アフターレター:姫凪こよみ5
朝、8時53分。
ちょっと早めに、約束していた駅前に到着。
今日は、デート。と、いっても相手は友達なんだから、どちらかというと遊びに行くって言った方がいいかな。
なのに、約束していた時間よりも5分以上も早く来る私って、どうなんろう?
でも、遙ちゃんと初めてデートの時、実は1時間も早く来ていたことを思い出した。
あと、2分か3分ぐらい、遅れてきたんだよね、あの時はーーーー
お気に入りの花柄の腕時計で時間を確認する。
8時54分。
上を見上げる。
見事な快晴。
ちょっと、暑いし、日差しが痛い。
でも、日焼け止め対策をしてきたら、なんとかなる。と思う。
「お待たせー」
紬ちゃんがやってきた。
時間は、8時55分になろうとしていた。
以外にも早かった。
前に、紬ちゃんとお出かけした時は、約束の時間を10分ぐらい遅れてきた時があった。というか、紬ちゃんはいつも遅れてやってくる。
なので、今日はまさかの約束の時間よりも早く来たことに、ちょっと驚いた。
「今日は、早いね」と、言うと、「まーね。私はやればできるの」と、胸をはる紬ちゃん。
「んじゃ、こよみちゃん。行こっか」
「そうだね」
目的地は教わってないけど、目的は買い物だと思うけど………
「それで、どこにいくの?」と、一応、訊いてみる。
今の時間だと早すぎて、駅前の複合ショッピングモールはまだ開店してない。あとは、電車で3駅行った先にあるデパートに行けば、ちょうどいい時間になるから、そっちだろうか?
「あー、それは行ってからのお楽しみ」
「お楽しみって………」
「ささ、電車きちゃうから、行こっか」
電車に乗るっていうことは、私が思った後者の方だろうか?
電車で3駅。
そこまでは、私の読み通りだった。
だけど、予想していた目的地が違っていた。
「ここ?」
私は、そのお店の看板を指差しながら、紬ちゃんに確認すると、「そうだよ」と、呆気ない回答がくる。
「えーと………」
お店の看板には、可愛い猫のイラストと可愛い丸文字で『猫カフェ』と書かれていた。
丸文字は、ポなんとか体って美術の授業で習ったような気がするけど、名前が思い出せない。
ただ、これだけでも、今から入ろうとしてるのは、時々見るニュースで取り上げられている世間で人気の『猫カフェ』。
「あれ? 今日って、お買い物じゃなかったの?」
そのつもりで来ていた私。
「あれ? 私、そんなこと言った?」
よくよく思い出してみると、昨日の電話では紬ちゃんから、突然、デートに誘われただけで……
それ以外のことは何も聞かされてなかった。
つまり、私の思い込み。とうことで。
看板にはたくさんの猫が書かれていただけあって、店の中にもたくさんの猫がいた。
たくさんと言っても、片手で数えれるぐらいだけど、私からしてみればたくさん。
「それで、こよみちゃん」
紬ちゃんは、自分の身体にすりすりをしにした猫の頭を撫でながら、私のことを呼んだ。
お店の猫だからなのか、結構人に懐いてる。
撫でられている猫はとても気持ち良さそうな顔と、ごろごろと喉を鳴らしている。
「決まったの?」
紬ちゃんの言葉に主語がない。
でも、わかる。
主語がないけど、それは、間違いなく私の今の心境。
「わからない」
そして、それに対して、私はまだ自分の中で答えが見出せていなかった。
昨日会って、相談にのってくれた久樹君は、私が見出していない答えを知っている。
他の人がそれを知ってるのに、私はそれを知らない。
私の問題なのに、他の人はすでに答えを見つけていて、はなまる解答をしてるのに、私はいまだに空白で、バッテン解答。
「どうすればいいのか、わからないの」
悩んでる。
迷ってる。
彷徨ってる。
そんなのわかってる。
でもーーーー
「みゃー」と、お店の子猫が私の近くにやってきた。
私は気分を紛らわそうと、近くの遊び道具箱に入ってた猫じゃらしを拾い、その子の目の前で振るった。
すると、その子はそれで遊んでくれた。
本当に、何も考えてないって羨ましいな。
「でもさ、昨日、あったんでしょう。玖珂君に」
「うん」
「それでもーーーー」
久樹君と会うことで何か、わかるかもしれないと思った。
でも、何もわからなかった。
反対にーーーー
「違う人と恋をしろ。って言われたよ」
もっと、悩むようになった私。
「流石だよね。玖珂君は」
猫の頭を撫でながら、紬ちゃんは、久樹君の言葉に感心したように言った。
私からしてみれば、なにが流石なのかわからない。
まさか、私を余計に悩まさせたことが流石って言うの?
