表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妄想中  作者: 渋谷奏
5/66

オリンピック、前夜2

「私はこれから、どうなってしまうのだろう?」

 自分は病気だと知ってしまった彼女は軽い不安に襲われていた。まだ何の実感がない。自分が病気だという実感。その他の変化の実感がなかったからだ。自分の部屋の窓から遠くを眺めている。


「第4レーン、日本、小池エリ子。」

 彼女の名前は、小池エリ子。水泳の選手である。2000年生まれの18才。高校3年生。女子高生ながら水泳の結果で、華々しい成績を出し続ける。個人種目11個と、リレー種目7個の計18個の日本記録を保持している。彼女は女子高生ながら水泳の日本代表のエースとして、君臨していた。

「レディ。」

 これから彼女の得意なバタフライ100メートルが行われる。彼女は水面に飛び込む姿勢を整えた。

「ゴー。」

 スタートの合図と共に水面に飛び込む。彼女は水中出産で生まれたらしい。それが関係するのかしないのか分からないが、陸地より水中の方が生き生きと動いている様にも見えた。まるで人魚やイルカのようであった。

「ザバア! ザバア!」

 彼女は勢いよく泳いでいく。身長170cm以上の恵まれた体格。長い手足のリーチ。彼女が2回腕で水をかくのに対し、他の選手は3回腕で水をかく。体力の温存ができるので、レースの後半で他の選手より有利なレース展開ができる。水と一体となって泳ぐ彼女は、水の中を抵抗なく進んでいく。誰よりも早く。

「ブワア!」

 彼女は1番でゴールした。当然の様に。そして電光掲示板の自分のタイムを確認する。日本国内に敵はいない。彼女が興味があったのは、自分のタイムだけである。彼女は何度も日本記録を更新続けている。

「よし! 日本記録更新だー! やったー!」

 タイムは55秒。以前に自分で作った100バタフライの56秒の日本記録を更新した。彼女の水泳は一人旅である。国内にライバルはいない。彼女の絶対的な国内の実力では勝って、当然というプレッシャー。彼女は日本の水泳協会の客寄せパンダなので、大会を休むことは許されなかった。

「小池選手! おめでとう!」

「エリ子! エリ子! やったねー!」

 彼女は会場の大歓声に笑顔で手を振って答える。この華々しいスターな生活が彼女の日常だった。テレビやネットを見れば、彼女が優勝した。彼女が記録を更新した。大会5冠、6冠は彼女にとって当たり前だった。

「優勝できたのは、観客の皆様のおかげです!」

 彼女は知らない。若いとはいえ、無理やり疲れの残る体で水泳大会に連戦で出場し続けることに、体が見えない所で悲鳴をあげていたことを。


つづく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