魔法の才能があるようです。
前回のあらすじ。魔王を倒してくれだってさ。
「僕が……ですか? あの、勇者勇者ってさっきから言ってますけど、僕は戦争とかがない平和な国から来たんですが……」
数刻前までノンファンタジーの世界で一般的な高校生活を送っていたカイトは話の展開があまり飲み込めずに苦笑いを浮かべた。
その一方で、既に国を救う方向に気持ちが傾きかけているカイトを見て、国王はやはり勇者の器とばかりに微笑を浮かべている。
「その辺りについては気にすることはない。勇者としての素質を持つものが召喚されるからな」
「素質?」
その返事を聞くや否や、国王が側近の兵士に目で合図を送ると、その兵士は台座に置かれた2つの水晶玉を台座ごと持ってきた。
2つの水晶玉は、それぞれ白と黒の淡い発光を帯びている。心持ち浮いているようにも感じられる。
国王と近衛兵、それといつの間にか戻ってきていた魔術師の集団に見守られ、目の前に置かれた水晶玉を不思議そうに見つめながらカイトは黒い方の水晶玉を手に取る。
瞬間。黒い帯光は消え去り、灰色、白色と変化していき白色の光を眩いばかりに強めていった。目を瞑ってもわかる程の強烈な光になった水晶玉は、鈍い音を立ててついぞ砕け散ってしまった。
水晶玉の成り行きを見守っていた一同は、国王を除き唖然呆然とした様子で、困ったようにしているカイトを信じられないものを見るような目で見て固まっていた。
「す、すみません壊してしまいました。いつか必ず弁償しますので……」
やってしまったとばかりに慌てふためくカイトに、笑みを噛み殺し切れていない国王が気にするなと言った。
何がおかしいのか見当がつかないものの、申し訳なさで少し腰が低くなりながら、次は白い水晶玉を手に取った。周囲は羨望と尊敬と恐怖が入り混じった様子だ。
今度は壊れないようにと、そろりそろりと水晶玉に触れた。瞬間、先程と同じように今度は白い帯光が消えた。そのまま黒色に変化するかと思いきや予想とは離れ、赤、青、緑、透明、白、黒と目眩しく強烈な光を放った。
黒の水晶玉が壊れたのが脳裏を過ぎり、慌てて手を離すと光は収束していき、プツリと光が消えると元の白色に戻り再び淡い帯光を纏った。
兵士や魔術師たちが口をパクパクとさせ割れた水晶玉の残骸と眩い光を放った水晶玉、それとカイトの顔を何度も見比べていた。
「えっと、今のはどういった結果になったのでしょうか?」
割れたことが不吉で、最悪な結果ばかりを想像させるとばかりに控えめに窺うように国王に尋ねた。
国王はニヤリと笑った。
「こちらの世界では魔力量の平均値は成人でおよそ1千で、原理上は一般的な初級魔術を10回行使できる量だ。城に仕えている優秀な魔術師でおよそ1万。この城で最高の魔力量を誇る『桃の魔術師』で約2万3千。国内でもトップクラスの魔力量で、5年に1人現れるかどうかという天才にあたる。で、肝心の勇者サマの魔力量はと言うと……」
ちらりと水晶玉の残骸を一瞥し不安そうになるカイトを傍目に、愉快そうに笑いを漏らす。
「百万以上。水晶玉で測ることができる限界値を超えちまったんだよ。そして、適正値が全属性だ。……クックックッ……あぁ! こんな天才、世界が誕生してから何人いるんだって話だ!」
興奮気味に話す国王とは対照に、兵士や魔術師たちは口が開かない。カイトも事態の凄さがイマイチ理解できず曖昧な対応だ。
「ようこそ歓迎するぜ、勇者サマ」
国王が手を打ち鳴らすと、周囲の人々も拍手をし、カイトは声援に包まれた。何だかそれが照れ臭かった。
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