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魔法少女は笑わない  作者: 巫 夏希
第二話 魔法使いの矜持!
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第二話3  『魔法使いの住処へ②』

「確かに……それはそうなの」


 クレアは僕の言葉に落ち込んでしまった。しまった、言ってはいけないことを言ってしまったか? いや、特段そんなことを言ったようには思えなかったのだけれど、もしかしてこれが『墓穴を掘った』という奴なのだろうか。しかし、僕はこれでへこたれることはしない。反省はするかもしれないが、またやってしまうかもしれない。それが人間だからね。人間は完璧でないから、人間であり続ける。何処かの誰かがそんなことを言っていたような言っていなかったような気がするけれど、今はあまり考えないでおく。


「……まあ、あまり気を落とすことはないと思うよ。僕の考えは、あくまで僕が一番支持しているのだから」

「それは、どういうことなの?」


 うう、僕なりの慰めをしたつもりだったのだが、クレアには届かなかったらしい。

 仕方ないと言えば仕方ない。しかし、それをされてしまうと何だか悲しい気分になる。僕は、それをひしひしと実感している。

 そうこうしている内に、車窓は一気に風景を変えていた。今まで市街地を走っていたはずなのに、今や一路線ずつの狭い道路を走っている。周りにあるのも住宅だらけだ。時折運河のような川も見えてきているが、まあ、今から僕達が向かう場所って、文字通り『港』な訳だしな――。


「そういえば、クレア、今から向かうその魔法使いってどういう人間なんだい?」

「どういう、ってどういうことなの?」

「魔法使いだって、ただの人間だろ。人となりを知らないとこれからの付き合いが大変になっていくのは間違いない。なら、こちらも知っている情報はある程度共有しておかないといけない、って訳。要するに、予習(じゅんび)って訳だな」

「と言っても、知ってる情報は少ないの。意味がないと思えるぐらいの情報しかないの」

「それでも、ないよりマシだ。教えてくれないか? 僕はただの一般人だけれど、知らない情報を知らないままにしておくのはもっと不味い。交渉のカードが一つや二つ思いつくかもしれないからな」


 と言っても、僕は交渉人(ネゴシエーター)だとかそういう類いのことは一切やったことがない訳だけれど。それについては期待してもらっちゃ困る、かな。一般人が適当に知識をこねくり回して何とかカードの一つや二つを編み出す、ぐらいに考えてくれればそれで良い。

 クレアは僕の意見に納得してくれたのか、ポケットからメモ帳を取り出す。スマートフォンを持っていれば、メモ帳アプリでそれを共有することも出来たかもしれないけれど、クレアはアナログ人間だ。それについては仕方ないのだ。もしかしたら、魔法使いも全員がアナログ人間ではなく、クレアみたいな存在は希有なのかもしれないけれど、それはそれとして、だ。


「ええと、魔法使いの名前は……土橋エレナ、というらしいの。名前の通り、土属性の魔法を使うことが出来る、らしいの。代々土橋一族はこの国の政府に力を貸してたらしくて、だから外の世界で暮らしてたらしいの。……だから、土橋一家の魔法使いは代々、外で生まれて外で死ぬ、というパターンが定着してるらしいの。一年に何回かは、魔法都市に帰ってるらしいのだけれど」

「そりゃ、いったいどうして?」

「『認定試験(サーティファイ・テスト)』というものがあるの。名前の通り、魔法使いであることを認定する試験のことで、これをクリアしないと魔法使いだと内外に宣言することは出来ないの。この時に限っては、外部に住んでいる魔法使いも全員姿を見せるの。いわば、里帰りに近いものなの」

