幽霊騒動3
「それで…手伝うことにしたんだね。
エイちゃんらしいって言えばらしいけど…。
それでどうやって探す予定なの?」
「それについては検討中です。」
「よろしくお願いします。」
エイジロウ、ナツミ、シェビンは
場所を変えエイジロウの家の部屋で
ちゃぶ台を囲み座って話し合いをしていた。
「でもわかったことがある。」
「何でしょうか?」
「ん?何がわかったの?」
「シェビンさんには触れることができる。」
エイジロウがそう言うと
ナツミが途端にエイジロウに白い目を向けた。
「変態。」
「ち、ちがうっての。
そうじゃなくて。
幽霊なのに触れられるっていうのは
俺たちの認識と異なるだろ。
だからなんだって言われると困るけど…。」
「ふ〜ん。
…変なことしちゃダメだよ。」
「わ、わかってるよそんなこと。
するわけないだろ!!!」
「ふ〜ん。」
エイジロウはナツミの視線に
耐えることができず
顔を逸らした。
「エイちゃん!」
逸らした顔を追いかけるように
ナツミの掌がエイジロウの頬を掴む。
そしてグイっと強制的に
首が元の位置に戻るエイジロウ。
ナツミはちゃぶ台の上に上半身を乗り出し
エイジロウを見つめた。
ユーネックに開いた胸元と
少し恥ずかしそうに
頬を膨らませた
幼馴染にエイジロウは
掌で隠れた頬を染めた。
「ダメだからね!」
「…ひゃい!」
「ならよし!」
ナツミはそう言うと
満足げにエイジロウを解放した。
エイジロウはそのまま下を向き
いつもより早い心臓の音を
誰にも聞かれないようにと
手を当て深呼吸をした。
『何だよ。
あんな…真剣に…恥ずかしそうに…。
何もしないっての。
ったく。
何でこんなにドキドキすんだよ。
いや。
落ち着け。
…ふぅ。』
「ふぅ。
うん。
ということで
知らないことを少しずつ無くしたいと
思います。
シェビンさんはお腹空いたりするんですか?」
エイジロウは一旦落ち着き
話を元に戻した。
「お腹は空かないんです。
食べようと思ったこともないんですよ。」
「なるほど。
あとは幽霊といえば見えるとか見えないとか
なのですが、その辺はどうですか?
今まで声をかけた人全員が反応してくれましたか?」
「反応は色々ですかね。
全然何もなく歩いて行く人もいました。
ですので全員に見えていたわけではないと思います。
声をかけたあと、辺りをキョロキョロと
見渡す人や、目が合ったと思った人は
必ず叫びながら逃げて行きました。
うぅ。
思い出すと辛いですぅ。」
シェビンはエイジロウの問いに
思い出しながら
答えると徐々に涙を貯め始めた。
「エイちゃん泣かせた〜。」
「そ、そんなつもりないっての!
あ、あの、そんなに深く思い出さなくても
いいです。
すいませんでした。
じゃ、あ、あとはやはり感覚のことを聞きたいんですが
いいですか?」
ナツミが意地悪そうにそう言うと
エイジロウはあたふたしながら
シェビンの涙が溢れないよう
エイジロウはとっさに質問を変えた。
「うぅ…。
はい。
もちろんです。
感覚と意識の中ではっきりしていることが
体を探さなくてはいけないこと
世界は九つに分かれていること
の二つです。
そしてその一つが私の出身のアスガルズです。」
「…ん?
世界が九つある?」
「そうです。
この世界は九つに分かれています。」
「…。
世界が…九つ?」
エイジロウはあまりの急展開ファンタジーに
首を傾げ二回聞き直した。
「はい。」
「…規模が…よくわかりませんが
わかりました。
ちなみに出身がわかるのは感覚ですか?」
「そうなんです。
ただ、漠然とですが。」
「なるほど。
それで他の世界にはどうやっていけるんですか?」
「わかりません。
他のことは全然わからないんです。
たくさんの土地を歩き
色々な物をこの世界で見てきましたが
まったくわかりませんでした。」
「なるほど。
さて…確かに八方塞がりですね。」
エイジロウは急展開ファンタジーを
なんとか飲み込み、状況を冷静に想像し
考え始めた。
「そうなんです。」
「出身のアスガルズっていうところは
ここでは…」
「ないです。」
シェビンは少し食い気味に
首を横に軽く振りながら
残念そうに否定した。
「ですよね。
となると、体のある一番可能性が高い
場所はそのアスガルズになると思うので
そこにどうやって行くかが
当面の課題になりそうですね。」
「はい。
私もそう思ってます。」
エイジロウはパソコンに
キーワードを入れ色々と検索を始めた。
「ふむふむ。」
ナツミはエイジロウが調べている
パソコンの画面が見えるよう後ろに移動し
特に意見を出さずそれを見守った。
それを見たシェビンも
その後ろにまわりエイジロウの
調べ物を覗いていた。
「…おい。
ち、近いっての。」
「あ、ごめん。
暑かった?」
「い、いやそんなことはないけど。
にしても…何も出ないか。
都市伝説とか古い文献とか
見るものが多すぎるし
どうしたら…。」
エイジロウは頬杖をつきながら
パソコンの画面に表示された
検索結果を読んだ。
その後ろでナツミ、シェビンも同様に
パソコンに表示された検索結果を読んでいた。
「あ、じゃあこの街の伝説を調べてみたら?」
ナツミが思いついたと言わんばかりに
掌に握った手を打ち付け言った。
「この街の伝説って
勾玉岩と神社のやつか?」
「そうそう!
