アフターレター 姫凪こよみ-8
いつもの通学路。
途中までは私1人だけど、家から歩いて5分ぐらいの公園前で紬ちゃんと合流。
その後、高校前で別方向の明日奈ちゃんと安里ちゃんと合流。するときもある。
「おはよう、紬ちゃん」と、公園前で待っている紬ちゃんに挨拶すると、「おはよう」と返してくれる紬ちゃん。
いつもなら、テレビ番組とか、噂話とか、雑誌の内容とかーーーーいろんな話をしながら歩くけど、今日は違っていた。
「それで、決まったの?」と、忽然と聞いてきた。
何に対して何が決まったのかを示す主語がざっくりと抜けているけど、私にはそれが何を示しているのかすぐに分かった。
紬ちゃんが聞いてきたのは、私が土日の二日間ずっと悩んでいた答え。
『まだ、出会ってそんなに経ってないけど、俺は君が好きだ。君のことをもっと知りたい。君に俺のことをもっと知ってほしい。だから、付き合って欲しんだ』
それが、あの日の彼ーー羽賀幸谷君からの告白。
突然で、なんの前振りもなく言われたので、私の頭の中は真っ白になって、何も考えられなくなって、あたふたしていたのを思い出した。
だけど、冷静になっても、私はそれに応えることができなかったし、真っ白になっていなくても結果は同じだったと思う。
でも、正直言って、異性の人からーーそれも、まだ何も知らない人から好きだ。って言われたことはちょっと嬉しかった。
でも、私の思いは、彼には向いてなくてーークラスや同級生、先輩の男子の誰にも向いてなかった。
私の思いは居なくなった彼だけに向いていた。
それでいいんだ。それが当たり前なんだ。それが私なんだ。って、思っていた。
だけどーーーーそれでも、私はそれに対して悩んだ。
そう。
久樹君や、夢の中の遙ちゃんに言われるまで、私は間違ってることに気付きたくなかった。
言われて、気づいた。
私の思いは、間違っていた。んだってーーーー
横断歩道前で信号待ちで立ち止まる。
「どうなの?」と、改めて紬ちゃんが訊いてきた。
「紬ちゃん」と、私は紬ちゃんのことを見ながら、彼女の名前を呼びーーーー私の答えを伝えた。
「私ね、今日、言うよ」
「そっかーーーー見つかったんだ、答え」
「うん」
見つけることができた。知ることができた。
いろんな人に相談した。
今の友達。大切な友達で幼馴染。そして、夢の中の大切な人。
いろんな人に相談して、アドバイスをもらった。
そして、私は見つけることができて、決めることができた。
私はーーーー羽賀幸谷君のことがーーーーなんだって。
多分、その答えは、羽賀君が嫌な思いすることかもしれない。
「じゃーさ」と、信号が変わるのと同時に、紬ちゃんが駆け出して、横断歩道を渡りきったところで立ち止まり、私の方を振り向いた。
「私たちが逃げないように見守ってあげないとね」と、なにかイタズラをしそうな笑顔の紬ちゃん。
「え?」
何を言ってるの紬ちゃん?
見守る?誰が何を見守るの?
そもそもーーー私たち?なんで複数形?
と、私は紬ちゃんの行動が理解できていなかった。
でもーーーー
「だって、こよみちゃんの事だから、目の前にしたら逃げちゃう可能性が非常に高いでしょ。それを止めるのが、一番の親友としての役割じゃない?」と、紬ちゃんが言ったことで、なんとなく理解できた。
「それ………絶対に違うような気がするけど……」と呆れながらも、信号が変わる前に横断歩道を渡り、紬ちゃんの隣にたどり着いた。
「そっかなー」と、クルッとその場で半回転した紬ちゃん。
見事に、まわれ後ろ。
そして、「私はそう思うよ」と、脱兎のごとく、突然走り出した。
「あと、このことはみんなに伝えておくからねー」と、言い残してーーーー
「それは、ダメーーーー」と、叫びながら、私は彼女の後を追った。