6-(3) 「大逆罪。議会へ下す」
「緊急電です!グランダで大逆罪!李紫龍の妻の安心院蕎花が刑死です!」
とうい報告がマサカツアカツの大会議室に響いた。
この報告の次の瞬間には、室内にいた30名ほどの視線が一斉に会議室中央の上座にいるランス・ノールのへと集中。
衆目に映るランス・ノールの顔は、
――見たことか、私のいったとおりとなったろ!
そう書いてあるように自信に満ち溢れている。
第一執政である兄ランス・ノールの重要幕僚として兄の横に席があるシャンテルも、
「お兄さまは預言者ですか――」
という驚きの眼差しを兄へと向けていた。
ランス・ノールは本当になにもせずに居ながらにして皇帝に李紫龍の忠誠を裏切らせてしまった。シャンテルからして、どんな魔法をつかったのか驚きを隠せない。
室内が驚きにつつまれるなか、すかさず第四艦隊司令ユノ・村雨が勢いよく立ちあがり敬礼し、
「第一執政閣下に賀詞を献じます!その金目銀目はこの事態を見通しました。諸君、私は万歳三唱をしようと思うがどうか?」
そう室内のものへ呼びかけた。
これを見たシャンテルは、
――あらユノさんったら。
と、あきれ顔。シャンテルはユノ・村雨の本性を知っている。ここまで媚びへつらいができれば清々しくもありますけど。とシャンテルはあきれる思い。
シャンテルがあきれるなか、室内の面々はユノ・村雨の呼びかけに応じ、万歳三唱するためおもむろに立ちあがり始めた。
だが、ランス・ノールは、
「いや私は、いまとても悲しい。李紫龍はもう我々の仲間だぞ。なのに緋天将軍(ユノ・村雨の将軍号)、君の喜びようは仲間への配慮が欠けるのではないか?彼は妻を失ったんだぞ」
その金目銀目には真剣な悲しさをかもしだしつつ部下たちを制した。
ユノ・村雨の双眸が妖しく発光、
「あら、失礼いたしました」
と慇懃無礼に深く一礼してから着席。立ちあがりかけていた面々も座り直す。
「我軍の総軍司令官をうけてくれた李紫龍だが、彼はいまのところ体調不良で業務は無理だ。今日の会議にも出席していない。そんな彼が妻の死を知ってますます調子を崩さないか私は心配だよ」
ランス・ノールが室内を見わたしてからいった。
大会議室内の誰もが、
――どの口がそれを言う。
と思いランス・ノールへ驚きの目で見た。
おとなしく着席したユノ・村雨も笑いを噛み殺すのに必死。よくいうわよ。ランス・ノールは。体調不良ででられないって、李紫龍はいまだマサカツアカツ内で監禁状態。そもそも私たちのへ協力も了承してないじゃない。と、おかしくてしかたない。
ランス・ノールは報告をもってきた兵士へ、
「で、李紫龍の妻が刑死したわけはなんだ?」
と問いかけると、兵士は広い室内によく通る声で報告。
「李紫龍の謀反を知りながら見過ごした罪で共謀罪。および皇帝への侮辱で大逆罪です」
ランス・ノールが思わず笑いをもらし、すかさず、
「おい、聞いたかグランダ皇帝はバカだぞ」
というと、室内にドッと笑いが起こった。室内の誰もがそんな事実はないというのを知っている。
ランス・ノールがサッと右手をあげた。笑いが止まる。
「私はこの事実を李紫龍へ教えねばならぬわけだが、とても心苦しい。妻の死を知って彼はどう思うか。彼は大層な愛妻家らしいぞ」
愛妻を殺され李紫龍が、どんな行動にでるかというところか。と誰もが思った。
「ということで会議はいったん切りあげる」
ランス・ノールが、そう宣言し会議は終了。
人々が大会議室からでていくなか、ユノ・村雨は、
「ま、上手くやってね」
とランス・ノールへ小声でいって部屋をでた。
ユノ・村雨からすれば、安心院蕎花の死をランス・ノールが利用して李紫龍へ何かしかけるのはわかりきったことだ。
なおこの騒ぎのなか戦術機隊の責任者アイリ・リリス・阿南といえば、スースー寝息を立てていた。
会議終了後にシャンテルは寝息を立てるアイリ・リリス・阿南の横に立ち、
「リリヤさん。朝ですよ」
と声をかけた。
リリヤがキョトンとした顔で顔をあげ、続けてハッとし口元をあわてて袖でぬぐう。それをシャンテルは微笑んで見守ってから、
「では行きましょうか」
といってリリヤを大会議室の外へと誘った。
大会議室をでて艦内を並んで進むシャンテルとリリヤ。
「今日はどこ?」
リリヤがシャンテルへ問いかけた。
「艦尾の将校用のサロンでどうでしょうか?あそこなら誰でも利用できるスイーツ・パーラーより静かですし」
リリヤが機嫌よさ気にうなづく。
「あそこはチョコのケーキがおいしいんだよね」
リリヤは会議をまともに聞かない。そんなリリヤへ、シャンテルが会議後に誘ってお茶や食事をしながら会議の内容を要約して教えるのが恒例化していた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ということで李紫龍の奥さんは死刑だそうです」
シャンテルが艦尾のサロンで、リリヤへ李紫龍の妻安心院蕎花の死の情報を教えると、
「ふ~ん知らない興味ない」
リリヤが不快に応じた。
「そうですの?李紫龍はリリヤさんの上司になるかたでもありますし、奥さんが無実で殺されるってかわいそうでなくて?」
「ぜんぜん」
とリリヤはいってから、
「ムカつく」
とつけ加えた。
「え?」
と驚くシャンテルへ、リリヤが継ぐ。
「なによ奥さんって、軍人でしょイチャイチャしてんじゃないわよ。軍人は孤高であるべきだよ。なんかチャラい感じで最低なんだよね。なにが星間戦争最高の軍人よ。笑っちゃう」
リリヤは目は虚ろだが険悪な表情でいった。
ああ――。と、シャンテルは思う。
リリヤさんは幸せなご結婚していた李紫龍へ嫉妬してるんですね。
そう思ったシャンテルは、
「じゃあ気味がいいです?奥さんの死を知れば李紫龍は不幸のどん底ですよ」
と少し意地悪な質問をむけた。
「ぜんぜん、つまんない」
「あら、リリヤさんは優しいかたなんですね。普通、少しはざまあみろって思いますよ」
「違うと思う」
チョコのケーキを前に明るくなっていたリリヤに暗い表情。
シャンテルからしてリリヤの心の深淵は知れないが、リリヤの気持ちが不快に沈みだしたというのはわかる。すかさずフォローの言葉を向けた。
「あらそうなんです?私、李紫龍とは気が合いそうにないので、ほんのちょっとだけ気味が良かったです。内緒ですよ。リリヤさんとだけの秘密です」
とたんにリリヤに喜色。先程までと打って変わって気分は反転し上向きに上向き、リリヤが怒涛と喋りだす。
シャンテルはリリヤの話に相づちを打ちつつもリリヤの扱いに慣れている自分を感じた。
艦内に友人がいないリリヤは、
――2人だけの特別という。
この手の振りにきわめて弱いということをシャンテルは知っていたのだ。だがシャンテルは兄にも漏らせないような感情を吐露したのは事実だった。