それそれ!」
「勾玉岩と神社?」
エイジロウがナツミにそう言うと
ナツミは満面の笑みで
エイジロウを指差し答えた。
その後ろでシェビンは
首を傾げていた。
「この街に伝わる言い伝えみたいなものですよ。
シェビンさんと会った
あの海岸沿いの道をもっと歩いて行くと
海水浴とかで賑わってる
綺麗な砂浜があるんです。
で、なぜかどこからきたのか
なぜそこにあるのかわからないんですが
勾玉という形に似たすごく大きな岩が
砂浜から海に入り少ししたところに
あるんです。
勾玉っていうのはこんなのです。」
エイジロウはそういうと
パソコンで勾玉の画像をシェビンに見せた。
「 多分、波とかで削られてあの形になったんだろう
って皆が言いますが
あきらかに不自然なんですよね。
あ、この先っぽの方が
砂に刺さってる感じで見えます。」
「なるほど…。
そうなんですね。
でも何が不自然なんですか?」
シェビンはその勾玉の岩を想像しながら
首を傾げエイジロウに聞いた。
「それはこんなサラサラな綺麗な砂の浜で
海の中も砂で山や崖が隣接してるわけでもないのに
なぜかそこに一つだけ岩があるっていう
結構不思議に見える光景なんですよ。
そして誰が建てたかわからないんですが
砂浜に小さな神社があるんです。」
「そうそう!
どう見ても違和感でしかないもんね!
でも夜見るとあの綺麗な鳥居の先に
薄い光が通って見えたりするから綺麗だよね。」
「そうなんですね。
すごく見てみたいです!
ところでその岩と神社にはどんな言い伝えがあるんですか?」
「それはね〜…」
ナツミは得意げにそう言うと
エイジロウの横から身を乗り出し
パソコンに神社と入力した。
「あった!
こんな感じの建物があるんだけど
さっき見た勾玉っていうのと同じように
勾玉岩にも穴が開いてるの。
そこに満月っていうまん丸な月が
ちょうど重なったときに
光の道が鳥居の先にある神社に伸びるの。
そしてその中で祀られてる
鏡に光の道が反射して
鳥居から外に出ようとするんだけど
神社からその鳥居に向かって
海水を一撒きした後
光の道を歩いて鳥居をくぐると
違う世界に行けるって言い伝え。」
「それってものすごく有力な情報じゃないですか!!」
「いや…それが…。」
「どうしたんですか?」
ナツミの話に
ものすごくわかりやすくテンションの上がった
シェビンが浮き上がり
そう言うと、エイジロウは頭をかきながら
モゴモゴ話し始めた。
「その肝心の鏡が割れて半分になっちゃって
そのもう半分がどこにあるやら…。」
「じゃ探そうよ!」
「え?」
「だ・か・ら!
探そうエイちゃん!」
「え!まだあるかもしれないんですね!
エイジロウさん!
私からもお願いします!
一緒に探してください!」
「い、いやちょっと待て。
シェビンさんも言ったように
あるかどうかすらわからないだろ。」
「あるよ!
絶対あるって!」
「いや…無い方が可能性が高…」
「そうやってすぐ否定的に考える。
じゃもし見つけられたらどうする?」
「見つけられたら…」
エイジロウがまた考え始めるのを見て
ナツミはニヤっと笑い
言い放った。
「じゃ見つけられたら
何でも一つ言うこと聞いて!
ね!
じゃ決まり!
頑張ってみんなで探そうね!
おー!」
「お、おい!
なんだそのお願い!」
エイジロウがナツミにものすごい
勢いで聞き返した。
「お願いしますエイジロウさん!
可能性が少しでもあるなら
私も探したいです!」
ナツミのお願いに困惑している
エイジロウにシェビンが詰め寄り
抱きしめるのではと
思うほどの距離で懇願した。
『ち、近い!』
エイジロウは少し顔を赤くしながらシェビンを
押しもどすと話始めた。
「…確かに話がある以上…少しは
可能性があるといえば…」
そんなエイジロウの発言は
ナツミに一蹴されてしまう。
「もう!
男らしくないんだから!
女の子二人がお願いしてるんだから
男なら黙って探すの!
いい?」
「…はぁ。
わかったよ。
でも可能性はあくまで少しなんだ。
そもそも本当にあったのか…。
だからそれ以外のことも…」
「わーい!!
絶対見つけてやる!」
ナツミの耳にはエイジロウの
わかったよ以外
入っていくことはなかったようだ。
ナツミはエイジロウの話を遮るように
飛び上がり、拳を高々と突き上げた。
「はい!
私も頑張ります!
ああ…この世界に来て初めて
…こんなにひぐっ…
うれ…ひぐ…」
「よしよし。
頑張ろうねシーちゃん。」
「シーちゃん?
ひぐ。」
「シェビンのシーちゃん。
今日から私達は友達ね!」
「ひぐ…ひぐ…あい。
友達でず!
うわぁぁぁぁぁぁああぁあぁん!」
「おーよしよし。
寂しかったね。
大変だったね。
これからは一人じゃないからね。」
「ばい。
ありがどうございます!」
シェビンはナツミの優しさに包まれ
エイジロウの協力に安堵し
大量の涙と声を放った。
そしてナツミの胸で
子供のように泣いた。
『こんなの…見せられたらな。
うじうじ言ってる場合じゃないな。』
エイジロウは頭を少しかきながら
口角が上げ高らかと勢いに任せ宣言した。
「ったく…やるか!
絶対に見つけてやる!」
こうして夜のちゃぶ台会議は
安堵と期待と勢いの中で終了した。
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