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導師アーサーの憂鬱  作者: Namako
2-06:カサドル
63/134

譜面。

「大変だシャムロック」

「なんだ」

「ロデグランス王の精神がやばい」

「なぜだ」

「グィネヴィア姫があの鳥に拉致されたらしい」

「それは最も最初に言うべきではないかアーサー」


 なんとか城にたどり着き一息つきたいところでもあるが、ロデグランス王との面会もなんとか出来たようで安心したいところだが、どうやらそうもいかないらしい。

 城に避難した人々から少し離れ、倉庫代わりになっている休憩室で二人はため息をつく。

 何せ二人ともボロ雑巾もいいところだ、怪鳥の襲撃だけに終わらずどこからか沸いてきた腐敗者の軍勢が飛びかかってきたのだからもうマラソンというよりもシャトルランだ。無理無理に突破してきたものだから身体の損傷が相当激しい、捕喰者としては出来るだけ庇える攻撃は庇ったつもりだったが、逃げ切ったところでアーサーには散々叱られてしまった。

 護衛じゃないんだから、といわれたところでもうしてしまったのだし、それ以上に自分の立場というモノを考えてほしいものだ。

 さて状況整理を始めようと思った矢先、唐突に休憩室の扉が開かれた。

 なんだと視線だけを扉にやると、そこには白銀の鎧を身に纏った騎士が立っている。


「アーサー王! ご無事でしたか」

「ランスロットか、そっちも五体満足で何よりだ」


 どうやら先遣隊の一人らしい。ランスロットと呼ばれた騎士は主の無事にほっとしたらしくガチガチに固まった表情を緩めたが、どうやら捕喰者の存在に気がついたらしい、軽く会釈をした。だったら仕方ないが此方もそう返すとランスロットは此方への警戒を少し解いたようだったが、まぁ、確かに警戒するかこんなおんぼろの黒ずくめがいたら。

 互いに初対面だったかとアーサーが軽く騎士の紹介をしてくれる。

 マーリンが勝手にかき集めたというよりかは自然に集まったブリテン国の円卓の騎士所属、ランスロット。先遣隊の隊長を勤めているそうだ。

 随分と色の薄い肌や髪は黒々と煤けた鋸鉈の捕喰者とは真逆の存在を思わせる。だが見た目の感想としては、騎士の皮を被った何かのように感じるのは何の間違いだろうか。ただ勘が鋭いだけか、それとも妙な情報でも握っているのか。随分警戒心の強い男だと捕喰者は思った。


「役者は揃ったか」


 状況把握をしよう。と一番最初に言い出したのは捕喰者ではなくアーサーだった。捕喰者とランスロットも同じように考えていたのか、互いに応の意を示す。

 とにかく沢山の事象が置き過ぎていて何をすべきかがすぐに見えない、ならば全部纏めて整理してしまおうということなのだろう。一度立ち止まることは確かに大切だ。

 情報の束を熱を取り払いつつ引っかきだし、順序を立てて再構築を開始する。


「まず、大前提としてキャメラルド王国は現在進行形で腐敗者の侵攻を受けている」


 何故進行を受けているかなどの理由は一切不明。そもそも腐敗者の行動理念は増殖にある以上、それ以上の意味は持たないはずである。相手の戦力を考えれば、普段からよく出現する人型異形の腐敗者はいいとしても、新種……鳥型の腐敗者が想像を超えて厄介な存在となっている。

 骨と肉と心で構成されるのが腐敗者であるならば、あの怪鳥は骨と肉の両方を特化した新型といえるだろう。今まで二種特化型はいくつか見てきたが、翼を生やして実際に飛び上がるものは捕喰者としてもはじめて見た。


「あの怪鳥は人々をどこかに拉致しているそうです」

「その中にキャメラルドのグィネヴィア姫も含まれる、と」


 怪鳥が人々を拉致し、どこかへ保管しているという現象が捕喰者としては中々に妙に思えて仕方がない。

 先ほど記述したとおり、腐敗者は基本増殖を目的とする。しかしあの怪鳥は何故か増殖行動を取っているようではないらしい。そこが引っ掛かる、引っ掛かって仕方がない。

 腐敗者に本能はあっても知能はない。本能的な学習があったとしても、人のように何か策を行うということはそもそも不可能なのだ。あれらには考える脳など、最初からありはしないのだから。

 しかしそれを覆したいのだろうか、さらに怪鳥の奇行は重なる。

 キャメラルドの騎士が空へ上がるための滑走路が破壊されているのだ、他でもないあの怪鳥によって。よりにもよって最大戦力が飛ぶための翼を飛ぶ前にもぐ、事故にしては異様であり出来すぎている。本当にあの怪鳥は腐敗者なのだろうか、臭いも若干違ったのが気になるところだがこれに関しては未だ情報が足りない。

