アフターレター 姫凪こよみ-6
それは夢の中での出来事。
だって……私の眼の前にもういない彼がいるから。
だから、これは夢の中なんだ。って確信が持てた。
覚めて欲しくない夢。
目覚めて欲しくない。
このまま、夢の中でいたいーーーーと、私は思う。
「久しぶり
だって、遙ちゃんが成長してないから、私はこれが夢だってわかるんだ。
きっと、この遙ちゃんは私が作り出した妄想が具現したもの。
でもーーーー嬉しい。
例え、目の前にいる人が偽物でも。作り物でも。幻でも。
久々に会えた。
久々にその声を聞けた。
「うん。遙ちゃんも、天国で元気にしてる?
「あー。大丈夫だよ。こよみは?
あそして、久々にあの笑顔を見れた。
「元気だよ。それに、遙ちゃんーーーー
でも、願わくば、彼が幽霊であって欲しい。
「元気だけが取り柄の私だよ。
「そうだったね
彼の笑顔を見ると、私は安心する。だから、私は好きだった。
「そうだよ
自分で自分の顔を見ることはできないけど、分かるよ。
だって、どんな遙ちゃんでも、彼の前の私は笑顔で答えてるんだろうなーーきっと。
「そうだよーーーー
でも、知りたくなかったことを分かっちゃったよ。
私は、遙ちゃんのことがあれからずっと好きで愛してる。
好きだよ。愛してるよ。と、今でも言えるよ。
でもね、あの頃と比べると何か少しだけ違う感じがする。
違ってるのはなんなのかわからないけど、そんな感じがする。
それは、きっと私の思いと気持ちが、あの頃から変わっていたから。
自分でも知らないうちにーーーー変わっていたんだ。
「「ごめんね」」
自然と私と遥ちゃんから漏れた言葉。
悪いのは、私。変わっていた、私なのに。
なんで、遙ちゃんが謝るのか、わからない。
「こよみを苦しめてるのは、僕のせいなんだよね
違うよ。と、言いたい。伝えたい。叫びたい。
なのに、しれが口にできない。言葉にすることができない。
なんでーーなんでーーなんでーー
「こよみ」
あの笑顔で、私の名前を呼ぶ遙ちゃん。
「君には、新しい恋をして欲しいんだ」
そして、遙ちゃんも彼と同じことを言った。
なんで、そんなことを言うのかーーーなんで、言われるのかーーー私にはわからない。
わからないから、紬ちゃんに相談したのに、なにもわからなかった。
紬ちゃんは、その意味を分かったけど、私はわからなかった。
なんで、私には新しい恋が必要なのか?
私は、ずっとーーーー遙ちゃんのことを好きでいたい。愛していたい。
前と比較して変わっていたというなら、もう一度、あの頃の思いと気持ちに戻すから。
だからーーーだからーーー
「好きでいさせてよ」
それは、私の切望。本音。
「遙ちゃんだけを好きでいたい」
「ありがとう」
好きでいたい。ずっとーーーずっとーーー
「だからこそ、こよみには新しい恋をして欲しいんだ」
やめて。
そんなこと言わないで。
私はーー私はーー
「好きでいさせてよ………」
もし、私の気持ちが変わってしまっているなら、戻ってみせるから。
もう一度、一番好きになるから。愛するから。
だからーーーだからーーー
「愛させてよ」
たとえ、その人が死んじゃっていて、この想いに応えてくれなくても。
私、独りだけの恋愛になったとしても。
「こよみ」
それは、彼が私のことを呼んだのと同時だった。
周りが突然、黒一色の暗闇に染められた。
何も見えない。
「遙ちゃん、どこーー!!」
何も見えない暗闇に向かって、彼の名前を叫ぶ。
まだ、彼が私のそばーーーーうんうん、隣にいることを願って。
何も見えなくてもかなわない。
私のそばまたは、隣にいるなら、まだまだいろいろと話したいことがある、伝えたいことがある。
もっと、時間が欲しい。
または、今が現実になって欲しい。
「こよみ、目を閉じて」
突然、彼の声が私の中に響く。
聞こえたのではなく、響いた。
彼が私の中にいるような感覚がする。でも、きっとそれは錯覚みたいなもの。
でもーーーーこの感覚が錯覚であって欲しくない。
だって、彼はもう死んでる人で、幽霊になってるから、私に取り憑いた。と思いたい。
怖いけど、そう思いたい。
「こよみが探してる答えは、そこにあるからーーーー目を閉じて」
目を閉じてしまうと、今のやりとりが終わってしまう。現実に戻ってしまう。
そう思うと、彼のそれには従いたくなかった。
だけど、私の中には彼が言っていた、私が探してる私がわからない答えを見つけたい。
それを求めている私。
怖い。
現実に戻ることが。
彼との時間が終わることが。
彼と別れることが。
怖い。
答えを知ることが。
私の中にある想いの先を知ることが。
でも、知りたいーーー。怖いけど、知りたい。
『こよみちゃんは、新しい恋愛をするべきだと思うよ』
久樹くんは、私が探しているものを知ってる。
だから、私にあんなことを言えたんだ。
そして、遙ちゃんもーーーー
私はーーーー、私はーーーー
答えを知りたい。
目を閉じた。
さっきだって、何も見えなかった。目を閉じたことで、さらに何も見えなくなった。
何も見えない恐怖。と何も見なくなて済む安心感。が、私の中には生まれる。
そしてーーーー
「それが、こよみが探していた答えだよ」と、彼が言う。
私は、それを見た。
何も見えない暗闇の中から浮かび上がってきた、人の顔を。