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導師アーサーの憂鬱  作者: Namako
00:雪花自裁。
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少女。

 さて、ここから少年王アーサーの英雄譚が始まる。というわけではない。

 原書によれば賢者マーリンは、ここからアーサー王へ多くの知識と助言を叩き込むために常にそばにいるようになるらしいのだが、そんなこともない。円卓の騎士たちがやってくるのは、まだまだ先のお話である。で、結局何が言いたいんだといわれれば、一言に略すなれば「現実そう簡単にいかねえよな」に纏められる、そういう話である。

 そしてあれから数日。


「あの野郎ぎりぎりのスケジュール組みやがって……」


 昼過ぎ、アーサーは苛立ちながら資料片手に、カツカツと馬鹿みたいに長い廊下を歩いていく。朝から稽古に書類仕事、挙句にはあの野郎……マーリンが書かなければいけない書類の代筆まで。それに足してマーリンが何かしらやらかすと、なぜかアーサーがその後始末をやることになる。

 お前が王だ。なんてよくいったものだ、結局押し付けただけじゃないか。


「中々忙しいようだな。アーサー」


 あんたがいうなお前が。


「今度は何の後始末だ。代筆か? 実験体の処理か? どちらにしろ俺は忙しい、即刻帰れ」

「手酷いな」

「そうしたのはあんただろうが」


 どこからともなく現れたマーリンはやれやれとため息をつく。

 しかし、また、服装が変わっている。はじめて会ったときはスーツだったが、その次は燕尾服(というものらしいが詳しくは分からない)、その次は次世代の軍服(らしいが詳しくは以下略)、その次は……といった風に出てくるたびに服装が違っている。今回は羊皮紙のような色をした布を複雑に組み合わせた、ゆったりしたものだった。


「……今度はキモノか」

「よく分かったな」

「あんたが置いていったツルツル紙にかいてあった」

「勉強しているようで結構。これは小さな島国の伝統的な衣装着物だ。男物もいいが、これは女物がとても華やかでなぁ」


 その話はあとで聞く。

 アーサーは面倒くさいといわんばかりに視線をマーリンから外し、左耳のイヤーカフをちろちろ弄りだす。あの杖と同じ銀色の、恐らく似合わないであろう装飾品。だがアーサーは「こっちのほう」が気に入っていた。流石にあの杖は持ち歩きに困る。


「で、何だ」

「聞いてくれるのかい」

「いいから早くしろ」

「侵入者があったのでな、一応耳に入れようかと」

「じゃれてる暇なんてない話題ならさっさと優先事項を話せと説教したはずなんだが」

「えへ」

「えへじゃねえよ気持ち悪い」


 侵入者。

 なるほど、城の皆が慌しいわけだ。


「それで侵入者って一体」

「盗賊の娘らしいぞ」

「……あんたまた何か」

「いや今回は違うぞ」

「そういってた前回はそんなことはなかったよな」

「あぁそういえば」

「話をそらすな」

「盗賊、じきにここへ来るようだ。それでは私は帰る」


 そう聞き終わったところだったか、それは背後でまたいいタイミングで破裂音が派手に響くのだ。アーサーはとっさに振り向くと、その目に入ったのは鋭い剣先の光だった。


「やぁっとみつけたぜ……ニセモノアーサー!!」


 首筋に伝う刃の冷たさにアーサーは、意外と冷静にその状況を把握しつつあった。目の前の刃を向けている少女は、そして真夏のひまわりを思わせる髪を揺らしながら、今にもアーサーの首を食いちぎりかねないほどの衝動をその海色の瞳の中に一歩踏み留めていた。


「……って何だよ、オマエ、殺されかけてんだぞ。なんか言えよ」


 しかしぼーっとしすぎたらしい、その少女は怪訝そうな顔をし一歩そこから引いている。先ほどにあった鷹の様な殺意はふっと覚めてしまったようで、あきれる少女はごく普通の女の子だった。


「えー、あぁ、そうだな」

「そうだなで済む話か!?」

「殺されなかったからいいかなと」


 本当に殺す気ならすんどめなどせずに掻っ切っている。


「変なヤツだな、オマエ」

「俺から見ればあんたも充分変だけどな」

「……やっぱり殺す!!」

「待て待て待て!?」


 ぎゃあぎゃあばたばたと取っ組み合いになり、アーサーは今度こそ軽くだが恐怖を覚える。マーリンはどこいったのかと思えば、さきほど私は帰るといったそのとおりに姿はなかった。あの野郎逃げやがった。アーサーは心の中で確実にマーリンへの殺意を高めていた。


「聞き忘れていたけどニセモノって何だよ!?」

「文字通りの意味だ! 本当は姉ちゃんがそこにいるはずだったんだ! なのにオマエが横取りしやがった!」

「その話詳しく」

「へぁ!?」


 押し倒されていた状態から切り替えし、少女を捕まえて座らせる。

 ニセモノ。そこにいるはずだった。横取り。大体の察しはつくがまずは話を聞く、これが一番だ。


「ひとまず、名前を聞かせてくれる?」

「え、あ、はい」


 少女は呆気をとられたようで、その手からナイフをすべり落としていた。

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