 しかもダメ押しするように追い討ちも用意されている。

 本来として滑走路は予備的な存在だが、本当は使うはずの空道と呼ばれる装置が起動できない状況下にあるということだ。


「退魔の鐘がやられているとはな」

「そうだな、一番不味いのは退魔の鐘……大本の基盤譜面サーバープログラムが占領されていることだろう」


 こういった先行技術が存在する国には、先ほど捕喰者が単語を出した退魔の鐘というものが必ず存在する。文字通りその音色で魔を退けるものでもあるが、鐘にはもう一つの名称──アーサーの言う基盤譜面サーバープログラムというものがある。今回はどちらかといえば、基盤譜面サーバープログラムが奪われてるという比重のほうが遥かに大きいだろう。

 基盤譜面サーバープログラムは、いうなれば歴史の塊だ。先代紀の技術を後世に繋げるための物体を持つ情報固形物だとされている、それを読み解けるのはその基盤譜面サーバープログラムの解除コードを知る王のみ。

 さらにこの国には基盤譜面サーバープログラムのほかに、個々に点在する譜面プログラムも存在している。枝分けすることで効果範囲を広めているのだろう。

 そしてキャメラルドの場合、この国特有の空を舞う鉄塊の技術は殆どが譜面プログラムの恩恵に頼っている。

 空を舞う技術が発動できるのも、譜面プログラムの効力範囲内のみだと聞く。つまるところ譜面プログラムがなければこの国の空は人の支配権を失ってしまうのだ。

 

「奪還は必須でしょう」

「だが……」


 捕喰者は言葉を濁す。恐らく大本の基盤譜面サーバープログラムはこの王城の最上部に存在するのだろうが、王城最上部にはあのクリフォトが絡まっているのだ。条件を満たしていないキャメラルド国民やランスロットたちには見えていないだろうが、アーサーと捕喰者は既にアレを見てしまっている。

 ロデグランス王がこのことをどこまで把握しているのかどうかは不明だが、クリフォトにも質量は存在する、近づけは叩き落とされるか叩き潰されるか。どうにしろ相当危険な状態であることには違いない。

 しかもクリフォトが基盤譜面サーバープログラムを丸呑みしてしまってる可能性もある。危険度と優先度を天秤に賭けるとなれば中々難しい選択だろう。

 アーサーはその選択に悩んでいるようだったが、一瞬ちらりと窓を見たところで顔色を悪くする。一度目を伏せると、そのまま彼は選択を決定したようだ。


「……ランスロットはここに残れ、基盤譜面サーバープログラムは俺がどうにかする」


 ランスロットはまず驚きの声をあげ、「しかし」とアーサーを止めようと試みたようだったが比較的アッサリ彼は引き下がった。騎士にしては相当危機的状況だと思うのだが、適材適所というものだろうか。それともアーサーの性格を知っての上での判断なのだろうか、あくまでも部外者な捕喰者にはよく分からなかった。

 だがアーサーが基盤譜面サーバープログラムの奪還に出撃することに関しては、捕喰者としては賛成だった。

 基盤譜面サーバープログラムは言い換えるならば大規模な空間魔法、自動的に処理される大音量の調律である。ならば対抗するためにも調律の出来る人材は必須だ。生憎捕喰者には調律を行うことが出来ない、だからこそこの場合は仕方がないの一言で済ませるしかない。あくまでも、調律可能な人物がアーサーしかいない場合であるが。

 しかし、同時に捕喰者は疑問を持つ。

 

 ──何故、アーサーはそこまでして前線に出ようとする?


 調律は確かに人を選ぶ技術ではあるが、先遣隊の人数と質を考えれば一人や二人調律ができてもおかしくはない。しかし仮にそうだったとしても、アーサーはこじつけて奪還に参加するように思えたのだ。まるで水面下で何かを進めているような、露骨過ぎる強行的な行動と発言。事実捕喰者の知ったところではないのだが、気になるところは確かに気になってしまうのが人というものだ。

 一人で悶々と捕喰者が疑問符を浮かべては打ち消していると、ランスロットが去り際にアーサーへ問いを投げていた。


「アーサー王、貴方は何を企んでいるのですか」


 それもまた剛速球のドストレートに。

 傍らで聞く羽目になった捕喰者は思わず口に含んだ水を噴出すところだったが、そこを寸でのところで耐える。表情を変えない水面下の耐久レースなど気がつきもせず、アーサーは違和感のあるいつもどおりといった風な笑みを見せていた。


「……対価の値踏みをしているだけさ」


 嫌に淡々とした声は、それもまた露骨だった。

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