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導師アーサーの憂鬱  作者: Namako
04:虚偽乖離。
45/134

FA。

「──アンダーゼロ地域の崩落を確認、全員生存」


 光の粒子に包まれる森林地帯を眺めながら、ミグは淡々と報告をこなす。

 着飾る必要を失ったことでいつもの無感情に戻ったミグは思考する。やはり感情に訴えかける方法はリスクが高すぎた。自分の首を絞めるような思いを踏み躙ってまで決行したイオフィエルとの件を利用した策は、完全に失敗だった。長い悪夢が最悪の形で終わりを告げたが、まぁ、対して思うこともない。

 物の見事にアッサリと撃破されたドラゴンが崩れ落ちたことにより、主格を失った舞台は崩落待った無しを覚悟したのか、まるで異物を吐き捨てるように台本破りの演者たちを森林地帯を超えた覇者の湖へと放り投げたようだ。


「テコ入れは失敗。悪化を確認」

 

 受話器をとる主がどんな顔をしているのか、ミグには安易に想像がついた。

 しかし現状それはミグ自身にとっては関係がない。恐らくこの主ともこれきりで縁が切れるだろう、面白くもない仕事だった。こんなものならばまだ、好き勝手に飛びまわっていたほうが面白い。次の定期船が出るのはいつだったか。とはいえ、酷い仕事だった。

 

「まさかロト王が乱入するとは」


 アーサーの心の強さ(というよりも開き直った敗走力の強さ)も凄まじいまでの想定外だったが、あのロトという王の乱入が最悪の想定外だった。想定外に重なるハプニング、かといって面白がる余裕もなくこれだけはと地雷を踏み抜いたつもりが、真逆に強さを与えるためになってしまった。あのヤケクソの開き直りが自信に変貌するのは完全に時間の問題だろう。実に踏んだり蹴ったり、実に気分が重苦しい。


『────、』

「バン王? アレはしぶとく生きているようです」


 邪魔だと判断し、別に領域に落としたはずのフラット=バン・ベンウィックは、一度は確かに落ちかけたが、そこから這い上がってきてしまったそうだ。唯一生身の人間であり、この大陸にて名を馳せる冒険者のチームに属していた奇妙な経歴を持つ新米王は、やはり一筋縄ではいかないらしい。仲間の報告内容に「バイクが空間を突き破って乱入してきた」という項目もあるにはあるのだが、それは伝えないことにした。バイクが空間を割る? まさかそんな小説でもそうそうない展開だ。きっと仲間は疲れているのだろう、疲れているに違いない。

 通信の向こう側で主は一つ息を流したところで、ただ明確に負け惜しみ染みた台詞をはく。


『──まあいい、私にはまだ駒がある』


 おまえは三流魔王か。

 ミグはやれやれとため息をつき、契約破棄の文言を伝え回線を切る間際に最後だといわんばかりに吐き捨てる。


「余裕かまして足元を掬われても知りませんよ。マーリンさん」


 回線を破壊する勢いで切ったことで、依頼主がなにを言い返したのかは聞き取ることがなかった。これで仕事も終わりだ、しばらくは悪夢にうなされることも発作に苦しまされることもないだろう。清清しいほどの開放感だがどうにもスッキリしない。というよりも不安しかない。ミグは遠目にアーサーたちの様子を伺うが、あの面子、大丈夫なのだろうか。

 鬼神とも呼ばれたチームに属していたバン王、歩く制圧権ロト王。何をしでかすかさっぱり分からないアーサー。それを取り巻く精霊たちも随分と癖の強いものばかりだ。なんていうかもういっそ全部なかったことにして同行したい。見てられないぐらい不安なパーティ編成に精神が削られる感覚すら覚える。

 まぁ、アーサーなら大丈夫だとは思うが。

 彼は正真正銘の狂人だ。踊らされているということを知りながら、潜伏を続け反攻の時間を待っている。しかもご丁寧に思考がばれないように擬似人格まで作り上げるとは。無自覚か無意識なのかはしらないが、まったくもって恐ろしい。アレ本当に十七歳か? 年齢、詐欺してないか? どこぞの大陸で大灯台を踏破した十七歳のガチート冒険者に似たようなにおいを感じるぞ。

 あぁそれでも、案外うまくやってくれそうな気もしていて。


「楽しみだよ、アーサー王」


 貴公が王になるかどうかは、未だ分からないが。ミグは、静かにその場から姿を消す。そこに残るのはただ静かな静寂と風のみだった。



/



「つまりどういうことっすか」

「俺が聞きたい」

「つまりあれだろ? ダンジョンクリアしたからダンジョン消えたんだろ?」

「「ゲーム脳か」」


 アーサーとフラットとロトは互いにわけわからんと状況把握をするために、ひとまず輪になって座り込んでいた。カリバーンとコールブランドは離れて喋っているようで、男子は寄るなとのこと。恐らく盗み聞きでもしたら殺されるに違いない、女性とはそういうものだ。

 此処までの経緯はこうだ。ドラゴンとの勝負にケリがついた瞬間、まるで空間が割れるように消滅し、三人と一匹と一振りは気がつけば空の中にいた。どうしたことだと混乱しっぱなしの一行は、着地点に存在した川に着水することで事なきを得た。

 ずぶぬれになりながら川辺に這い上がった一行だが、一行が元々持つ因縁などを蒸し返して衝突することはなく、あくまでも効率を優先し現状況に到る。

 衣類などが乾くまでの間情報共有をと思い粗方の話をしたのだが、これが悪かった。


「やっぱり死体が動いてたんっすか」

「知ってたんか」

「だって回収したとき死んでたっす」

「何それ怖い」


 話していくたびボロボロと共有されることがなかった情報が増えていく。知らなかった事実が案外とんでもない爆弾ばかりで、とにかくツッコミが追いつかない。アーサー自身もこれまで話してはいなかった現状に到るまでの暫定的情報、今までの内部考察や盗み聞きしたり拾い集めたりした情報を基盤にした考察、その他もろもろを伝えてはいるのだが。(これにはフラットは相当驚いていた)それ以上にフラットやロトからふるい落とされていく埃以上の価値を持つ埃がだいぶおかしい。

