幽霊騒動2
「ち、違うんです。」
「ほらな。
違うって言ってるぞ。」
「ごめんってば。
そんなに怒らなくてもいいじゃん。」
日も沈んだ海沿いの道。
街灯の下で
三人は座り
一応、泣き止んだ女性が
ナツミに泣いた理由を説明した。
「ふふふ。
それにしてもあんなに取り乱した
エイちゃん見るの子供の頃以来だね。」
「な!
そりゃ見知らぬ女の人が泣いて
いきなり幼なじみに叩かれたら
取り乱しもするだろう。」
「それにしても
みんなひどいね逃げるなんて。」
「うう…そうなんです。」
この女性が泣いた理由は
声をかけてもかけても
皆、悲鳴とともに逃げてしまい
途方にくれてしまい
そんな中、エイジロウに声をかけて
ようやく会話が成立して心底嬉しくなり
泣いてしまったということだった。
「にしても…。
どこの出身の人ですか?」
「ほんっとに綺麗な瞳に髪に
それにこの白い肌。
確かに夜、街灯の下とかで
ふっと見たら幽霊に見えるかも…」
「う…うぅう。」
「あ!
ご、ごめん!!
冗談だよ!
泣かないで。
私はナツミ。
あなたは?」
「おい…。
ま、いいか。
俺はエイジロウっていいます。」
「ひぐっ…。
私はシェビン。」
「シェビンさんか。
それでどこの出身の人なんですか?」
「ひぐっ。
私はアスガルズの出身です。」
「アスガルズ?
そんな名前の国あったかな?」
「…なかったような?」
「ひぐ。
ありますよ。
それと…先程の幽霊っていうのは
それほど間違ってはいないと思います…。
ひぐっ。」
「「間違ってない??」
エイジロウとナツミは銀髪のシェビンの言う
間違っていないという言葉を
首を傾げ、シェビンを見つめ考えた。
「ま、間違ってないって…どういう…?」
「な、な、ナツミ。
あ、足が…。」
「足?
足がどうし…ひぃ!」
シェビンの足を見たエイジロウが
ナツミの肩を叩きながら
シェビンの足のある場所を指差した。
「な、無い!
も、もしかして…本物!?」
「はい…。
正確には違うのですが…。」
「も、もしかしてシェビンが探してるのって
か、か、か、体??」
ナツミが声を裏返しつつ
なんとかシェビンに質問した。
「あ、よくわかりましたね。
そうなんです。
私は体を…ってどうしたんですか!?」
それを聞いた途端にナツミは泡を吹いて倒れた。
「…おい。
ナツミ!
…。」
「き、気絶してしまうなんて。
どうしたのですか?」
「あ、いや。
幽霊って怖いものだと
昔から教えられてきたもので…。
ゆ、幽霊なんですか?」
「正確には違いますよ。
似ていますが。」
エイジロウはその言葉を耳から
飲み込み、大きく息を吸い込み
口から吐き出した。
「ふぅう。
うん。
わかりました。
とりあえず出身が全くわかりません。
それに体を探してるっていうのも
正直、ピンときません。
まずは説明を聞かせてください。」
「はい。
わかりました。」
ナツミが泡を吹いて倒れたことと
目の前にある現実が頭の中に入ったことにより
エイジロウはいつもの冷静さを取り戻した。
「簡単にご説明しますと
わからないです。」
「はい?」
シェビンのあまりにわからない説明に
せっかく冷静さを取り戻したエイジロウから
裏声が発せられた。
「はい。
目覚めた頃の記憶も無いんです。
薄っすらと意識のある中で
多分歩いていました。
それが続いて
気が付いたら意識がありました。
過去の記憶も朧げで…
感覚だけが
残っていたように感じました。
その時の感覚というか
意識にしたがって
今は体を探しています。」
「…なるほど。
つまり本人も何が何だがわからないってことですね。」
「そうですね。
あの時の感覚や意識を信じて
今、彷徨っているのですが…。
おわかりかもしれませんが
八方塞がりです。」
「そうでしょうね。
体を探すってことがすでによくわからないですし。
そもそも私達の世界では
シェビンさんのように
肉体と精神が切り離されて?しまった状態は
死として扱い、その後その人ではなくなった
幽霊という方々は天国とか地獄とかに
行くと聞いています。
肉体は腐敗してしまうので
火葬というものをして
お墓といところに埋めるのですが…。
あ、ちなみに幽霊としてこの世界に残っている者は
恐怖の対象として見られているんですよ。
そして、目撃すると
こうなるか、逃げてしまうというわけです。」
エイジロウは失神してしまったナツミに
目をやり、現状のシェビンの
状態について説明した。
「なるほど!
