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導師アーサーの憂鬱  作者: Namako
2-11:リソースストライク
132/134

番外◇ある書記と少年の話。

出すかどうか迷ったけど本編詰まってるので出しちゃえ理論。

「前略そういうわけでクラウン*2武芸大会をすることになった! レギュに関しての質問はあるかハイ挙手順!」

「先生参加レギュ項目に人間とありますが一度くたばった死者は人間に含まれますか!」

「カウントするぞそうしないと大部分が参加できないからな!」

「半捕喰者はカウントされますか!」

「されます!」

「やったーーーーーー!!」

「神融種は!?」

「能力パラメータ寄越せ懇切丁寧に専用項目作ってやるから!」

「っしゃあ!!」

「王の系譜は」

「問答無用で運営側だバカヤロー」

「うわあああケチ! アーサーのケチ!!!! 鬼!! 悪魔!! リビングデッド!!」

「お前に言われたくねえよ屑鉄のカカシ!!!! 他質問あるか!?」

「はいはーいレギュ3.0だけど+αって特殊ルール入るの?」

「個人戦に調整したものを使う、詳しくは56p参照してくれ」

「出店でバイトしていい!?」

「したきゃやれ不正したら殺すからな!」

「バナナはおやつに入りますか!」

「入りません!!!!」

「なんでや果物やろ!!!!」

「出店の買え!! 金落とせ!!」

「東物の仕入れが発注ミスしちゃったらしいから出店だしていいですか!!」

「書類作ってもってこい!」

「ありがとーーーー!!!! お前のそういうところ好きーーー!!!!」

「気持ち悪いわ座れ!! 座れ!!!! 次の議題いくぞ!!」


 ──


「とまぁ大体こんな感じだ、大丈夫か? 大丈夫じゃねえな」


 書記室の一席。ステレオだとか立体音響だとか、そういうレベルの騒音ではない録音音声に青年は魂が抜けかけた。

 ……先に状況を記述しようか。

 青年はブリテン王国に努める議会書記見習いである、議会書記というのは読んで字の通り書記だ。ありとあらゆる会議の記述を特殊な記録紙に刻む、専門職である。刻まれた記述は未来永劫保管され、事実として語り継がれることとなる。歴史を紡ぐに等しい大切な役職なのだ。そして今日、青年は長い訓練の日々を終えて実戦に足を踏み入れることを許可された。

 異説同盟と呼ばれる、今この大陸においての最高機関の書記見習いに。

 これはとても栄誉なことだ、まだ見習いだがいずれ本物だと認められれば、歴史書……真実の書に触れることを許されるようになる。誰かに褒められることはなくとも、歴史という波を刺繍するその重大さは計り知れない。そういうわけで青年は先輩書記に連れられ、リハーサルだと昨日開かれた実際の会議の内容を聞いていたわけだ。

 それが、その……あれなわけで。


「一応言っておくが、この密度×三倍が毎回だ」

「まいかい」

「今聞かせたほうはマシなほうだ」

「まし」

「そうだ」

「これ以上のが、あると……?」

「おう、割と頻繁に」


 我らが国王陛下の頭の回転はどうなっているのだろうか。

 ブリテン国を統治しているのは、17歳という若さで王の導師マーリンに選ばれた少年だ。この国の王は代々血ではなく導師が定めて受け継がれる、血による継承はこの国ではそう重視されないものなのだ。かつては血筋による継承を絶対にしていた時代もあったが、どうにも記述に残せないほどの災害が起こったらしく今は忌まわしきものとして認識されている。この国は、悪しきものに対抗することだけはどの国よりも手が早い。

 しかしそれでも17歳という異例の若さは王城をしばらく騒ぎ立てるぐらいの異例だった。何人もの陰謀家が王を殺そうとしたのだと聞く。しかし、現に王はその冠を戴いた。ということはそれらすべてをねじ伏せたのだ。噂を愚直に信じるならばそうなる。しかして真実はいかほどに。


「不安になるのも仕方がない話だが、お前がついた仕事はこういうもんだ。慣れろ」

「うぃっす。ですがその、いくつか質問をしても」

「いいぞ、何でも来い」

「陛下は何者ですか」

「少なくとも普通じゃないよな」

「えぇ……」


 先輩は困ったように「言いようがないんだ」と笑った。

 それを言ってしまったらこの大陸に生きる人の大部分が「言いようのない人間」になるような気がするのだが、いいのだろうか。この国もどこの国も、果ては外の国の人間でさえも。皆事情は複雑怪奇、ひとえに語れるものではない人生を送っている。自分もその一人であることは言わずもがな、むしろそれが普通なのだと思って今の今まで生きてきた。

 ……書記は、他の人の人生を見る仕事だ。

 だから余計に、感覚はひどく麻痺している。


「少なくとも悪意で動く方ではないし、人のことをよく見ている方だ。俺の名前も覚えられていたからな、お前も多分かお覚えられてるぞ」

「はは、そんなまさか」


 流石にありえないのではなかろうか、青年はこの時首を振った。

 ありえない、だって一国の王で陛下だ。どれぐらいの人間がこの城に出入りしているのか、分かったものではない。自分なんて末端も末端、しかもまだ見習いだ。名前は覚えられていても顔まで一致するわけがない。遠い存在だ、この時はそう思っていた。

 そう思っていたのだ。



「──。ちょっと聞きたいんだがいいか?」


 そんなありえない、と否定した数日後。図書室にて本の整理をしていた青年の名がふいに呼ばれた。

 振り返れば至極当然といわんばかりの様子でアーサー様が青年を見ており、青年は一瞬何が起こったのかよく分からなかった。なんでこんなところにいらっしゃるのですか、えっ今自分の名前を呼んだ? 気のせいか?