それは、絶対に違う。………よね。
「長い間友達として近くにいただけあって、結構いいことをいうよ」
いいこと?
ずっと頭を撫でていた猫を抱きかかえ、お店に入って最初に案内された席に座った紬ちゃんが、「こよみちゃん」と私のことを呼んだ。
抱いた猫を、高い高いしながら、紬ちゃんは言った。
「こよみちゃんは、縛られすぎなんだよ。そのくらい、彼のことを好きで、愛していたんだと思うよ。だから、仕方ないかもしれない」
うん。私は、遙ちゃんのことが好きだよ。前も。今でも。
愛してるよーーーー愛し続けてるよ。
「でもさーーーー」と言い、猫をぎゅっと抱く紬ちゃん。
「それって、私からしてみると羨ましい反面、勿体無いと思うよ?」
「もったいない?」
「そ。人の人生って一度りきだけどさ、恋愛は何度でもできる。一度だけの恋愛はゲームのお話でさ、現実では何度も何度も恋愛をしたっていいじゃない」
私は、猫じゃらしをやめて、さっきから一緒に遊んでくれていた子猫を撫でてあげた。
子猫は、ごろごろと喉を鳴らしてくれた。
紬が言ってることは正しいように思える。現に、私もそうだと思う。
でも、まだ、彼を忘れることが出来ない。
彼のことを忘れないで、他の人を好きになったって、その人が私の一番大切な人にならない。
それは、その人に対して酷いことじゃないだろうか。
………。
そっかーーーー。だから、私は、悩んでるんだ。
だから、迷ってるんだ。
「紬ちゃん」
「ん?」
「私ね、紬ちゃんの言う通りだと思うんだ」
恋愛に回数制限はない。って、前に紬ちゃんから見せてもらった雑誌に書いてあった気がする。
でもねーーーー忘れたくないの。
共にいた思い出を、記憶を。感覚を。
忘れたくない。
でも、忘れないといけない気がする。
「どうやったら、忘れることができるのかな…,-…悲しいことだったらすぐに忘れそうなのに、全然そんな感じがしないの」
反対に、強まっている。
夢でも、現実味が強すぎて目が覚めた時に、彼にメールを送ろうとする日だってあった。
もう、いない。
はっきりとわかってることなのに、探してる自分がいる。
そんな自分が、新しい恋なんて、出来ない。
考えられない。
「多分ね、こよみちゃん。それは違うと思うよ」
「違う?」
「そ、違う。忘れられないのなら、忘れなくていいと思うよ。無理して忘れるよりも、ゆっくりと溶けていくように忘れるべきだと、私は思うなー。
だって、こよみちゃんには、あの時を忘れるなんて無理だもん。あの時の時間が思い出や記憶の一部になったとしても、それはずうっとこよみちゃんの中にあって、消えたり、忘れることなんて絶対にできない。あの時のこよみちゃんと彼方君を知ってるから、自信あるよ、このセリフ」
「でもーーーー」
「久我君が言ってたんでしょ。こよみちゃんは新しい恋をするべきだ。だっけ?
あれ、まさにその通りだよ。他のみんなは、あの頃のこよみちゃんを知らないけどさ、応援してるんだよ?私だって、そう。あんな事があったけどさーーーーこよみちゃんの事、応援してるんだらね」
「ーーーーありがとう」