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アフターレター 姫凪こよみ3

私はまだ、遙ちゃんのことが好き。愛してる。だから、他の誰かを好きになったり、愛したり、気にしたりしない。

と、思っていたのかな。

晩御飯を食べ、お風呂に入って、パジャマに着替えた私は、ごろんとベッドの上に転がった。

そして、私は私のことを考えた。

私の気持ちはーーーーいま、思っている気持ちと持っている気持ちは、ホンモノなのだろうか?もし、これがニセモノだったら、ホンモノの私の気持ちはどこ気あるんだろう。

あの日ーーーー遥ちゃんの葬儀の日に、燃やしちゃったのだろうか?あるいは、置いてきたのだろうか?

『此方くんは、それを望んでるのかな?』

紬ちゃんの言葉が、私に中で木霊する。

それくらい、あの言葉は私に大きな衝撃を与えたのだろうか。

「わからないよ……」

ポツリと呟く、私。

どんなに考えても、どんなに悩んでも、わからなかった。

私の気持ちも。

遙ちゃんの思いも。

そして、紬ちゃんの言葉に対する答えも。

なにも、わからなかった。

「一人よりはーーー」

腕を伸ばし、サイドテーブルの上の充電器にセットされているスマホを取る。

取ったスマホのキーを解除し 、トップ画面のメッセージアプリを起動。

一人で悩んでいても、解決できる問題じゃない。

だから、相談をするんだ。その相手は、私と遙ちゃんのことをよく知っているーーーー違う高校に合格した幼馴染み。


翌日。あ、前日が金曜日だったから、もちろん、土曜日。

歴とした休日。

私は、駅前にある喫茶店で、昨夜、相談のメッセージを送った人を待っていた。

ただ、待つだけではあれなので、試しに喫茶店内に置いてあった新聞を読んでみた。

文字ばかり。苦手な社会ばかりで、挫折。

次は、大人の人が読んでそうな情報雑誌に挑戦。

面白くなかった。

そして、行き着いた先は手紙を書くことにした。

手紙の送り先は、遙ちゃん。で、返事なんて返ってこない。

でも、書かなくちゃいけない。

理由は、私にある。

で、いざ、それに取り掛かってみると、なにも思いつかなかった。

「よ。会うのは、卒業以来だな」

悶々とする私に懐かしい声が聞こえた。

「久樹ちゃーーー君」

ついつい癖で長い間読んでいた愛称を口にしそうになり、慌てて言い直す。

「別に『ちゃん』でもいいぞ? 俺は気にしてないしさ」

と、私の正面に座る彼。

「ダメだよ。私たちはもう、高校生なんだか、ちゃんとしないと」

それが、愛称の変更。

高校生にもなって異性の幼馴染をちゃん付けで呼んでいたら、変に思われる。

私も、彼も。

私たちは単なる幼馴染だから、それ以上の関係に思われなうにしないといけない。

別に、私が通う高校と、彼が通う高校で私たちのことを知ってる人はいないけど。

あ、私のところには紬ちゃんがいた。

でも、紬ちゃんは全て知ってるから大丈夫。

「ごめんね。突然、呼び出ししちゃって」

「別にいいって」

「でもでも、何か予定があったんじゃないの?」

今日は土曜日。

友達と遊び行く予定があったり、はたまた恋人がいて遊び行く予定があるのではないかと、昨夜、送ってから考えた。

「元から何もない」

「ほんとに?」

「あのなー、お前に嘘をついて、俺に何の得があるってんだ?」

「久樹君のことだから、無理に断って来てくれたのかと……その、彼女さんとか……」

「こよみ?」

「な、なに?」

「それは、まだいない」

久樹君のその一言には念のような重みが感じた。


「んで、話って?」

注文して届いたブラックのコーヒーを飲む、久樹君。

ブラックが飲めることに内心、驚いた。

私なんて、カフェオレを頼んで、飲んでみたら苦かったので、ガムシロップとミルクを沢山入れたのに。

「んとねー、久樹君……」

そして、いざ、その話題になるとなかなか、喉から出てこなく、ストローを指でいじって誤魔化す。

でも、そんなのきっとバレバレなんだろうな。

なんたって、私と彼の付き合いはそれだけ長いんだから。

「こ……」

「こ?」

がんばれ、私。

こんなの、遙ちゃんに告白したあの時に比べればなんてことないんだから。

勇気を振り絞れば、できる。私。

「高校生活にはなれた?」

全然違う!!

