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導師アーサーの憂鬱  作者: Namako
02:雨花葬送。
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異説。

「話は分かった、状況も大体理解した。だがマーリン、とりあえずなんだ、一発殴らせろ」


 ふざけんじゃねぇぞジジイ。ガタガタと席を立つアーサーにはやっぱり殺意しかなかった。

 マーリンはあっはっはと相変わらず胡散臭い笑みで冷や汗を流しながら、目線でラビットに助けを求めてはいるようだった。だがラビットはそれに気が付いているのかいないのか、視線の意味に疑問府を浮かべながらとりあえず笑っている。

 アーサーとしては、現在のこのときに状況を把握できたのはありがたかった。ありがたいが、内容としては至極不味いものでもある。むしろどうして誰も教えてくれなかった。自分が知ろうとしなかったのも原因の一つだろうが、冒険者リーヴ、あんたら絶対知ってただろう。どちらにしろ自分に非はあるか。アーサーはため息をついて脱力したように席へ座りなおすと、「まぁいい、殴るのはあとにしよう。とにかく情報を整理させてくれ」と疲れた声でこれ以上の展開にストップを掛ける。

 ひとまず身近なところから整理していこう。

 ブリテンに関しては今、アーサーの替え玉がかなり頑張っている為むしろ今は帰ってやらないほうがいいらしい。マーリン曰く彼が成長するきっかけになるだろうということだが、完璧に囲われているその替え玉さんに関してはもう頑張れとしか言いようがない。

 ベンウィックは魔者が入り込むという騒動があったがそのほかは問題なく復興作業は続いているという。エイトも無事にブリテンに戻り、替え玉さんを手伝ってくれているそうだ。

 そして例の魔法馬バイク乗りについてだが、これに関してはマーリンでも分からないという。魔法馬バイク乗りの彼、死んでないだろうか。

 あとラビットについてなんだが、彼はアーサーについては彼の中でなにか納得してしまったらしい。


「マーリンのいうことは八割嘘だって思えば大丈夫だってサファイアがいってた」

「なるほど」


 さて、次は外の世界の出来事か。現在この大陸に存在している複数の王が同時に戦争している、またはしようとしている件について。

 前提条件としてまずは「異説・湖の剣」の話をしておかなければならない。「湖の剣」、これは一般的に言えば聖剣エクスカリバーの事を指す。先代ブリテン王ペンドラゴン=アルトリウスが所持していたとされる剣でもあるのだが、まぁこの話は置いておく。

 聖剣エクスカリバー、王の器に相当する精神の持ち主のみを選ぶとされるまさしく伝説の中の聖剣。そのとおりに王の手に渡り歴史を作ってきたとされているのだが、これは王の器に相当する精神の持ち主が一人だった場合なのだという。一人ならばそれを選ぶしかない、他に余地などないのだから問題はおきるはずもない。だがもしもそうでなかった場合は?

 もしも、王の器に相当する精神の持ち主が複数いた場合は、どうなるのだろう。

 稀なことではある。だが完全にないわけではない。ほぼ運任せの状況下でも聖剣は主を選ばねばならないし、王の器はそれに選ばれることを望むそうだ。だが良いことなのか悪いことなのか、聖剣はやはり道具でしかないわけでありまして。同じ条件を持つものが複数いる中で一人を選出できるほどの知性は持ち合わせていないのだという。


 ざっくり結論をいえば、王の器を一人にするために王の器同士が潰しあう破目になるわけだ。もっと簡単に言えば聖剣の所持権を賭けたバトルロワイヤルだ。そういった状況下に置かれた場合を考えて継ぎ足すように書かれたのが「異説・湖の剣」なのだが。


 出来の悪い小説かよと思うのだが、これが「実際に今起きてしまっている」そうだ。そしてその出来の悪い小説だと本当に思い込みたい異説・湖の剣の再現にアーサー自身も巻き込まれつつあるらしい。

 ふざけんなジジイ。そう吐きたくなるのも仕方がないだろう、だって潰しあいだぞ。争いごとは苦手なんだよやめてくれよといいたい。つかなんだよなんで再現できちゃってるんだよ、ここそういうこと起きるぐらい幻想満ちていたか?


