幽霊騒動
「探してるんです。」
「ぎゃぁああぁぁあああ!!!」
「また出たんだって!」
「何が?」
「幽霊!」
「あー。
最近噂の?」
ここはとある。
海が綺麗で漁業も盛んな綺麗な街。
そんな街に最近幽霊が出ると
噂が広がっている。
「また探してるんですって言ってたらしいよ。」
「探してるって何を探してるんだろうな?」
「わかんない。
ほんと怖い。」
「怖いってお前な。
探し物してるんだから怖くはないだろ。」
「怖いよ!
怖すぎる。
きっと…
探してるんです…。
私の体…みたいな!
きゃぁあああ!」
「うるさい。
一人で騒ぎすぎだろ。」
「…エイちゃんは怖くないの?」
「今の所、ナツほどは怖くないよ。」
エイちゃんことエイジロウ。
身長180程の長身で黒髪の短髪。
髪質が柔らかく
短い髪もツンツンと上げること叶わず
さらりと下りている。
ナツことナツミは
身長165程の女としては長身で
黒髪のロングヘア。
綺麗な二重に少し薄い茶色の瞳。
日に焼けた肌が印象的だ。
「ほんとに怖くないの?」
「実際、出会ったら怖いとは思うけど…。
霊感なんてないしな。
それよりも就活が無事に終わるかのほうが
何倍も怖いよ。」
「あはは。
エイちゃんらしいね。
ほんと心配性なんだから。
でもエイちゃんなら何にでもなれるよ。」
「なんでもある程度できる
器用貧乏なのは自覚してるよ。」
「まったくもう。
そうやってすぐ卑屈に捉える。
もっと前向きにいこーよ。」
「はいはい。
頑張ってみるよ。
ナツはオヤジさんのとこ継ぐのか?」
「うーん。
どうしようかは考え中。
やりたいことっていうのが
まだわかんない。」
「そっか。
ま、お互い何かは頑張らないとな。」
現在二人は大学三年生。
絶賛就職活動中である。
この海の綺麗な街にある
大学に通う二人は元々生まれも育ちもこの街である。
生まれた頃は『街』というよりは『町』に近い
場所だったが
徐々に発展を遂げ
商店街賑わう漁業も観光もある程度盛んな
住みやすい街に変わっていった。
「じゃ、また明日な。」
「うん!
また明日ねー!」
エイジロウはナツミと別れると
家に向かい歩き始めた。
『あいつはほんと元気だよな。
あ、今日は母さんいないんだった。
なんか買って帰るか。』
途中、家に親がいないことを思い出し
商店街で夕飯を買って帰ることにした
エイジロウ。
「おじさん。
これ一つ。」
「お、エイちゃん毎度あり!
一つじゃ足んねーだろ?
これ、おまけな!」
「いつもありがとうおじさん。」
「いいってことよ。
それよりエイちゃん帰り気を付けなよ!
なんでも幽霊出るらしいぞ。」
「はは。
大丈夫だよ。」
「確かこの前出たのってこれから
エイちゃんが帰る道だったはずだぞ?」
「大丈夫だって。
霊感ないし。」
「はは!
じゃ大丈夫だな!」
「うん。
また来るよ。」
「あいよ!
毎度あり!」
エイジロウは夕飯のおかずを買うと
また家に向け歩を進めた。
『うーん…。
どこで出たか聞いておけばよかった。
心配になってきた…。
回り道して帰るかな。』
エイジロウは少し不安になり
海沿いを歩いて帰ることにした。
日が沈みかけている海は綺麗で
夏の風がエイジロウの頬をくすぐった。
『いつ見ても綺麗だな。
夏も…もうすぐ終わりだな。』
そんなことを考えながら
歩いていた。
「…して…るんです。」
「…ん?」
突然、何が聞こえたような
そんな気がして視線を海から
前に向けたエイジロウ。
だが、そこには誰も居らず
見慣れた道が続いていた。
『気のせいか?
誰かに声をかけられたような…?』
エイジロウはあまり気にすることもなく
ゆっくりと歩いた。
「あ、あの…探してるんです。」
「…。」
『う、嘘だよな。
い、いや聞こえた。
お、落ち着け。
ダメだ。
とにかく…ヤバい!』
エイジロウは聞こえた言葉を脳内処理すると
今日聞いた幽霊話とあまりにリンクする状況に
背筋が凍り、軽いパニックになった。
『声は…後ろからだった。
振り返ったら…』
「探してるんです。」
「はい!?」
エイジロウのそれは反射的な動きだった。
ダメだと頭ではわかっていたが
体が勝手に後ろを振り返った。
「あ…え…
えっと…。」
「…。」
エイジロウは開いた口が塞がらなかった。
身長はおそらくナツミほどだろうか。
沈む夕陽に照らされた
見たこともない美しい銀髪。
海の色のように透き通った青い瞳。
絹のような白い肌。
そしてそんな肌と
若干の境を作る
純白のドレスのような物を着た女性がそこにはいた。
「あ、あの!」
「は、はい!」
女性はあまりにも何も話さない口を
あんぐりと開けた男に
一生懸命声をかけた。
エイジロウはなんとか声を出し
現状を必死に理解しようとした。
「探してるんです!」
「え、あ、はい!
えっと…何を探してるんですか?」
「う…うぅうぅう…。」
「え!!?
どうしたんですか!?」
エイジロウが声を返すと
途端に女性は泣き始めた。
あまりの急展開にエイジロウは
ものすごくオロオロし始めた。
そこに聞き慣れた声が聞こえてきた。
「エイちゃーん!
っとどちら様?」
快速に自転車に乗ったナツミが
エイジロウに近づいてきた。
「あ、ナツ。
この人が探し物をしてるみたいで。」
キキーっというブレーキ音とともに
ナツミがエイジロウと女性の隣に自転車を止めた。
「探し物?
って泣いてるじゃん。
エイちゃんなんで泣かせるの!」
「ち、違う!
泣かせてなんて…。」
「う…うぅうう。
うぇーーーん!!!
この人が…この人がぁぁぁああ!!」
女性は綺麗な面影もないほどに
顔面をくしゃくしゃにして
登場したナツミに訴えるように泣いた。
「えいちゃーーーーん!!!!!」
ナツミはその女性の発言とともに
エイジロウに頭を飛び上がり叩いた。
「いでっ!!!
違う!
違うって!
誤解だ!
誤解だってぇえぇええ!!!」
「待ちなさい!!!!
女の人泣かせて何してんの!!!」
エイジロウは叩かれて
理由のわからない超弩級な展開
に頭を巡らせながら
目の前の怒ったナツミから逃げ回った。
『く、くそ!
全然わかんねえっての!!!』
「こらっ!
エイちゃん!
待ちなさい!!!」
『なんだってんだちきしょう!!!』
「だから!!
誤解だってのーーーー!!!!!!!」
水平線に沈む夕陽に目掛け
エイジロウは心から叫んだのであった。