内心で頭を抱えて悶絶する私。

「高校生活?」

ほら、怪しまれてる。むしろ、何かに気付かれているのに怪しまれてる。

「そ、そ。高校生活だよ」

話題をなんとか本題の方に戻そうとしたいけど、そのまま続けることを選んだ。

理由は、たぶん、あれ。

久々に久樹君とどーでもいいことを話したいからかな。

「ほら、私たちって高校生になってそろそろ半年経つじゃない?だから、慣れたのかなーって」

「んー、慣れねー」と、コーヒーカップをテーブルの上に置く、久樹君。

そして、「慣れたと、言えば慣れたことになるのかなー」と、怪しげな言い方。

「そ、そうなんだ」

「でもさ、なんでこの話題なんだ?」

聞かれたくないところを攻められた。

「え?あ?だってさ、久樹くんだけじゃない。あの高校に進学したのって」と、慌てて言い訳を考えて口にする。

「ほら、久樹君の性格だから一人だけで、全然友達がいなくって寂しくなっていないか心配したんだよ」

さらに、付け加える。

ばっちり、怪しまれるように地雷を踏んでます。しかも、踏んでる地雷が土の中埋まってるようなものじゃなくって、土の上に置いてあるやつ。

「余計なお世話だ」

「てへへ」

笑って誤魔化す、私。

「まー、俺だけなんだよな……」

「?」

「高校変えたのは、俺だけなんだよな。って、今更思ってさ」と、コーヒーを啜る久樹君。

私たち3人は、同じ高校に通うことを約束していた。

ずっと一緒にいようと約束した。

幼馴染として。

そして、遙ちゃんとは恋人として。入学して、 暮らしが一緒だったらクラスの中の一番のカップルになろうと。

でも、それは遙ちゃんが亡くなったことで、叶うことができない夢物語になった。

でもーーーー私は、その夢物語の舞台となっている高校に受験し、合格し、通学している。

けど、それは夢を叶えたかったわけじゃやない。

「ほんと、こよみちゃんには敵わないな」

違うよ。と、言いたい。使えたい。教えたい。

私があそこに行っている理由は、夢を叶えたかった。わけじゃない。

本当の理由は、私には他の高校のことを何一つとして知らなかったから。

唯一の場所が、あそこだけだった。

「まじで、こよみちゃんは強いよ」

違う。

私が強いわけないじゃない。弱いよ。

とっても弱いよ。最弱だよ。

だって、私一人じゃ何もできないんだから。

遙ちゃんと久樹君がいたから、目指すべき高校を決めることができた。

でも、もし一人だったらどこにするべきか決まらなかった。決めれなかった。

だから、私は決めてもらったあの場所に行ってるだけで、そこに私としての意思も意見も志望が全くない。

もし、試験内容に面接があって、入学志望動機を聞かれたら、何も答えることができなくって落とされていたに違いないよ。


私は、久しぶりに幼馴染とお茶をしながら、世間話みたいなことをしたくって、彼を呼んだわけじゃない。

ちゃんとした、理由がある。

それは、受けた告白のこと。

でもーーーーいざ、その話をしようとするとなんというのか、うまく言葉にできなかった。

言わなくっちゃいけないと思っている自分。

相談したい自分。

でも、それ以上に言うことに恥ずかしさみたいなものと、相談することに戸惑っている自分。

「それでーーーー」

コーヒーを飲み終えた久樹君が、それを皿の上に置いて、口にした。

「こよみちゃんが、ただこんな話をしたいがために、俺を呼んだわけじゃないだろ?」

なんの理由があるのかわからないけど、彼は空になったカップの中に、角砂糖を一つと掬って入れた。

「こよみちゃん」

そして、私のことを見る。

「悩んでることがあるんだろ? 俺じゃ、いいアドバイスはできないかもしれないけど、それなりには相談に乗ってあげるよ」

ばれてた。

そう思うと、「すごいね。久樹君は」

それは、自然と私の口から漏れた。

「俺?」

「うん」

コップの縁を指でなぞりながら、私は続ける。

「だって、久樹君は私のことを、なんでも知ってそうなんだもん」

「まー、こよみちゃんの癖とか性格は、それなりには知ってるかなー」

「うん」

「でもさ、俺はこよみちゃんの全ては知らない」

久樹君のその一言は意外な言葉だった。

「こよみちゃんが、何に苦しみ、何を考え、何に悩んでるのか、俺は知らない。 だけど、そん時のこよみちゃんの癖なら知ってるよ」

「そっか………」

それは、当たり前のこと。

他人が他人の思考を完全に分かってることなんてありえない。

もし、それができるなら、その人は超能力者だよ。

「うん。わかった」

この瞬間、私は決意した。

「あのねーーーー」

久樹君に、私が今、抱えてるこの悩みを話して、どうするべきかーーーー

「告白されたんだ」

教えて欲しい。


「ふーん。なるほどね」

久樹君の反応は、私がこうなるんだろうと予想していたのとはだいぶ違って、普通だった。

焦ってる感じもしないし、驚いているような気配もない。

本当に、普通で、あの頃と全く同じ。

「それで、こよみちゃんはーーーー」

一瞬だけど、久樹君は間を取り、

「ーーーーどうしたいの?」と、続ける。

どうしたい?