「アーサー、この国が現存してる時点でもうアウト余裕ですっとんでると思うぜオレは」

「せやな……」

「ししょーアーサーの目が死んでるんですけどー」

「きっと疲れているんだろう、そっとしておこう」

「誰のせいだと思ってやがるクソジジイ」

「聞こえないな、耳にマシュマロが刺さっているんでな」

「そのまま鼓膜までつっこんでやろうか」


 情報整理を続けよう。

 再現……分かり辛いから異説の中で使われた「聖剣争奪戦」という単語を使うことにしよう。聖剣争奪戦は確かに今起きている、それが6の王と5の王が引き起こしている戦争とイコールになるのだが。唯一、現状と異説の内容と違う部分がある。それぞれが「聖剣の名を冠した武器」を所持しているという部分だ。

 ロト王の所持しているコールブランドも武器たちの一つであり、今イヤーカフの姿になっている相棒カリバーンもまたそうであると。6の王はそれぞれの「聖剣の名を冠した武器」を持って戦争を仕掛け、その武器を集めようとしているそうだ。簡単な話だ、全てを集めきったものに聖剣エクスカリバーの所持権が与えられるのだろう。


「「聖剣の名を冠した武器」は全てで6つだとされているぞ」

「曖昧だな」

「ジジイなんでな」

「なぁなぁ、それ6つだとしたら盛大に数合わなくね?」

「誰かがパチモン使ってるとか」


 キミら勘良すぎないかいというマーリンのぼやきはさておき、大雑把な部分はまぁそういうわけだ。6の王の詳細はロト王以外は不明。


「あ、もしかしてあれか。オレんとこのねぇ……、姫様ってそれ参加してるかもしんねーわ」

「えっ」


 まじですかラビット君。

 

「ウリエンス領の姫、実質の王は確かローザといったか」

「そうそう、薔薇の魔女ローザ。最近先輩たち忙しくなったみたいだし、向こう岸との戦争にしては様子が変ってかピリピリしてるし」


 国の姫様のこと魔女ってキッパリ言い放っているがそれはそれでいいのかラビット君。というかこのハイドレンスも聖剣争奪戦に参加しているのか怖い。純粋に自分の運が怖い。あと向こう岸との戦争ってなんだいラビット君。

 ラビットはちょいちょいと手招きをする、耳を貸せということなのだろうか。


「大きな声じゃいえないけど、アーサーが落ちたあの湖の向こう岸……リエンス領っていうんだけどな? ウリエンスとリエンス今っていうか昔から戦争状態なんだよ」


/


「で」

「はい」

「何で俺ら捕まってるの」

「とりあえずオレは巻き込まれただけだと思う」


 詳しい話を聞こうと口を開いた瞬間だった、喫茶店に魔法使いが箒に乗って突っ込んできたのだ。あまりの急速な事態に何も出来ず、あっさりとそのままアーサーとラビットは捕獲されてしまった。マーリンはといえば気が付いたときにはいなかった、また逃げやがったあのジジイ。もういっそあの逃げ足だけは尊敬しよう、あの逃げ足だけは。


「どうするんだ? オレ、此処入るの三回目だから脱獄余裕だけど」

「その年で前科持ちなのか!?」

「んや、前回も巻き込まれ」


 脱獄は流石にやめておくとして、アーサーはぐるりと周囲を確認する。檻と呼ぶより篭の中、篭の中というより鳥かごの中か、付近には足場らしきものはなくこの鳥かごは太い鎖によって吊るされている。地面は覗き込んでも目視できないことから、この鳥かごはかなりの高さにあるか地面との距離を確認できないようになっているかのどちらかだろう。

 さしずめ空中牢獄とでもいうべきだろうか。


「考えるなぁ」

「でもこれ慣れるとわりとすぐに脱走できるぜ」

「それは困りものだな」

「えぇ、本当に困りものだわ」


 空中牢獄に響く女性の声、初めて聞くものだろう。それが今自然に割り込んできた。カツカツとヒールを鳴らしているのだろうか、暗闇から近づくそれはわりとすぐに鳥かごの近くにやってくる。


「招待しようとした方に逃げられては、お茶会も開けないわ。ねぇ、アーサー様?」


 紅のドレスを纏った魔女としかいいようがないそれは、愉しげにくすくすと妖艶な笑みを浮かべた。

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