それで皆さん声をかけても
まったく話を聞いてくれなかったのですね!」
シェビンはなぜか嬉しそうに
そう言った。
「あ…なので…。」
「わぁ。
嫌われているわけではないんですね。
よかったぁ。」
「あ、いや。
確かにシェビンさんを直接嫌いというわけではないですが
幽霊の時点で誰も話を聞いてくれることは
ないと思いますよ。
そもそも幽霊として見られてるので
嫌われているのでは…」
「ひぐ…そう…なんでずね…。
ひぐっ!」
エイジロウがそう言うと
シェビンはまた両目に
こぼれ落ちそうなほどの
涙を浮かべて
エイジロウを見つめた。
「あ、いや、もしかしたら
どこかに幽霊が好きな人も…
いや。
そんな人いないか…。
怖いもんな。」
「ひっく…ひぐ…
うぅぅううぅ。
うぇえぇえええぇえええーんんん!!」
エイジロウが最後に付け加えた
余計な一言で
シェビンの両目のダムは崩壊した。
「あ!
ち、違います!
な、泣かないで!
ど、どうしたら…」
「ひぐ!
もうダメなんでずね!
この姿でば…ぎっど誰も協力じでぐれる
人なんでいばいんでずねぇ!
うぇぇぇええん!!
もうどうじでいいかわがらないでずぅぅぅう!!」
「そ、そんなことないですよ!
な、何とかなりますよ!」
「ひぐっ!
ぅううぅう。
何とかっで??」
シェビンは少し赤くなった目をこすりながら
子供のようにエイジロウを見上げて聞き返した。
それは美しさとはかけ離れた可愛さだった。
じっと見つめられたエイジロウは
少し頬を赤くしながら
勢いで答えた。
「お、俺…俺が手伝いますから。
あとナツミも。
もう、一人じゃないですよ。
みんなで探しましょう。」
「ほ、ほんとでずが?
ひぐっ。」
「本当です。
うん。
どうしていいかはわかりませんが
協力します。」
「ひぐっ。
じゃ約束じてぐれますか?
ひぐっ。」
「約束しますよ。
じゃ小指出してください。」
「小指?
ひぐ。」
エイジロウはそう言うと
握った手の小指だけを差し出した。
「こうして…。
はい。
ゆびきりげんまんうそついたら
はりせんぼんのます。
ゆびきった。
…。
はい。
これでこの世界の約束は完成です。
破ったら針を千本飲みますよという罰付きで。
ま、飲んだら死にますが。」
エイジロウは指切りをすると
恥ずかしそうに手を離し
頭をかきながらシェビンに言った。
「え!?
ひぐっ!
じゃ…私なんかとの約束のために
い、命をがげでぐれだんでずが??」
エイジロウの言葉にびっくりして
シェビンは泣きながら聞き返した。
すでに美しい顔面が水という水で
ぐしゃぐしゃである。
「…はい。
ま、そういうことになりますかね。
いつまでかかるかわかりませんが
頑張って探してみましょう。
だからもう泣かな…」
エイジロウがそう言いながら
シェビンに目をやると
その後の言葉が止まってしまった。
「ひぐっ…。
えへへ。
嬉しい。
ありがとう、エイちゃん。」
白く美しい両の手の指で涙を拭き
その隙間から澄み切った青い瞳が
エイジロウを覗いていた。
そしてエイジロウに向けられた笑顔は
エイジロウの頬を容易く
赤く染め上げた。
それはまるで雨上がりの夏の空のようだった。
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