今の私にそれを聞かれても、何をどうしたいのか、何をどうするのかーーーーそれらについて、一切答えられない。

そもそも、そのことに対しての答えが見つからない。

どこにあるのかわからまい。

「わからないんの………」

本当に。わからない。

私はーーーーきっと、私はまだ彼が好きで、今後、彼以外の人を恋愛対象として見ることはないのだろう。

なら、なんで、私は悩んでるの?

なんで、久樹君に相談してるの?

なんで、紬ちゃんに違うよ。とか、そうだよ。って言えなかったの?

ーーーーわからない。

私は、私がわからない。

私は、私の中の思いや気持ちーーーー特に、誰かを好きになるってことがわからなくなっていた。

「私ねーーーー」

久樹君を見る。

「わからないの」

それは、本音。

「私ねーーーー」

久樹君が黙って、私の言葉ーーーー今の私の中にある答えを聞いてくれる。

「まだ、遙ちゃんが好き」

それに甘えるように、私から本音と本心が漏れていく。

もうーーーーとめられない。

「遙ちゃんが好き。ずっと、好き。もうね、会うことができないのは分かってる。どんなに頑張っても、どんなに思っても、あの人は死んじゃっていて、前にいた人だって分かってる。声をかけることも、握手することも、電話をすることも、どんなこともできない人なのに、私はずっと好き。他はわからない。本当にわからない。『好きだ』って言われた時、嬉しさみたいな暖かくってふんわりとした感じがしたけどねーーーーそれでも、私は遙ちゃんが好きなの」

言ってることは滅茶苦茶。

多分、それがーーーー今の私。なのかな。

「でもでもーーーーなんで、こんなに悩むの?」

その答えが欲しい。

その答えにたどり着けるアドバイスが欲しい。

だから、私は久樹君に相談したんだ。

「ーーーそっか」と、今まで黙って私の滅茶苦茶なの本音と本心を聞いていた彼が言う。

「こよみちゃん」と、私を呼ぶ。

「俺が知ってるこよみちゃん、そのまんまだ」

その一言は意外な一言であり、それ以上に意味不明な一言でもあった。

「久樹君が知ってる私?」

それは、小学生のころ?それとも、中学生のころ?

「こよみちゃんは、どんなことにでも真剣に悩んで、苦しんで……そして、葛藤してーーーー」

それは、私が知らない私のこと。

そして、それを知っているから彼の言葉だから、納得している自分がいた。

そうか。それが私なんだ。と。

「でもさーーーー」と、どこか寂しげに言う久樹君。

「こよみちゃんは時間をかけて、それらのことに自分が後悔しない答えを確りと出してきたんだよ」

そうかもしれない。と、私は思った。

「ほら、小学3年ぐらいだったかな? まだ、あいつに会う前も今と同じことがあったの覚えてるか?」

「そうなの?」

「あの時も、こうして相談されてさ……俺は、ただこよみちゃんがどう思ってるのか聞いただけで、それ以上のことはこよみちゃん自身が解決したんだよ」

あー。なんとなく、思い出した。

その時も今と同じで、久樹君に相談して、そしてーー

「だからさ、こよみちゃんなら出来るよ」

そう言い、久樹君が伝票を取り、立ち上がりーーーー

「あのさ、駄目なのかな!?」

私は、その彼を呼び止めた。

「駄目って?」

ほんの数歩離れたところで立ち止まった彼が振り向く。

「断ってさ、久樹君と付き合っちゃ、駄目なの?」

何気なくそう言ったけど、それは私から彼への告白そのもの。

私は、何も知らない人のことをこれから知っていくことよりも、何もかも知ってる人に頼りたかった。

もうーーー何かを知ることが怖い。そんな気がした。

「確かにさ、こよみちゃんは、新しい恋愛をするべきだと思うよ。 あいつもきっとそう思ってる」

「な、ならーーーー」

「その言葉はすげー嬉しいよ」

本当に嬉しそうな表情を向ける、久樹君。

でも、それは一瞬のことで、瞬きをしたら、そこにはいつもの表情をした彼がいた。

「こよみちゃんは、俺以外の人を恋して、愛して、好きなって欲しいよ」

私の思いを拒否られたことに悲しみや悔しさなんて感じなかった。

なにも感じなかった。

「俺とこよみちゃんの距離は近すぎてさ、こよみちゃんのことを恋愛対象に思うなんて、出来ない。それに、俺は、こよみちゃんの中にあるあいつがいなくなった事でできた余白を埋める事なんで、絶対に出来ない」

あー。そうか。

私もそうなんだ。

私もーーーー久樹君の事は、幼馴染で友達と思っていて。違うかな。それ以上。

そう、私は一人っ子だけど、久樹君の事をお兄ちゃんのように慕っていたんだ。

ほんと、私ってバカ。

「だから、こよみちゃんは俺なんかよりも、もっと違う人を選べよ」と、久樹君はレジへと向かう。

ありがとう。

私は、その背に向かって、そう思った。

やっぱ、久樹君はお兄ちゃんだ。

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