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その男、絶望につき



「精神的ってのはつまり、ただただ信じること。魔法の存在と、その自分自身を。言葉だと簡単の様だけど、これが一番難しくて、凄く大変な事だと思う。拠り所を一切省いて、科学や道具に頼らず、ただ魔法という存在を信じ続ける。それが精神的アプローチ。とても困難な道だ」


 俺はその言葉を聞きながら、少しばかり消沈していた意気を上げた。まさしく、俺が思い描く魔法だ。信じ抜く。その言葉もなんか格好良い。難しい? いや、それが一番、魔法に近づく、空を飛べる方法の様な気がした。俺、空を飛べるって信じ抜きます。魔法を信じ抜きます。それが、俺の、魔法の道です。良いなこれ。そうだな、うん、そう言おう。


「この教室で言えば、先生がそうだね」


 はい口にしなくて良かったっ!! 危なかったっ!! 堀田先輩ナイスアシスト。もう少しで自慢げに言い放つところでした。


「そうね。私も先生みたいに、無垢に、純粋に、魔法をただただ信じ抜きたい」

 不意にアリス先輩が言葉を重ねる。俺は教室の角で箒に跨がり飛び跳ねる魔法中年の背中に目を向けた。


「ぼぼ、僕も本当に、む、無垢な先生を見ていると、羨ましくなる」

 寿門先輩が、急に口を挟む。と同時に、俺の耳には魔法中年の鼻息が吹き届く。


「紫乃もいつか、先生みたいに、無垢に魔法を信じ抜けるようになりたいな」

 紫乃先輩が話した。魔法中年は箒の木柄をグリグリと股間に押しつけ、ポジショニングを整えている。


「む、無垢って、素敵だと、うちは思います」

 勇気リンリンの真穂さんが、言葉を添える。魔法中年は飛行練習でもしてるのか、箒を股に挟んだまま体をクネクネと揺らし始めた。


「うん、僕もそう思う。無垢って、格好良いよね」


 それもうバカの隠語だろっ!! と叫びたい衝動を俺は必死に押さえつけた。箒を股に挟んで飛び跳ねる中年男に向かって無垢無垢無垢無垢と皆が言う。もう俺の耳にはバカという言葉にしか聞こえなかった。


 いや、俺が思っているだけで、この人たちが純粋で天然なのは十分に理解している。でも、俺はまだ慣れません。あの後ろ姿には憧れられません。だって、魔法どうこうの前に、格好悪いじゃない。


 昨日の俺なら写真撮ってどっかにUPしてただろう。中学の頃なら蔑んでいただろう。小学生の頃なら。もっと小さい頃なら。確実に大爆笑だ。だって格好悪いもの。悪いものっ!!


「シュウヤ君は、先生に少し似てるかもしれないね」


 ぶっ殺されたいのか堀田あぁぁああぁーーーっ!! この流れでそれは無ぇだろ。似てねぇよっ!! 全然似てない。


「私もそう思ってたの。さっき空を飛びたいって言ってくれたときから」

 アリスこのやろーっ!! その高飛車なツインテールを引っ張り回してやろうかっ!!


「ぼぼ、僕も――」

 急にどうしたんだよ寿門っ!! 黙ってろよっ!! 何なんだよっ!!


「は、初めて先生に、会った時みたいな、しょ、衝撃を、感じたんだ」


 それ金髪の所為だって。全然違うじゃんっ!! 良く見てよ。全然違うから。


「皆も思ってたんだ」


 紫乃先輩も思ってたの!? 皆思ってたならもうそうなの!? 俺あの先生にそっくりなの? ああっ、もう嫌だっ、本当に嫌だっ!! 


「僕はシュウヤ君が羨ましいよ。だってそれは、皆が羨ましがる、先生の無垢という才能だからね」

 

 もし俺がそれも持っているのなら、すぐさまに献上致しますよ、堀田先輩。俺は要りません。無垢じゃありません。一緒じゃありません。


「おい、あんまり無垢無垢と褒めるんじゃない」

 

 不意に聞き届いた低い声に目を向ければ、魔法中年が嬉しそうな笑みを浮かべてこっちを見ていた。見んなっ!! 俺は違う。


「まぁ、実は俺も思ってたんだ。この金髪は俺に似てるってな」  

 

 ハッハッハッ、じゃねぇよっ!! 久しぶりに口を開いたと思ったら絶望を吐き出してんじゃねぇっ!! 嫌だ、止めろよ。魔法嫌いになっちゃう。


「先生も思ってたんですね」

 ハハハ、じゃないですよ堀田先輩。釣られて笑わないで。


「ほんとに似てるかも」

 キャキャキャじゃ無いですよ、アリス先輩。


 あぁ、紫乃先輩もふんわりと笑い出した。寿門先輩も俯いて笑ってる。真穂さんは何が面白いのって顔で無理矢理に笑ってる。皆笑ってる。俺が先生に似てるって。あぁ、もう疲れたよ。叫び疲れた。笑っとこう。もう考えるのが嫌だ。笑っとこう。ハハハハ、ハハハハハ。


 不可思議な笑い声が延々と木霊する教室。あまりの悲しみに嘔吐しそうになった俺を助けるかの様に、終業の鐘が、鳴り響いた。終わり悪ければ、もう最悪だ。


 あぁもう、魔法学って、最悪に、笑える。そう思った俺は、また笑ってしまった。そして響き渡る鐘の音が、余韻を残して鳴り止んだ。


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