アフターレター: 姫凪こよみ-9
まさか、こんな事態になると思っていなかった。
でも、少しはそうなるかなー。って思っていたけど、本当にそうなるとは思わなかった。
部屋にある漫画とかでヒロインの子がよくなる作品があって、「嘘だー」って思っていたけど、本当だったんだ。
今日、最初の授業から今受けている授業までの内容が、完全に抜けている。
一応、受けてるとは思うけど、なんか授業中ずっと寝ていたか、こっそり抜けて、どっか別のところにいたのでは?と、疑心暗鬼したくなる。
もし、これがテスト期間中だったら、間違いなく解答欄空白ばかりで、赤点のオンパレードになってるよ。
あと、朝の出席確認時に返事した記憶もないけどーーーー
それでも、ただ、なんとなくだけどぼんやりと覚えてることがある。
朝、紬ちゃんを追っかけったけど、教室に入る前までには追いつくことができなかった。
もともと、紬ちゃんは運動部の助っ人を時々やっていいたり、結構動き回るアルバイトもしてるため、私との体力の違いというか、運動神経の差は月とスッポンだよ。
追いついたときは時すでに遅く、紬ちゃんが安理ちゃんと明日奈ちゃんに伝え終わっていた。
質問攻めにされる。って、とこのときはとっさにそう判断したけどーーーー
何もされていない。今に、至る。
なんか、それはそれで怖いけど………
そして、結局昼休み。
一応、休み時間中にやってみよう。とか、前の午前中最後の授業が移動教室だったから、移動中にさりげなくやってみようとかーーーーいろいろと、考えはあったけど、実行することが出来なかった。
その度に、紬ちゃんが「頑張れ」と応援、安里ちゃんと明日奈ちゃんは黙って私の頭を撫でてくれたけど………案外、それがプレッシャーになっていたのかもしれない。
いざ、彼の前に来ても、挨拶を交わしたり、一言二言どうでもいいような会話をしたりするだけで、本題には一切触れることなく終了。
私、惨敗。
あと、おそらくだけど、彼も私が触れるべき本題に気づいてるような気がする。
「よーし、お弁当食べたから行ける気がする」
「がんばー」と、本日、何度目かの挑戦。
本当なら、言われた時と同じタイミングで言いたいけど…………私の性格は、やろうとしないとやらない性格。やれる時にやらないと、後々ダメになる性格。
「羽賀くん」
食事を終え、なんかの小説を読んでいた彼の名前を呼ぶ。
それだけで、私の心臓はドックンドックンと激しく動く。
この感じ、あの時以来だーーー。
「姫凪さん………」
彼が私の顔を見ながら、「ここでいいの?別のところ行く?」と言った。
やっぱ、バレてたんだ。
私が言いたいことを。伝えたいことを。
彼の言う通り、これから言うことはすごく恥ずかしくって、出来れば2人だけになれる場所で言いたい。でも、今の私は、2人だけになれた場所に行ったら、きっと何も言えない。
だから、「ここで、いい!!」と伝えたい。
大半以上のクラスメートが残っている教室で、伝えるんだ。
恥ずかしいけど、今、この場所で、この瞬間に言わないと、きっと言えない。
「あ………あのね!!」
私はまだ、彼ーーーー遙ちゃんのことが好き。大好き。
愛してるって言える。
ずっと一緒にいたい。どんな状態でもいいから、ずっと一緒にいたい。
その思いが私の全てだった。
でもーーーー
こよみちゃんは、新しい恋愛をするべきだと思うよ。 と、久樹ちゃんは言った。
君には、新しい恋をして欲しいんだ。と、遙ちゃんに言われた。
最初は分からなかった。2人の気持ちが。
2人が何を思って、私にそう言ってるのが。
そして、私自身の気持ちも分からなくなった。
ずっと好きでいたい。愛していたい。と思っていたのに、なんで私はこんなに悩んでるのか、その理由が分からなかった。
普通に思えば、私は何も悩む必要がなかった。
私は、まだまだ大好きで、愛してる人がいるから、ごめんなさい。
って、断れば、この問題はすぐに終わった。
でも、私はそうしなかった。違うよ。
しなかった。じゃない。しようと思わなかった。
私の中にあった選択肢の中に、それがなかった。
私は、私がわからなかった。知りたくなかった。
私は、私のまま。
彼がいなくなっても、彼を好きで、彼だけを好きでいる、それが私。
でもねーーーーきっと、私はそうじゃなってどこかで思っていたんだ。
だから、悩んだ。
だから、考えた。
だから、迷った。
でも、それらの答えは彼が教えてくれた。
目を閉じた時に、真っ先に思い浮かんだのはーーーー
遙ちゃん顔じゃなかった。
ーーーー羽賀くんの顔だった。
だから、わかった。
多分、私は羽賀くんのことが好きなんだって。
でも、好きって感覚以上に、遙ちゃんへの思いが強いせいでわからなかった。
だからーーーーだからーーーー私はーーーー
「きっと、好きになるから、一緒にいさせて欲しいです」
これが、私の答え。
みんなから教わって答え。