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導師アーサーの憂鬱  作者: Namako
00:雪花自裁。
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精霊。

 石に突き刺さった杖は実は十数年前からあの場所にあったそうだ。

 そして誰にも触れられず、その月日をただ黙々と過ごしてきた。雨が降っても、血が降っても、ただ静かにあの場所で。それだけのものを浴びていれば必然的に汚れ錆びていくものなのだが、この杖は違っていた。何年かかろうが決してその美しさを欠かないそれは、所謂魔法の道具であり、魔法は全てを可能にするのだ。


「……カリバーン。あんたはもう少し言葉を選ぶ事を学べ」


 魔法にかかれば杖が意思を持ち、姿を変えることなど造作もないことなのだ。

 

「呆れてるアーサー様も素敵だね」


 カリバーンと呼ばれた少女は、アーサーがため息をついたのを眺めるとすこし口角を上げて微笑んだ。

 彼女、カリバーンはその名の通り杖の精霊だ。今は少女の姿になっているが、先ほどまではアーサーが身に着けていたイヤーカフの姿だったのだ。あの大きな身の丈ほどある杖を常に持ち歩くのは難しい、だから効率のいい姿になってもらっていた。それだけだ。アーサーにとっては、イヤーカフのままのほうが好みなのだが。


「ってテメェ!! さっきの何だよ! 犬っころって」


 エディンはガタガタと机の上に乗ってカリバーンを捕まえようとする。だがカリバーンはそこですっと姿を消し、今度は上のシャンデリアに乗っかりにやにや笑っていた。


「おまえのことに決まってるじゃん犬っころ」

「んだとぉ~! 月までぶっ飛ばしてやろうか!」

 

 一方アーサーは、図書室の管理人に怒られやしないかとヒヤヒヤしながらあたりを警戒している。

 女同士の戦いは恐ろしい。そういう類の知識はあのマーリンから嫌と言うほど聞かされていたアーサーには、一種のアレルギーが発生しつつある。目の前で繰り広げられる過激な戦争がいつ終わるのか、胃がキリキリしながら待っていると。


「アーサーさまぁ、犬っころがアタシを苛める~」

「んなぁ!? 卑怯にもほどがあんぞ!!」


 とうとうカリバーンが巻き込みにやってきた。

 カリバーンはいつの間にかアーサーの後ろに隠れており、うるうると滲ませた瞳でアーサーに頬ずりをしている。この頬ずりにはもう慣れたのか特に反応せず、まぁまぁとアーサーはエディンを宥めようとする。のだが。

 

「てゆーか、アイザーンって堅物すぎて面白くないんだよね」


 カリバーンは容赦なくそれを無に返してしまうのだ。

 アイザーン。というのはエディンの姉のことらしい。だがアーサーには今存在を知ったものに対して知識を持たないがため、結局眺めているしかできないのだ。エディンはまたぎゃんぎゃんとカリバーンに食って掛かるが、また先ほどと同じように回避されてしまう。だがカリバーンは似たような事をして飽きたのか、やれやれとため息をつきながらこういった。


「つかアーサー様が殺されちゃったらアタシ消えちゃうし」

「はぁ!?」


 それは初耳だ。


「大体新王が殺されたら継承どころの騒ぎじゃないって」

「た、たしかに冷静に考えればそうだよな……くっそー! オレのバカーっ!! 殺してどうにかなる話じゃねぇってオレどうしたらいいんだよー!」


 それに本気で殺されようかなと思っていた俺はどうなるんだ。


「……話は終わったか」

 

 密かにあたりを整頓しながらアーサーはそろそろだろうと口を開く。随分と長く喋っていた気はするが、実はそんなには喋っていないのだ。これで終わるなら終わるでいい。頭を抱えているエディンはうなりながら話を聞いている様子だったが、突然ばっと顔を上げると何か悟ったような表情をした。


「そうだ。オマエを盗めばいいのか」

「待て、どうしてそうなる」


 この国の人たちの思考は一から十へ跳躍する癖でもあるのだろうか。


「オマエがオレの姉ちゃんにカリバーンを譲渡してくれりゃあいいんだもんな、いっそ結婚にもっていけばいいじゃねえか」

「おい」

「よし決めた!! オマエの心はオレが盗んで持っていく!!」

「ダメだよ。アタシのアーサー様はあげないよ」


 もうお前らやめろよ収集つかない。

 結局そのあと似たようなループを二、三回繰り返すとエディンは「覚えてろよー!」と言い捨て城から去っていった。カリバーンは勝ち誇ったような顔をしていたが、やっぱりすこしはイラついていたらしい。二度と来るなと呟いていた。

 さて、アーサーが後処理を手際よく済ませていると、カリバーンは宙にふわふわ浮かびながらアーサーに聞いた。


「アーサー様、あいつどうするんだい? あの様子だとどうせまた来るよ?」

「……侵入者にならないように手配しておくとするか」

「そういうのじゃなくてさぁ……んもう」


 数日後、エディンは侵入したつもりがなぜか歓迎されるという状況に置かれ呆然とする。と言うことが起こるのだが、そんなことは今のアーサーが知る由もなかった。

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