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導師アーサーの憂鬱  作者: Namako
00:雪花自裁。
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血筋。

「オレの名前はエディンだ。で、……マジでいってんのか?」

「あぁ、大マジだ。聞かせてくれ。といいたいところなんだが……場所をかえようか」

「へ? うわっ」


 騒動を聞きつけた使用人や兵士たちがわらわらとやってきているのが見えたのだろう。困ったな。アーサーはすこし考える。さてどこに移動しようか。私室? だめだな書類に埋まってる、どこか身を隠せて、話が出来る場所。この広い城の中で、どこにあったか。


「……よし、ついてきてくれ」

「行き先が牢屋だったら問答無用で刺すからな」

「その心配は無用だ」


 目指す場所は決まった。

 エディンの腕を引っ張り、長い廊下を一気に駆け抜ける。

 途中すれ違った召使に「友達とお茶してきます、会議の時刻には戻ります」と伝えておき、これで準備万端だ。

 

「……オマエ、やっぱ変だよ」



 アーサーとエディンがたどり着いた場所は大きな図書室だった。

 マーリンやその弟子たちが研究資料を求め出入りすることもある、城の者にしか出入りできない特別な知識の倉庫だ。だが此処を必要とする人は根本的に少なく、ここにくるまでも通路が入り組んでいることもあって今の二人にとっては格好の隠れ場所となっていた。


「うわ……すっげえな。こんなに溜め込んでいやがったのか」

「これが宝に見えるのか?」

「少なくともオレの姉ちゃんならそういうな」


 比較的影になる場所を見つけ、適当なところから椅子をぱくって座る。

 若干埃っぽいのが気になるかもしれないが、これだけ広大な部屋なのだから掃除が行き届かないのも仕方がない。ほんの少し喋るだけだし、これぐらいは我慢してもらう。


「で、詳しい話だったな。……そうだなぁ、簡単に言っちまえば。オレの姉ちゃんは先代の王の血を引いてんだよ」

「先代、となるとペンドラゴン=アルトリウス王の」

「勿論、直系の血筋さ」


 ま、諸事情もろもろあって隠れてたんだけどよ。エディンはそう付け足すと頬杖を突いてアーサーをギロリと睨んだ。

 直系の血筋。怒るのも殺意を抱くのも分からなくはない。というかそりゃ怒るわな。本来なら来るべき時に王として選ばれ、あの玉座につくはずだったのだろう。その、エディンの姉という人物は。それをどこの誰かも分からない、ただあのマーリンが示した予言によって選ばれたぽっと出の人物に、文字通り横取りされてしまっては。

 アーサーとしては、叶うことならば今からでもその人に玉座を返したいぐらいなのだが。


「侵入したのも、俺を襲ったのもだいたい察しがついた。これはもう完全にこっちが悪いな」


 主にマーリンの糞野郎の所為だ。

 すまなかった。そんな形式的な謝罪は空中を漂うだけで。

 どんよりとした沈黙がどっしりと横たわる。


「……じゃあ、」


 沈黙を食い破るようにエディンは真っ直ぐにアーサーを見た。

 海のように澄んだ瞳が、アーサーの心を掴んで離さない。


「じゃあ、死んでくれるか?」


 静寂よりも、飢えよりも、それ以上に精神を蝕むその言葉を。アーサーは確かに聞く。

 マーリンの戯言よりも、今目の前で聞かされたそれのほうがまだ現実味があるというもの。怒りの理由なんて説明する理由もないし、その正当性をアーサーは肯定する。何もなければあの場で死んでもよかったはずだ。


「……俺は」


 だが、あの杖を引き抜いたあの日。街の人々の顔が初めてくっきり見えたあの日。溝底の世界が、一気に色彩を芽生えさせたあの日。あの人々の笑顔が脳裏にこびりついて離れない。まるで悪夢のような奇跡の日は、アーサーの命を玉座へがっしり繋ぎとめていた。重く閉ざしていた唇を抉じ開けるように、声を紡ぎだす。その時に。


「──ダメだよ」

 

 凛とした声が、アーサーの声を遮った。


「ダメに決まってるじゃん。アタシのアーサー様だよ、おまえなんかにあげるわけないじゃん」


 アーサーとエディンの間にふわりと降り立つ人影が、そんな可愛げを全面に押し切った声で言い放つ。

 緩やかな身体の線を隠すことなくみせる道化師の服に薄く透けるショールを飾り、銀の髪を覆い隠す赤い頭巾の中にのぞくその整った顔は、素肌の色すら隠す道化の化粧に隠され、大きく描かれた笑みは彼女の本心を見せない。

 そんな艶やかな空気に身を包んだ月色の髪を靡かせる死神は、しゃん、と鈴の音を響かせながらエディンを見、そしてアーサーを見つめる彼女は。



「アタシを選んだアタシのアーサー様を、おまえみたいな犬っこにくれてやるもんか」



 杖の精霊カリバーンは妖艶に、それでも子供らしく微笑んでいた。


ギャグだって言ってるだろ、いいかげんにしろ。

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