火花葬
夜道の温度は濡れたように重かったが
目を閉じれば昨日と大差はないはずだ
タクシーの空車の群れは誰の葬列なのだろう
六つ足の異形は瞬くように飛び
八つ足の異形は浮かぶように明滅し
百つ足の異形は天椀を這っては消えていった
月も雲間に気配なく
僕に見えない天の川
鮮やかなほど曖昧に
残像になり何もかも
地下鉄がごうと鳴るのは地龍の吐息のようだ
生々しいような湿った羽風を送り付けてくる
舞い上げる、ふわりと、髪と裾と意識を空に放り出す
浴衣で美しく着飾った女は土の色の足をしていた
深緑色の鼻緒は苔むした大樹の根に似ている
あの世の匂いはきっとそんなふうに湿っているのだろう
夏の花火の朽ちて落ち
僕に見えない天の川
立つ鳥水面尾を引いて
残像だけが何もかも
ほおずきの実を天秤にぶら下げて重さを量ってみればいい
右が前でも左が前でも陽炎の前では大差はないはずだ
誰の葬列でも構わなかったのだと僕はそっと灯篭に火を灯す
幽霊には足がないのだと言うらしい
四つ足の獣が立ち上がり二た足になったのであれば
数列はゼロで正なのだから地から離れてそうしてどこぞへとゆくのだろう
夏の花火の見上げては
僕に見えない天の川
まぶたあけてもそこかしこ
残像ばかり何もかも
その日夜空を駆けたものは
すべて生であったしすべて死であった
女の白い顔とはげたペディキュアだ
地龍は明日もはらわたの熱を含みながら息を吐き
そして天龍は八十八の肢をくまなく張り巡らせて
散った誰かの足を数えながら葬列の長さを読み上げ続けている
浴衣の女はきっとそこにはいないが大樹は根を張り光に葉を向ける
地下鉄に乗ったらやたら浴衣の人がいるなと思ったら
隅田川の花火大会かなんかの日だったみたいです。
座ってると足元までよく見えるね(´・ω・`)
花火は見てないです(´・ω・`)