表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

魔王様だったようです。

前回のあらすじ。一目惚れした。

 


「えっと……一目惚れって、私にですか?」


「はい」


 即答で答える。すると、彼女は好意を向けられることに慣れていないのか、言葉の意味がはっきりと理解できていない様子だった。訝しげに俺を見つめ、困ったように笑っていた。


 ……恋なんて今までしたことがなかった。クラスの女子を見てカワイイなぁとか綺麗だなぁとかは勿論感じたことがある。だけど、何と言うか、恋とは違うような気がしていた。


 けれど漸く悟った。この気持ちは恋に例えず、何に例うべきか。惚れてすぐに告白するなんていう行動力が溢れたのは、きっと恋の成せる技だろう。


 そうして俺の初恋は──


「えっと……友人からでは駄目でしょうか?」


 ──それはもうあっさりと、考える素振りもなく振られた。


 ですよねー、とガックリ肩を落とす。初対面の人に告白されたら普通は断るだろう。いやでも、友人から(・・・・)ということは、まだ期待は持ってても良いのだろうか。


「……大丈夫です、友人からお願いします」


 そう、ここから頑張れば良いのだ。チャンスはいくらでもある。まずは体を鍛えて、安定した収入を獲得しよう。あぁ、明日への渇望が湧いてきた。昨日までの虚無感が嘘のように満たされ続けていく。この思いを忘れぬうちに街へ行こうとすると──


「ところで」


 その美しい声に止められた。ベルクライネさんはまた困ったように笑っていた。


「その……お名前を知りたいのですが」


「あ、申し遅れました。俺は霧雨宙っていいます。ファーストネームが宙です」


「ソラさんですか、なるほど」


 名前を申し遅れたことに少し恥じつつ、ふと、頭の中に疑問が(よぎ)った。


 俺は異世界に来て早々夢を砕かれた。何故か? それは、言葉すら通じなかったからだ。単純に世界が違うから言語が違う。それに加えて、無事に異世界転移を終えることがなかった俺には、小説や漫画では異世界転移するときに体が作りかえられるなんて展開もない。じゃあ、何故。今、俺はベルクライネさんと会話が成り立っている?


 その疑問に辿り着いたとき、ベルクライネさんは、妖しく笑っていた。


 と、そのとき。悍ましい色をした穴が空中に浮かび上がった。それは、忘れることは決してできない、俺たちを異世界転移させた魔法陣──の途中で発生した俺が落ちた穴と同じような姿形だった。ゴクリと緊張から息を呑むと、そこから人が出てきた。


 燕尾服を身に(まと)い、姿勢が正しいのも相まって執事のように見える。一見普通の人間に見えるが、頭から伸びる二本の(つの)が、普通の人間ではないことを証明している。


「……何者だ?」


 彼がそう言葉を発すると、風が発生し周囲の草花が(ざわ)めく。その口調からは威圧感と敵意が見え隠れしている。


「彼は友人です。いつまでも私の隣にいてくれるそうですよ?」



 どうやらこの人とベルクライネさんは知り合いのようだ。ベルクライネさんが少し嬉しそうに、おかしな話をするようにそう話すと、彼は「……そうですか」と答えて、依然無表情のまま俺の方に視線を戻した。


「本当に、その覚悟はあるか?」


 よくわからない展開になってきた。けれど、答は変わらない。雰囲気も呑まれそうになりながらも重々しく頷くと、燕尾服の男は俺の顔をじっと見つめた。


「付いて来い」


 燕尾服の男が先程の穴に手を(かざ)すと、おどろおどろしい穴が広がっていき、大人が一人入れるくらいの大きさから、大人が3人入れるくらいの大きさまでに広がった。


 それに躊躇うことなくベルクライネさんは入っていき、穴の闇に溶けた。


「怖いか?」


 燕尾服の男は相変わらず無表情だった。何を考えているのかが読み取れない。けれど、その言葉には嘲りの色はないように思えた。


「怖いですよ。でも、どうせ何したって怖いんですから、自分が納得できる道を選びます」


 穴に指先がそっと触れる。感触は水のようで、触れた端から水門が広がっていった。指を通し、腕を通す。水のようなものを通り抜けた部分が闇に溶けて見えなくなっている。


 意を決して飛び込むと、世界がガラリと変わった。端から端までが50メートル以上はある広い部屋だった。仄かに部屋を照らすシャンデリアに、黒を基調とした落ち着いた雰囲気で、まるで城の一室のようだった。床には長い赤のカーペットが敷いてある。片方の先には重々しい金属の扉があり、もう片方の先には宝石が散りばめられた玉座がある。


 玉座には、ベルクライネさんが落ち着き払った様子で座っていた。ただ座っているだけなのに、粛々として威厳を感じさせる雰囲気を放っている。そして、ゆっくり、ゆっくりと口を開けた。


「我こそは第16代目当主、ベルクライネ=サタン」


 血のように赤い玉座に腰を深く下ろし、艶やかな青の髪がふんわりと揺れる。先程通った穴は消えており、背には燕尾服の男が(たたず)んでいた。


「魔王城へようこそ。ソラさん」



ソラパートが一旦終了で、次はカイトパートです。異世界転移完了したところから始まります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