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夢見る鹿島の星間戦争  作者: 遊観吟詠
五章、ダーティーマーメイド
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五章プロローグ1 (ダーティーマーメイド)

「お兄ちゃん♪お兄ちゃん♪お兄ちゃん♪」

 そんな言葉を口ずさみながら跳ねるように進むボディーラインのでるピッタリとしたパイロットスーツに身をつつんだ娘。

 

 ここは神聖セレスティアル軍の総旗艦マサカツアカツの居住区画の廊下。

 

 パイロットスーツの娘は長い髪の毛を高い位置で左右でたばねおさげが2つ。そのおさげを後頭部へまわして一つに。左のおさげの結び目には大きな造花の髪飾り。小柄だがスタイルはいい。

 だが、そのパッチリとした大きな目には、なにが映っているかわかからない虚ろな色。口元には薄ら笑いを浮かべて表情は不気味だ。

 

 娘は体貌まとった薄気味悪いふんいきさえなければ間違いなく美人だが――。


 そんな娘へ、

「アイリ・リリス・阿南あなんさん?」

 という声がかかった。


 アイリ・リリス・阿南がパイロットスーツの娘の名前。

 

 呼ばれたアイリ・リリス・阿南が勢いよく振り向くと、そこには司令代理シャンテルの姿。


 とたんにアイリ・リリス・阿南に喜色が満ち、

「リリヤだよ!」

 と叫んでシャンテルへと一足飛びに近づいた。


 シャンテルは笑顔のアイリ・リリス・阿南の急迫にゾッとした。その目にはなにも映っておらず虚ろだ。

 

 驚きとおびえで硬直するシャンテルへ、

「リリヤだよ!!」

 とアイリ・リリス・阿南が繰り返した。


 あぁ――。とシャンテルは思い。


「では、リリヤさん。とお呼びしますね。そしてリリヤさん、ここは走るところではありませんよ?ここは居住区画ですのでお静かになさらないとみなさにも迷惑です」


「だれ?!」

 と、リリヤがシャンテルの目をのぞき込みながらいった。

 

 ――やはり不気味です。

 とシャンテル思うも不快をいっさい表情へださずに応じる。


「司令代理シャンテル・ノール・セレスティア。ランス・ノールの妹です。わたくしはリリヤさんを全体会議でなどかお目にかけていますけど、リリヤさんには覚えていただけなかったようですね」


「そうなの?あたし全然知らなかった!」


「お疲れのようで寝ていらしたから」


 シャンテルが苦笑。だが、リリヤは寝ているだけではない。ときには虚ろな目でどこかを見つめ2時間近く微動だにしない。端末を取りだしアプリで遊ぶ。険悪な目でなにかぶつぶついいつづける。終始落ち着かず突然立ちあがって叫ぶ。音がでるような状態だと兄のランス・ノールが、

「戦術機隊の隊長殿はお疲れのようだ」

 とつまみだしていた。


 そう、この異常な娘がランス・ノールの艦隊の戦術機隊の責任者だ。独立宣言して間もない神聖セレスティアル共和国では、空軍の実戦部隊のトップといっていい。


「で、なんでリリヤさんは、ここで走っておられるのです?」

 シャンテルが本題に戻した。

 

 シャンテルが、ここにきたのはブリッジに、

「アイリ・リリス・阿南少佐が居住区画で暴れてます。なんとかしてください」

 という苦情が入ったからだ。

 

 当然、戦術機隊のトップへは誰もが口出ししにくい。というのが理由ではない。すでに終始シャンテルが感じているリリヤの薄気味悪さが周囲から敬遠される理由だ。他にも理由があるが、とにかくリリヤは異常で会話が成り立たないときすらある。

 

 シャンテルの言葉にリリヤが聞いてくれてありがとうとばかりに、嬉々として、

「スキップよ!」

 と叫んだ。


 シャンテルは面くらい言葉がでない。わたくしが〝走っている〟といったのを訂正されたのはわかりますが……。とシャンテルは早くもリリヤとの会話の難しさに直面。

 

 ――居住区画で鼻歌を口ずさみながらスキップなどすれば迷惑。

 これをリリヤさんの気分を損ねずにつたえるのはどうすれば、とシャンテルが一思案しつつ、リリヤへはとりあえずニコニコとした柔らかな笑みを向け沈黙をごまかすしかない。


「スキップはいい運動だよ!体幹たいかんを鍛えるの。戦術機は操縦で負荷がすごいでしょね。Gっていうんだっけ?グーッと行くときに、ギュッと我慢してモニター見なきゃいけないから」


「それでしたらトレーニングルームのほうで――」

 シャンテルが引きつった顔で応じたが、リリヤは、

「お兄ちゃんといっしょにね南の島の赤い屋根の白い壁の家でくらすの!そのためには戦わないとね。だから鍛えるの。南の島に家が建ったらリリヤがお兄ちゃんを迎えに行くから!違う。そうだ。お兄ちゃんがリリヤを迎えにきてくれる。お兄ちゃんは優しいから。そのときに住む家がないと困るでしょ?」

 大声でまくしたてるだけ。居住区画にリリヤの声が響く。

 

 シャンテルが笑顔のしたで狼狽。シャンテルはリリヤを静かにさせるためにきたのにこれでは余計うるさい。


「あ、あの――?」


「なによ?」

 リリヤに険悪な色がでた。シャンテルが自分の話を聞いていないと気づいたからだ。


「お紅茶でも飲みません?」

 シャンテルは作り笑い。艦内のカフェテリアの方向を指さしていた。

 とたんにリリヤに喜色。

 では行きましょうか。と、シャンテルがいざない2人は並んでカフェテリアへと進んだ。


 シャンテルはリリヤの説得をあきらめ、別の興味を与えることでこの場をおさめた。その場しのぎだが、とりあえずこれで、

 ――寝れない。うるさい。

 という兵員たちの苦情は解消される。


 シャンテルはカフェテリアへと進みながら嘆息一つ。アイリ・リリス・阿南の兄ランス・ノールの処置を思いだしていた……。

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