 どうやらフラットは既にアーサーの身体が死体だったという件は知っていたらしく、今までは別に言わなくても大丈夫そうだということで黙っていたらしい。先ほど言われたように、ベンウィックに運ばれる前に既に一度事切れていたようだ。いや、もしかしたら今までも何回も死んでいるのかもしれない。無茶を通せると考えていたが既に無茶を通していたらしい。


「なんでテメェも死んでたのか」


 ロトはきょとんとした顔で言う。

 言い忘れていたが、彼、確かに先月までは盲目のままだったそうだが今は見えているそうだ。詳しいことは知らないが、コールブランドがしゃべりだしたのと何か関係があるらしい。おかげさまで剣の切れ味が鈍ったと嘆いているが、正直それでいいような気がする。おまえの切れ味はおかしい。が、待て。先ほどなんというた。


「あぁ、そうらし……え?」

「俺サマも死んでるんだぜ、ほら」


 首に縫い傷あるだろ。とロトが外套を引っ張ってみせた。露出した首筋には頭と胴体を接続するようにヒビ入る傷跡、それは確かに縫い傷で。彼曰く色々無茶やってたら死んでいて、生き返ってしまったらしい。いや、生き返ったというよりかは生き返らされた、というべきなのだろうか。生き返ったあとからロトはロト王として扱われるようになり、それを先導したのはマーリンだと言う。やっぱりあのジジイ殴っておくべきだった。

 いいやその件よりも。


「このメンツ死人と精霊しかいないのか!?」

 

 オレ人間!! オレ人間だからセーフっすよ!! と叫ぶフラットだが、死体に死体に精霊に精霊、そして人間。なんだろうこの世紀末パーティは。


「案ずるな、主人公と勇者以外全員魔王だったパーティを俺サマは知っている」

「どこが案ずるなっすかどこまでのツッコミを要求してるんすか」

「世の中には人間がいないパーティがあるって俺も聞いたことあるぞ」

「やめてアーサーまでぼけないでツッコミ追いつかない」

「つかテメェら俺様に突っかかったりしねぇのな」


 アーサーはともかくとしてフラットには殴りかかってもいいぐらいの理由はあるはずだが。

 国の住人を何人もの屠られた、屠った、互いにその意識はあるのだろうがアーサーから見ると互いに様子を見ているように思えた。距離感を取っているといえばいいのだろうか、少なくともフラットには怒りの感情も多少なりと燻っているように見える。だが、それも押さえ込んでいる。ロトはいうまでもないが。だがフラットとしての言い分は至極単純なものだった。


「歩く自然災害に喧嘩売る人間がいると思うっすか?」


 たしかに冷静に考えればそうだ。正論だな。ここで殴り合っても仕方がないのもそうだが、ロト王は戦闘面に関してはずば抜けている。切れ味が落ちているとはいえ、根本的な才能の差というものもあるだろう。だったら協力するほうが生きのこりやすい。簡単な話だ。

 オレ様は喧嘩売るけどなぁなんてぼやくロトに、アーサーはむしろあの街吹き飛ばしてくれてありがとう。なんて言えるはずもなく。まるで久々にあった同級生がするような暴露大会に、アーサーはとりあえずため息をついた。

 いつもどおりに脳裏に残る疑問は多い。なぜドラゴンを倒した瞬間、あの空間が消えたのか。ミグやイオフィエルはどうなったのか。疑問が消化されずにただ暗闇の底に消える。 

 フラットが今まで何をしていたのか、ロトがなぜ乱入してきたのかぐらいは、まあ把握はできるかもしれないが。というか、向かうはずだった村じゃなくて何故もう覇者の湖の近くまで来てるのかとか。色々言いたいことが多すぎて言葉にできない。


「精神的に消耗したけど近道できたんならもういいんじゃねーっすかね」

「そういう問題かこれ」

「気にしてたら持たないっすよ」

 

 そうだな。もうつっこんだら負けなのかもしれないな。


「大体ロト王はなんで此処にいるんだ」 


 聞き忘れた質問をもう一度投げ噛ますと、ロトはあっさりと答えてくれた。

 曰く、覇者の湖へ行けば聖剣の力が復活すると聞き飛んできたらしい。意外にそういう話も信じるのなと言ったら、「勇者みたいでかっこいいじゃねえか」と真顔で返された。あぁこいつは極度のゲーム好きなんだろうな、そう思うことにする。


「で、ロト王はこれからどうするんだ」

「一緒に行くが?」

「はっはっは御冗談キツイっすよ」

「目的地同じなら別にいいだろ」

「マジっすか」

「まじだぜ」


 フラットが真白な灰になって燃え尽きる幻影を見た。どうしたことだろうと心配したが、確かに燃え尽きるのも仕方がない。果たして帰る頃にはフラットの喉は生きているのだろうか。


「よっし、そんじゃ出発しようぜ!」


 元気よくロトが立ち上がったところで、蛙がつぶれたような音が響いた。音源はこの場にいる三人の腹部。そういえばまだ食事を取っていなかった、あたりまえのことをアーサーはいまさら思い出す。硬直するロトとフラットの間を取り持つように、アーサーはため息混じりに次の予定を指定する。


「……先にご飯にしようか」


 話にケリがついたところで精霊二匹と合流した。結果三人と二匹になった奇妙な旅は、しばし難航しそうであった。

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