「近いどころかまんまそうじゃねえかな……」

「土橋エレナは、大きな屋敷を持ってるらしいの。地元とはあまり交流してないようなの。だから、幽霊屋敷(ゴーストハウス)、なんて言われることもあるらしいの」

「幽霊屋敷とは……そりゃまたけったいな」


 いや、でも案外魔法使いというのは人と共存出来なくて当たり前の存在なのかもしれない。クレアは運が良いのか悪いのか、ちょっとこちらの世界に対して知識が疎いぐらいの存在にしか過ぎないけれど――それもそれで本人には失礼だが――、魔法という普通の人間には扱えない存在を使えている以上、何処か普通の人間とは違うものを持ち合わせていても、それについては、まあそうだろうな、ぐらいの感想しか抱かなかった。


「……情報としては、以上なの」

「え? 以上?」


 それって、流石に情報を持っているとは言い難いんじゃないか。何かもっと言い情報はないのか。例えばその土橋エレナの好きな食べ物とか好きなテレビ番組とか好きな音楽とか。――いや、普通に考えて、今から交渉に行く相手のそれを知って何になるというのだ。もしかしたら話の流れで何かしら共感を得ることが出来るかもしれないけれど、それに賭けるのは少々博打が過ぎる。


『次は終点、港区役所、港区役所です。どなた様もお忘れ物のないようご準備してください』


 自動アナウンスを聞いて、僕はもう終点に着くのか、と思ってしまった。確か一時間はかかるなんて言われていたような気がしたけれど、そう考えると一時間もあっという間だな、と思った。スマートフォンの時計は確かに、栄を出た時から一時間が経過していたので、バスが何処かのバス停を飛ばしたこともなさそうである。


「……よし、取り敢えずバスが到着するようだし、ここで乗り換えるよ。乗り換え時間は……五分か。そんなに短くないから、意外と勝負になるかもしれないな……」


 僕の独り言を、クレアが特に受け取ることはなく、そのまま定刻でバスは終点に到着した。バスが止まって、僕達は降りる。道路を挟んで向こう側にはららぽーとが見える。そして、ららぽーとの前には屋根を設けたバス停が設置されていた。成る程、バスはあそこから発車するんだな。僕はそう思って、クレアに声をかける。


「クレア、横断歩道を渡るよ。バス停はそう遠くないけれど、少しは急いだ方が良さそうだ」

「……急いだところで何も始まらないの。だったらゆっくり歩いた方が良いの」

「それもそうかもしれない。ゆっくり歩けば、少なくとも事故は防げるからね。でも、今はそう言っていられない。バスの発車時刻まで後五分だ。そしてここは始発のバス停。バスは時刻通り発車する宿命を背負っているんだよ。だったら僕達はそれまでにそこに辿り着かなくてはならない。何せ次のバスは一時間後だ。ここで一時間待ちぼうけを食らう訳にはいかないだろう?」


 まあ、そう長々と言ってはいるものの、このバス停の目の前には巨大商業施設ららぽーとがあるので、そこの本屋やショッピングエリア、或いはフードコートなどで時間を潰していれば一時間などあっという間に過ぎてしまうだろうけれど。

 でも、善は急げって言うぐらいだ。急いで向かうことが出来るなら、急いだ方が良い。僕はそう思って、クレアの手を取った。


「ま、待つの。走るとは聞いてないの」

「走るつもりはないけれど、この信号で渡れなかったら、バスに乗れないかもしれないからね!」


 そして、僕達は長い横断歩道を渡った。ちょうど渡り終えるかぐらいのタイミングで信号が点滅し出したので、ちょうど良かったとも言えるだろう。逆に言えば、あの時にこの信号で渡ろうと思わなければ、渡れなかったかもしれない。そこに関しては、自分の行動力に感謝するべきだろう。


「おっ、ちょうどバスがやって来た。乗るよ、クレア。切符は出した?」

「出したの。急いで乗るの」


 バスに乗ることが余程嬉しかったのか、少しだけテンションが上がっているように見える。もっとも、クレアは笑ってはいなかったけれど。それについては、あまり考えない方が良いかな。笑うのが苦手な人だって居るだろうし。

 そんなことを考えながら、僕は南陽交通広場行きのバスに乗り込むのだった。

 


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