第17話
大変お待たせいたしました。
「それで、部員の皆さんすごく可愛らしくて、画力も物語もすごく素敵でしたわ! 去年の部誌を読んで、あんな素敵な作品に私も参加できることを考えると今からとても楽しみです!!」
やっと、エヴァちゃんの大本命の漫画研究部に行ってきました。
エヴァちゃんは見学がすごく楽しかったみたいで、嬉々としてその場で入部届けを書いていたけど、正直言うと、疲れたな……。部員の人たちはめっちゃキャラが濃くて、もちろん部誌も読んで。確かにすごかったけど……えっちぃ絵がいっぱいで恥ずかしかった。
ああいう本を文化祭で売れるって考えると、なんかすごい学校に来てしまったような気がする。
なんか、いろいろ大丈夫なんかな、あれ。
☆
「おかえりなさいませ、お嬢様っ♡」
1週間振りのお給仕で、エヴァちゃんはイキイキしてる。聞けば部活の方も絶好調らしい。その部活も集まるのは週に2、3回程度。他の日は基本的に2人で過ごしてる。
「お嬢様、ご注文はお決まりですか?」
「あ、ええと、オムライスで」
「かしこまりました♡ お待ちくださいませ♪」
それはつまり、1週間の半分はエヴァちゃんとキスしよるってこと。
部活見学で恋してる人を見てからというもの、ウチはエヴァちゃんの事が気になっとった。
それでこの気持ちを確かめるために、今日はお客さんとしてこのお店に入店してる。けど、やっぱり緊張するなあ!
「おまたせいたしました、オムライスです♡ ふーふーしますね♡」
ええっと、季紗さん?
「えっと、あの、こういうこと、エヴァちゃん以外の人とするの初めてなんです……」
「あらお嬢さま、他のメイドの名前を出されては、季紗嫉妬しちゃいます♡」
あっ、やっちゃった! そうよね、他の人の名前とか出すのまずいよね!
「はわっ、ご、ごめんなさい! 緊張しちゃって……」
ううぅ、エヴァちゃんと一緒に何回か来たのにまだ慣れん……。
見るのも恥ずかしいのに。お客さんとしては初めて来たんよね。緊張しかしない……。
「お嬢様、とっても可愛いですっ♡ 季紗がリードするので大丈夫ですよ♪ ふーふー、さあ、あーん♡」
恥ずかしい、けど、スプーンからこぼれ落ちそうなご飯を見て慌てて口に迎え入れる。
「はふはふ……ん〜♡ おいひぃ♪」
とろとろ卵とケチャップと絶妙なバランスのご飯がたまりませんなぁ♪ あわわ、卵こぼれちゃう!
「あらあらお嬢様♡」
ちゅっ
「危ないところでしたね♡ お洋服を汚してしまうところでした♪」
あ、あーーーこんな、感じなんだ、ここって……!
「あ、ありがとうございます?」
「あらあらお嬢様、そんなにお顔を真っ赤にして。可愛くて季紗たち、みんなに羨ましがられちゃいます♡」
なんとなく周りを見てみると、エヴァちゃんとバチっと目が合う。
「エヴァちゃん?」
ハッとした様子で慌てて目を逸らされる。どうしたのかな。
「では、引き続きお楽しみくださいね♡」
去り際にほっぺにチュー。恥ずかしい、けどすごく可愛い。みんな優しくて接客も丁寧で、そりゃあ繁盛しますよね。
ここにいる人、みんな同性愛者なんだね。星花にもたくさんおるみたいやけど……。漫画を読んでも思ったけど、やっぱり綺麗でいいな。性別関係無しにそういうものなんだろうけど、人を好きになるっていいな。
「恋葉ちゃん」
「エヴァちゃん。今日も楽しそ……」
楽しそうやね、と続けようとしたけど。唇を塞がれてしまう。
「? どうしたと??」
いやいや待って、そうじゃなくて、こんな人の多いところでキス?! いや、だって部屋でしかした事ないし、お客さんがたくさんおるけんまさか百合キスが足りないわけでもあるまいし……。
「裏で! わたくしの仕事が終わるのを待っていてください!」
「えっ、ちょ!」
腕を引っ張られ強制的に裏に連れて行かれ……
「まっ、待って待って! オムライス!!」
「後で持って行きますから!!」
「え、うん。どうしたん?」
「なんでもありませんわ!」
とか言って、すごく不機嫌なんですけど……。
あ、そうだ。
「エヴァちゃん、そういえば今度……」
あれ、いない。
まあ後でもいっか。
その後オムライスを持ってきてくれたのは美緒奈さんで、なんか、ニヤニヤしてました。何がなにやら。
ていうか、当初の目的は気持ちを確かめること、ですよ!
すっかり忘れとった!
季紗さんとのキスは、優しくて、いい香りがして、ほっぺに触れた髪がくすぐったくて、唇が柔らかくて……って、考えると、エヴァちゃんの時と変わらん? うーん、でも何か、物足りないような感じがしたような。難しい。モヤモヤする。
時間はたくさんあるわけで、今夜もエヴァちゃんと一緒なわけで。
まっ! この問題はあとにまわして、冷めないうちにオムライス食べちゃお! うん! うまか〜!
一応ちゃんとクライマックスに近づいてます。早く第三弾に取りかかりたい……。