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魔法陣のようです。



 冷たい秋風に吹かれ、二人の高校生は自転車であまり人気(ひとけ)の無い帰り道を走る。黒の詰襟(つめえり)に身を包み、しばらく自転車を漕いでいると、一人が溜息を吐いた。


「どうしたの?」


 溜息を吐く友人を見て首を傾げたのは天野海斗(あまのかいと)。金色の髪に澄んだ緑色の瞳をしている。それは、染めたりカラーコンタクトをつけたりしているわけではなくハーフだからだ。


「あぁ、大したことじゃないんだ。……なんというか、将来が見えなくてな」


 憂鬱そうに虚空(こくう)を眺めているのが霧雨宙(きりさめそら)。こちらは純粋な日本人なので黒の瞳である。が、色素が薄いのか、髪は紺色をしてる。


 他人と変わっているのはそれぐらいで、あとは特に思い当たるところがない。それが宙の悩んでいることでもあった。


 頭の出来も運動能力も悪くない。むしろ人並み以上に出来る程。顔も決して悪くはない。得意なことも苦手なこともなく、大体何でもこなせる。


 が、それまでだった。何かに突出しているわけでもなく、何か夢中になれることも見つからなかった。だから宙は、自分が何がしたいのか分からず困っていたのだ。


「うぅん、流石にそういうことは協力出来そうにないなぁ」


 海斗は申し訳なさそうに苦笑いを浮かべた。


「海斗は親父(おやじ)さんの道場を継ぐんだっけ? 羨ましいよなぁ、レールが敷かれてるって」


 あはは、とまた困ったように海斗は笑う。


「でも、そんなに良いものでもないと思うよ? 僕は偶々(たまたま)好きな事と重なったけど、もし代々継いでる職業とは違うことがやりたかったら、それはレールに縛られてると感じるんじゃないかな?」


 海斗の家系は代々剣道の道場を営んでいる。海斗の親父さんはその道場の流派の中でも史上最強と(うた)われていた。その息子というプレッシャーを負いながらも海斗は鍛錬を重ね、ついに一週間前の稽古で親父さんに勝った。親父さんは少し悔しそうにしながらも海斗の手をしっかりと握り締めながらとても喜んでいた。


 これで安心して継がせることができるな、と笑顔の親父さんを見て、素人心ながらも凄いなと感じた。


 海斗には剣の才覚がある。それはもう疑いの余地もないほどに。けれどそれ以外にも才能はあった。


 学業では成績トップ。運動センスも抜群で顔もかなり整っている。性格も良いので、女子からは意中の的で男子からは羨望(せんぼう)の眼差しで見られる。人望も厚く、友人も多いし先生からも好かれる。まさに漫画の主人公みたいな存在。


 だから、本当は家業を継ぐ以外にも多様な道が選択できたのだろう。だけど、それでも海斗は剣道の道場を継ぐ道を選んだ。それは何故か? 答は、純粋に剣が好きだからだ。


 そんな、自分の存在証明みたいな、熱心に打ち込めるものが俺にも欲しかった。


「俺……未来では何してんだろうな」


 想像もつかない未来に想いを()せる。けれども、全く見当もつかない。


「でも、宙は何でも出来るし、何にでもなれるじゃないか。ほら、自分でもよく言ってるでしょ? 好きな言葉は可能性だって」


 海斗はからかうように言った。昔のことを思い出したのだろう。


 昔、英語の授業で『不可能』という意で使われていた『Reach for the stars』を『可能性』と訳して怒られたことがあった。そのときに言い訳として「俺は可能性という言葉が好きだから、いつか星にも手が届くと信じている」と言ったことを未だに覚えていたのだろう。


 恥ずかしい過去の話だ、別に本気で言ったわけじゃない。それに、いくら星に手が届くのだとしても、夜空に輝く星はあまりにも多すぎて、どれに手を伸ばせばいいのか分かりやしない。


 可能性。その言葉を心の中で反芻(はんすう)した。何か、何か自分を突き動かすものが欲しい。そうしたらその『可能性』に懸命に手を伸ばすというのに。


「何にでもなれる、かぁ」


「うん、あとはきっかけだけだと思うよ」


 そうはいっても劇的な変化なんて普通の高校生の日常には訪れないだろう。変わったニュースなんてテレビの奥にあるものとしか思えなかった。



 そんなとき、目の前に魔法陣が現れた。



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