を食べるのも悪くない、と思った次第で、僕がクレアに提案すると、それも悪くないことなの、と言われたという訳だ。尤も、クレアはそれを何処まで本気に捉えているのかは分からないけれど。


「私、こういう場所、来るの初めてなの。色んなお店があるって聞いたことがあるの!」

「まあ、この規模のショッピングモールなんて、郊外に出ないと見つからないしな……」


 入口前のガイドマップを見ると、三階にフードコートがあるらしい。学生である僕達は、そう大金を持ち歩いては居ない。そう考えると、フードコートに行くことになるのは自明だろう。ファッションに本屋、スーパーに映画館まで整備されているのだから、そりゃ、多くの人間はここにやって来るよな。しかも土日になると、別のイオンモールとこのイオンモールを結ぶバスが走っているらしくて、それもそれでおかしくなっちゃって、笑ってしまった。イオンモールとイオンモールを結ぶシャトルバスなんて聞いたことがない。相乗効果を狙っているのだろうか。


「クレア、何が食べたい?」

「好き嫌いは特にないの」

「じゃあフードコートで実際に見て決めるか……」


 取り敢えずは中に入らないと何も始まらない。そう思った僕達は、イオンモールの中に足を踏み入れた。


「しかし、時間をずらしたとは言え、こんなものなのかな……」


 フードコートは以外にも人が疎らだった。円形に店が設置されており、その中心部に客席が設置されている、まあ、良くあるタイプのフードコートだった。種類もファストフードから和食、中にはステーキやアイスクリームまで用意されている。いつどの時間使っても良いようになっているんだろうな。


「さあ、何を食べようか、クレア」

「……あれ、興味があるの」


 そう言って彼女が指さしたのは――全国的に沢山の店舗があるハンバーガーチェーンだった。


「クレア、別にああいうのは僕達が普段暮らしている辺りでも食べられるぜ。もっと、この辺りでしか食べられないようなものにしなくても良いのか?」

「いや、あれが良いの。あれが食べたいの」


 そう言われたら、もう仕方がないような気がする。因みに僕は別に違う食べ物にすればいいんじゃないか、なんて思うかもしれないけれど、クレアがこういう業態のお店の注文方法を知っているとは到底思えない。となると僕もつきっきりで注文をしなければならないし、だとしたら、僕も同じところで注文した方が効率が良い、と言う訳だ。


「じゃあ、注文しに行こうか、クレア。席は……まあ、この空席具合だったら、別に先に取っておく必要はないだろうね。まあ、焦ることはないけれど、メニューを見て決めておくに超したことはないよ」


 そうして僕達は、ハンバーガーチェーンのカウンターへと向かうのだった。


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