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召喚されたようです。

前回のあらすじ。魔法陣に吸い込まれた。

 



 ──淡い希望の光が前に見えたとき、少し後ろでは濃い絶望の闇にソラが呑み込まれていた。闇に呑まれていく友人の名前を叫びながら手を伸ばすも、無情にも闇は閉じて消え去り、無常感のまま光に呑まれた。


 ……あぁ、護れなかった。



 †



 (にぎ)やかな様子が一目で見て取れるお祭り騒ぎな街の奥に(そび)える、白を基調とした豪華絢爛な装飾が施された城。そこでは城下町とは対照的に、王様から近衛兵、果ては城の料理人に至るまで城全体がピリピリとした緊張感を持っていた。


 勇者召喚の儀。それは、一年の歳月を掛けて行われる大規模な魔術で、およそ一万人の魔力を代償に行使できるものとされ、四段階に区分されるクラスの中でも最上級だと言われている。


 一年という長い年月と一万人分の魔力が無駄になるため、失敗すれば膨大な損失というのが、何が起こるかわからない未知への緊張感を煽っている。


 勇者召喚の儀が行われる場所は王の()。普段は王への謁見が行われる神聖な領域で、王の威厳を示すため一段と豪華なつくりになっている。


 直径およそ五メートルの、六芒星と円を基にいくつもの幾何学的模様が重なり合った魔法陣。それを描く線は、薄い青色に光っている。その傍には木製の台があり、白と黒の水晶玉が一つずつ乗せてある。


 その魔法陣を拝むようにして、十メートル程離れた場所に魔術師達が30人立っている。彼らは、魔法陣への最後の魔力の供給と、術式を制御し安定させるために存在している。皆、一様に白いローブを深く着ているため、顔やボディラインは隠れてしまい個人の特定が難しい。


 彼らを緊迫とした雰囲気で見守るのは王と近衛兵だ。王は玉座に余裕と威厳を持って座っているが、未知の事態に固唾をのむのを隠せていない。


 よく見てみると魔術師達の体が小刻みに震えているのがわかる。勇者召喚の儀は絶対に失敗してはならない国家の最重要要項。その緊張からくるものも少しはあるのだろうが、その震えの主な原因は魔術の難度にある。


 一万人分をもって漸くギリギリ(・・・・)足りる、魔術を発動するための魔力量。一年を掛けて漸くギリギリ(・・・・)制御出来る、膨大な術式と繊密なコントロール。人が行使するには幾分か早過ぎる魔術を無理矢理発動させているので、今でさえ成功しているのが奇跡としか言いようがない不安定なバランスなのだ。


 そのような訳で、国に()りすぐられた魔術師達でも自然と震えが出るまでの高難度(ゆえ)に──最上級クラスなのだ。


 そんな魔術師達の集団の中で、先頭にいる者だけは全く震えがなかった。その余裕を感じさせる(たたず)まい、集団の先頭にいるという事実から、かなり優秀な魔術師なのだと推測できる。


「……異界への接続が確認されました」


 ゆっくりと色を変えて光っていた魔法陣の光が強くなり、手応えが大きくなったのを感じ取ると、先頭にいる魔術師がポツリ、と呟いた。その言葉に、おぉっ! と周囲から歓声が上がる。


 多少危ないところはあった。一度に注ぐ魔力量に下限があることを知らず、少数で臨み魔術師の一人が魔力切れを起こしてしまったり、術式の一部に誤りがあり、魔法陣の貯蔵魔力が漏れて減ってしまったりということもあった。


 しかし、不安定な状態を一年間維持し続け、ついぞあと一歩という段階まで持ち堪えた。成功すれば異界の勇者が世界を救い、その勇者を召喚した者達は世界平和に貢献したとして、溢れんばかりの地位と名誉と金銭が授けられ、五代先の子孫まで何もせずとも幸福が約束される。フードで顔は隠れているため見えないが、内心ほくそ笑んでいる者も多いだろう。


 勿論、純粋に世界を救わんが為に奮起している者もいる。先頭にいる魔術師もその一人だ。


 (まばゆい)い光を発する魔法陣は、見た所異常はなく、一同が成功すると確信した。いや、確信してしまった(・・・・・・)


 一早く変化に気付いたのは先頭にいる魔術師だった。不気味なまでに安定している魔法陣に何か違和感を覚え、その正体を掴もうと思考を張り巡らせていた。


 その瞬間、先程まで安定していた状態が嘘のように光が大きく乱れ始めた。それと同時に集団の後方に控えていた魔術師が肩を大きく震わせ、呻き声を上げて汗をびっしょりと流しながら膝をついた。


「何が起こって……ッ?」


 先頭にいた魔術師が明確な異変に気付き、膝をついた魔術師に駆け寄ろうとして、突如、甚大な疲労感と脱力感に襲われた。立っているのが辛いが、それでも膝をつかなかったのはその魔術師の意地だろう。


「何……コレ……」


 大きく肩で息をしながら、突然の魔法陣の不具合に猜疑(さいぎ)の目を向ける。この体の力がごっそりと抜け出ていくような感覚は、間違いない。──魔力切れだ。


 何故。供給魔力は足りていたはず。術式を見誤ったか? そもそも初めから何かが足りなかったか? 誰も答えられる(よし)もない疑問ばかりが頭の中を立ち廻り、魔術師の集団はもう自分以外は地に伏せていた。


 かくいう自分も限界に近い。あぁ、もう駄目だ。やはり勇者召喚なんていう最上級クラスの魔術は無理だったのだろうか。ついに気力も底を尽き、力なく倒れ込んだ。倒れるときの風圧でフードが脱げ、淡い桃色の髪と、まだ幼さが残る少女の顔が(あらわ)になった。


 数瞬の後にやってくる衝撃に備え目をギュッと瞑った。悔しさや悲しさが脳を駆け巡りながらスローモーションに倒れていく彼女は、ふと疑問が(よぎ)った。


 頭から倒れていったはずなのに、いつまで経っても衝撃が襲ってこないのだ。もしや、打ち所が悪くて一瞬で意識を刈られて死んでしまったのか?


 恐る恐る目を開けると、腰の辺りに自分を支えている手があるのが見え、地に打ちつけられる寸前で誰かに抱きかかえられたということに気付いた。そろりと上を見上げると自分を助けてくれた人の顔がそこにあった。


 ──金に輝く髪を靡かせ、澄んだエメラルドのような瞳が、心配そうに自分を覗き込んでいた。



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