「あれ、もしかして間違っていたか? 《──》だと記憶していたんだが……」

「い、いえっあの、はい、自分です自分にななな、な何か!」

「あー落ち着け、怖くないから。怖くないから落ち着け」


 緊張でガタガタになりながら青年はなんとか深呼吸する、ぶっちゃけていえば青年は小心者だった。いや誰でもこうなるだろう、自身の仕えている国の王がまるで気さくな友人に問うとうに声をかけてきたのだ。

しかも名指しで、名指しでだ! 驚かない方がおかしいだろう。

 陛下はどうやら借りていた本の返却にきていたらしく、「「ニ」の棚ってどこだったっけ?」とまた気さくに聞く。

 ニの棚は青年が整理している棚の上段にある。またガタガタになりながら青年がニの棚の場所を教えると、ごく自然にアーサー王は備え付けの梯子を上ろうとした。


「自分がやります! 当番なんですっ」

「いいのか?」

「ひゃい」


 自身よりも小さな背と遥かに若い陛下はまるで本当に少年みたいに笑い「そうか、ありがとう」と青年に本を手渡した。童話集だったがそんなことよりも実に焦った。

 聞いたことがある、不思議なことに陛下は近辺のことを誰かに任せずに大体自分でやりたがると。放っておいたら箒も握るしゴミ袋だって引きずる、王族らしくない、まるで普通の人みたいに生活したがる節があると。

 まるで本当に普通の人ではないか。

 記録で聞いた声とは想像もつかないほどに。


「梯子登るついでで頼んでいいか?」

「なんなりとっ」

「いや落ち着けって……えーと妖精の騎士シリーズ、そこにあるんだろ。五巻目とってくれないか」

 

 意外な注文に目をぱちくりさせながら青年は梯子を登り、上段の棚に童話集を収めてからまた別の童話を指でなぞりながら探す。妖精の騎士シリーズ、この国ではかなり有名な部類の創作童話だ。子供向けの童話だ、むしろどうしてこのような本を? とは聞けない。

 しかし、どうにも今日は間が悪く。妖精の騎士シリーズの四巻目から六巻目は借りられていたらしい。


「あ……あの。申し訳ありません、今貸し出されているみたいで……」

「ん、そっか。じゃあいいや」

「すいません」

「あなたが謝る話じゃないだろ? ……しっかしここでもないか、やっぱり人気なんだなぁ……」


 正論。

 梯子を下りて青年はその切り返しに少し驚きながらも、王が童話に興味を持っていることが不思議でならなかった。ふと思わず興味があるのかと聞いてしまう。普段ならば絶対に聞けないはず、だというのに本当に自然に。


「あぁ、童話とたかくくっていたら意外と面白くてな。読んだことあるか?」

「一通りは。……好きなんですか?」

「好きというか、読みやすくてな。難しい言葉あんまり出てこないだろ」

 

 それに。

 どこか寂しげな吐息を次いで。


「似てるんだ」

「え?」

「騎士の家族で出てくるおじいさん、毎回出てくるだろ。……育ての親に似てるんだ」

 

 曰く、文字や言葉を教えてくれた育ての親に重なって見えて懐かしくなるのだという。

 少年の顔で王が笑う、まるで自分自身の秘密を少しだけ明かす子供のように。


「家族ってああいうのを言ったんだろうな」


 完全に私事だけどなーと王はケラケラ笑うが、その一瞬の刹那に青年はふと思った。この少年がまるで立場を忘れたように城を歩くのは。この人が多くの名と顔を覚え気さくに話しかけてくるのは。青年には目の前の王が、今の刹那だけただの少年に見えて仕方がなかった。


「……陛下、」

「ごめん、変な話したよな。忘れてくれ」


 本当はただ、寂しいだけなのでは……?

 またなぁと王は手を振りその場を去ろうとする背に、青年は少し悩んだ。声をかけていいものだろうか、出すぎたことではなかろうか。仕えるものがしていいことなのだろうか。

 あぁでもこのお方なら。 


「あのっ、五巻目、自分もってるので持ってきましょうか……?」

「えっ」

「妖精の騎士の……」

「いいのか? ──の私物だろ……?」

「今はもう読んでいないので……」


 振り返った少年の顔が年相応よりも少し幼く、それでも憂鬱そうな顔が明るくなったのを青年は見て安堵する。

 なんともいえないお方だと先輩は言った、きっとその通りだ。

 王らしくない、きっとその通りだ。


「ありがとう! 実はつづきが気になって仕方がなかったんだ!」


 この人は大抵のことを、笑って済ませてしまう普通の人間なことには変わりないのだから。

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